15話「貴公子誕生! お兄様は過保護過ぎます!」
翌日から、ラインハートは宣言通り勉強に熱心に取り組んだ。
先生にどんなに難しい課題を出されても、嫌味を言われても、叱責されても逃げ出さなかった。
使用人が彼を嘲笑しようと、気にも留めなくなった。
ラインハートは地頭がよかったのだろう。
彼はスポンジが水を吸収するように、どんどん知識を吸収していった。
彼はマナーの授業にも熱心に取り組んだ。
努力と根性に持ち前のセンスが加わり、彼の動きは日に日に洗練されていった。
運動神経が良くリズム感もあったようで、ダンスのステップも軽やかに習得している。
半年が過ぎる頃には、彼は私の授業を追い越し、私より難しいことを学んでいた。
テーブルマナーを完璧にマスターし、彼の身のこなしは気品に満ちていた。
ダンスに至っては先生を越えていた。
もう、ラインハートのことを薄汚い第二王子と罵るものはいない。
彼は誰もが認める立派な貴公子へと成長したのだ。
◆
ラインハートの学力が向上し、マナーとダンスを完璧に習得したので、彼の授業は次の段階へと進んだ。
今日から剣術の稽古が始まる。
半年後に剣術大会が開かれることも関係している。
隣国の王太子こと原作メインヒーローのクロードが、半年後に来訪することが正式に決まったのだ。
クロードは、帝国の騎士団長のお墨付きの腕前だ。
この時点で、騎士団に彼より強い者はいないと言われている。
原作の剣術大会もクロードが優勝した。
原作のラインハートに、剣の師匠はいなかった。
その上ご飯もろくに与えられておらず、観衆の前で戦うのが始めてだった。
当然、クロードに惨敗してしまう。
大会で深い傷を追ったラインハートに、駆け寄る者はいなかった。
彼は怪我をしたまま放置されてしまう。
しかも観客から「無様だ!」とやじまで飛ばされる始末。
泣きっ面に蜂とはまさにこのこと!
原作を読んでいて、涙したシーンだ!
原作のラインハートが、クロードをやたらとライバル視していたのは、剣術大会のトラウマも影響しているのだろう。
私の目標は、ラインハートを半年間めっちゃ鍛えて、大会で優勝させること!
今からしっかり鍛えれば、クロードにだって負けないはず!
大会の優勝は、ラインハートの自信に繋がるはず!
学園でヒロインと会っても、気後れしないでガンガン攻められるはずよ!
原作の挿絵では、ことあるごとにクロードがヒロインといちゃついていたけど、その座をクロードから奪い取るのよ!
私は特等席で、ラインハートとヒロインのイチャイチャするのを眺めるわ!
彼らのイチャイチャを後世に残すために、今から絵を習おうかしら?
二人の尊い逢瀬を私だけが鑑賞するなんてもったいないもの!
◆
そんなわけで、私はラインハートと共に稽古場へ向かっている。
「きゃーー! 第二王子殿下よ!」
「最近、ますます凛々しくなられたわね!」
「ラインハート殿下、素敵!」
食事と適度な運動が効いたのか、ラインハートはすくすくと成長している。
私との身長差は広がる一方だ。
出会った頃のやせ細った少年はどこにもいない。
オートクチュールでジュストコールを纏った彼は、どこからどう見ても立派な王子様だ。
ラインハートは顔立ちの美しさもさることながら、人を魅了する色気がある。
すれ違った若い侍女や文官が、彼に見とれてしまうのも納得の麗しさだ。
私は、とんでもないものを育ててしまったのかもしれない。
「ラインハート兄様、相変わらず凄い人気ですね」
彼がボロを纏っていたときには見向きもしなかった人たちが、今の彼を見て目をハートにしているのは複雑な気分だわ。
というか、若いと言っても侍女の年齢は十六歳くらいだ。
五歳も年下の美少年にキャーキャー言うってどうなの?
みんなショタコンなの?
「興味ない」
ラインハートは侍女の方をちらりとも見ず、冷たく言い放った。
クール系王子様だわ!
ヒーローはそうでなくちゃいけないわ!
侍女にキャーキャー言われて、鼻の下を伸ばしているようではヒーロー失格よ!
勘違いされてストーカー化されたら困るから、本命以外には冷徹に接しないとね!
「レイア王女だ! 今日も可憐だなぁ!」
「王女殿下はいつ見てもお美しい」
「あのお姿を見るために、オレは第三離宮に仕えている!」
すれ違った若い見習い騎士がそう言って頬を染めた。
私まだ十歳なんだけど……。
みんなロリコンなの?
身の危険を感じ、彼らから距離を取ると……。
ラインハートが私の肩に手をおき、抱き寄せた。
彼は鋭い目で見習い騎士を睨みつけた。
「さてと、そろそろ持ち場に戻ろうかな!」
「俺も……!」
見習い騎士たちはラインハートから視線を逸らし、逃げるように駆けていった。
「心配するなレイア。
ああいう輩からは俺が守る!」
ラインハートが、目を細め真っ直ぐに私を見つめた。
凛々しい表情だわ!
うっかり見惚れてしまったわ!
学園に入ったら、その言葉をヒロインちゃんに言ってほしいわ!
それまでは、ラインハートに悪い虫がつかないように私がしっかりと守るからね!
ちょ〜〜っとシスコン気味に育ちつつあるけど、「妹思いの兄です!」と紹介すれば、むしろプラスのはず!
「ラインハートをクロードを超えるハイスペ男子に育てて、ヒロインとくっつけよう作戦!」は順調ね!
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