13話「今明かされるラインハート出生の秘密!?」ラインハート視点
――ラインハート視点――
第三離宮について来られてから二週間が経過した。
ブレンダ様にきつく叱られたからか、あの日以来レイアが寝室に侵入してくることはなくなった。
俺の安眠が保証されたのは嬉しい。
ここにいるとレイアを意識してしまうので、俺は第二離宮に帰ろうと思っている。
だが、俺が逃げ出す度に、レイアが追ってくる。
こっちは、レイアを妹だと思えないから距離を取ろうとしてるのに……。
あいつはそんな俺の気持ちを知らないで、グイグイ距離を詰めてくる。
◆
一週間前から、文字やマナーやダンスの勉強が始まった。
レイアは俺の知らないことを何でも知っていて、先生からの質問にも的確に返答していた。
俺は簡単な文字すら読めず、ダンスのステップも踏めず、王族としての作法もわからない。
教育係が落胆した顔でため息を吐き、侍女が蔑んだ目でクスクスと笑った。
レイアの前で失態を晒した上に、周りの人間に笑われて……。
悔しくて、恥ずかしくて、いたたまれなくて……気がついたら部屋を飛び出していた。
◆
「ラインハート兄様〜〜!
どこですか〜〜!」
レイアが俺を呼んでる。
だが、出て行く気にはなれない。
がむしゃらに走った俺は、適当な部屋に逃げ込み、吸い込まれるように大きなタンスの中に隠れた。
よく見ると、タンスの中にはシーツやタオルがたくさん積まれていた。
タオルからは、かすかに石鹸の香りがした。
おそらく、洗濯したものをしまっておく部屋だろう。
あいつも、ここまでは探しに来ないだろう。
「先輩、天気がいいから洗濯物がよく乾きますね」
「どっこらせ、少しここで休憩して行こうかね」
このまま昼寝でもしようかと思っていたら、部屋に誰かが入ってきた。
おそらく洗濯物係の侍女だろう。
声の感じからして片方は年老いていて、片方はかなり若い。
彼女たちは、タンスの奥に人が隠れているなど思っていないのだろう。
「こんにちは!」
その時、扉を開ける音と共にレイアの声が聞こえた。
俺の心臓がビクンと跳ねた。
「お、王女殿下!?」
「ど、どうしてこのような場所に……!?
わ、私たちは、べ、別にサボっていた訳では……!」
侍女も突然の王女の登場に驚いているようだ。
「ラインハート兄様を探してるんです。
この部屋に来ませんでしたか?」
「第二王子殿下ですか?
あいにく見ておりません」
「そう、わかったわ。
見かけたら教えてね。
全く、兄様ったらどこに行ってしまったのかしら……」
扉が閉まる音のあと、遠ざかっていく足音が聞こえた。
俺はほっと息を吐いた。
見つからなくてよかった。
「驚いたね、こんな場所に王女殿下が来るなんて」
「サボってるのがバレたかと、一瞬ヒヤッとしました」
安堵したのは侍女たちも同じだったようだ。
「レイア王女は、ラインハート殿下とよく一緒にいますよね?
今日だってあんなに必死に探して……。
お二人は仲が良すぎます。
手を繋いで歩いたり、抱き合ったり、兄妹なのにまるで恋人同士のようだわ」
若い侍女の言葉に、胸がざわついた。
周りからは、そんな風に見られてたのか?
「少し距離をおくように進言した方がいいかしら?」
「止めときな。
侍女の言葉なんか誰も聞かないよ。
それに、お二人がくっつくことこそが国王陛下の狙いなのさ」
何かがきしむ音が聞こえたので、彼女が椅子に腰掛けたのだと俺は推測した。
国王の思惑!?
気になる!
「先輩、それはどういうことですか?」
「休憩のついでに、昔話をしようかね。
聞きたいかい?」
「もちろんです!」
若い侍女は、興味津々のようだ。
「昔……第二王妃トリシャ殿下が生きていた頃……。
今から十一年以上前の話さ。
私は、第二離宮に勤めていた」
第二王妃は俺の母だ。
俺は、母のことをほとんど何も知らない。
母のことを知りたい!
俺はドアに耳を当て、話の続きを待った。
「先輩、第二離宮にいたんですか?
初耳です!」
「あんたがこの城で働く前の話だからね。
その頃の陛下は若さゆえに旺盛なエネルギーを持て余し……平たく言えば美女に目がなかったのさ」
国王のことはよく知らないが、第三位まで王妃がいるんだから女好きなのは間違いない。
「トリシャ殿下は北方を納めていたグレッチャー王国の王女様だった。
最も、嫁いできた時には国は滅びてたけどね」
グレッチャー王国……それが母の祖国の名前。
今はもうない国の名前に、どうしてこんなにも心が揺り動かされるのだろう?
「傾国の美女とは、ああいうお方を言うんだろうね。
トリシャ殿下は、黒く長く艶のある髪、黒真珠の瞳、陶器のように白い肌、手足は細く長く、人形のように美しい方だった」
俺の髪の色は母親譲りだったようだ。
「当時陛下はトリシャ殿下にたいそう入れ込んでいた。
多くの貢ぎ物をし、彼女の為に立派な離宮をこさえた」
俺が物心ついた時には、第二離宮の外壁には蔦が絡まり、煉瓦にはところどころヒビが入り、庭は草ボーボーで、室内は埃だらけで、かなり寂れていた。
今からでは想像もつかないが、建てられた当初はさぞ美しかったのだろう。
「ここからが本題だ。
トリシャ殿下は、結婚前から妊娠していたという噂があった。
ラインハート殿下が生まれたのが、予定日より早かったから、その噂の信憑性は増した」
「えーー!
托卵されたってことですか?
それが本当なら大事件じゃないですか!?」
心臓がドクンと大きな音を立てた。
俺が国王の子じゃない……?
そんなこと、有り得るのか……!?
謁見の間で会った国王の瞳は緑だった。
俺の瞳は金色、侍女の話では母の瞳の色は黒。
俺の瞳の色は、実の父親に似たということか?
「そのことを陛下はご存知なんですか?」
「薄々は気づいていただろうね」
「知っていて、ラインハート殿下を生かしておいたんですか??」
「托卵を許容できるほど、トリシャ殿下は美しかったのさ。
陛下は一人目が他人の子でも、二人目、三人目が自分の子ならそれでいいと思っていたんだろうね。
一人目の子供を人質にすれば、第二王妃殿下を言いなりに出来るからね」
「うわ〜〜、ドロドロしてますね。
第二王妃殿下は、私なんかが想像できないくらいお綺麗だったんでしょうね」
「あの方の美しさは実際に目にしたものにしかわからないよ。
容姿が整っているのもあるが、人を惹きつける不思議な魅力がある方だった」
俺は母のことを何も知らない。
乳母や侍女に尋ねても、何も話してくれなかった。
もしかしたら、母の死後に第二離宮で大規模な使用人の入れ替えがあったのかも?
だから、誰も母の容姿や性格について答えられなかった?
ここで母のことを知れたのは、幸運かもしれない。
俺は心の中で、年老いた侍女に感謝した。
「だけど、トリシャ殿下はラインハート殿下を生んですぐ逝去された。
陛下はそれはそれは悲しまれた。
愛する人を失ったというより、お気に入りのおもちゃが自分が遊び尽くす前に壊れた……そんな感じの落ち込み方だったね」
「それは、ちょっと第二王妃殿下が気の毒ですね」
それは俺も同感だ。
国王にとって、俺の母は珍しい玩具の一つだったということか?
母に対して余りにも失礼だ!
「陛下は残されたラインハート殿下に興味を示さなかった」
「酷〜〜い」
「同じ頃、第一王妃殿下がワグナー殿下を出産していたからね。
ワグナー殿下がいるなら世継ぎには困らない。
下手にラインハート殿下をかまって、第一王妃殿下の嫉妬されるのも面倒だったんだろうね」
「だからって……」
「陛下はラインハート殿下をどう処理するか、頭を悩ませていた。
自分の子供か怪しい子を世継ぎにはできない。
さりとて城の外に出して、他人に利用されたら面倒。
殺す勇気もない。
だから、第二離宮に閉じ込めたのさ。
最低限の使用人だけ残してね」
「ラインハート殿下が気の毒です」
若い侍女の声はかすかに震えていた。
俺は自分の半生を嘆く気はしなかった。
ただ自分の置かれた境遇に納得がいった。
第二離宮が寂れていたこと。
使用人がほとんどいなかったこと。
教育を受けられず、まともに着る物も食べ物も与えられなかったこと。
俺が国王の子供ではないから……。
いてもいなくても、どうでもいい存在だから。
だから放置されていた。
国王からすれば、殺すのは面倒だから勝手に死んでくれという感じだったのだろう。
国王を恨む気にはなれない。
そんな感情すら湧かないほど、どうでもいい存在だった。
それは国王にとっても同じだろう。
これからもお互いに干渉せずに過ごしたい。
「でも先輩、国王陛下はラインハート殿下を放置してきたのに、今になってなぜ第三離宮で暮らすことを許可したんですか?
お風呂に入れて、栄養のあるものを食べさせて、服を新調し、教育係まで雇って……」
そこは俺も疑問だった。
今になってなんで?
「第三離宮には、レイア王女もいらっしゃいます。
ラインハート殿下は、教養もないし、礼儀作法もまるでなっていません……」
余計なお世話だ。
「ですが、お顔だけはとびきり良いです!
レイア王女がラインハート殿下に恋してしまったら……!?
お二人には血の繋がりはないわけですし、万が一ということも……!」
若い侍女の言葉に胸がドキンと跳ねた。
レイアが、俺を兄としてではなく一人の男として好きになる!?
そんな可能性あるのか?
「事情が変わったのさ。
ラインハート殿下とレイア王女が神獣の加護を受けた。
それに対して、ワグナー殿下は神獣に危害を加え、神獣の怒りを買った。
神獣に疎まれている者が国を継いだら、どんな災が降りかかるか……。
陛下はあれで迷信深いところがあるからね。
ワグナー殿下を見捨てることにしたんだろう」
「ワグナー殿下もお気の毒ですね。
生意気で、使用人への態度が悪くて、横柄で、乱暴で、性格がひねくれていて、根性が悪くて、意地悪なだけなのに……お世継ぎから外されるなんて。
あれ? よく考えたら、あんまり気の毒ではありませんね」
ワグナーは見捨てられるだけのことをしている。
同情に値しない。
「レイア王女とラインハート殿下が結婚すれば、神獣の加護を王家で丸ごと取り込める。
グレッチャー王国の残党が謀反を企てるなんて噂があるし……。
ラインハート殿下が、国王もしくは王配になれば彼らも大人しくなるだろう。
一度に三度美味しいってわけさ」
……ドクン!! と大きく心臓が鼓動した。
俺とレイアが結婚……!?
俺たちが結婚することを周りも望んでいる……?
「お二人に血の繋がりがなくても、世間的には腹違いの兄妹ということになってるんですよね?
それで結婚できるんですか?」
「ラインハート殿下の出自を国民にどう説明するかについては、陛下が側近を集めて話し合ってるんじゃないかね」
俺はレイアを好きになっていいのか……?
彼女を恋愛対象として見ても許されるのか……!?
「さて、そろそろ戻ろうかね。
あまり長居していると、執事長にお説教されちまう」
「そうですね」
「今日の話はここだけの秘密だよ」
「はーーい」
二人の侍女が部屋を出ていく音を、俺はタンスの奥で聞いていた。
読んで下さりありがとうございます。
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