11話「見た目は妖精! 中身はおもしれー女!?」ラインハート視点
――ラインハート視点――
第二離宮に帰りたかったんだが、レイアに無理やり第三離宮に連れて行かれた。
レイアの暮らす第三離宮は、俺の育った第二離宮とは大違いだった。
淡い色使いの建物は大きくて立派で、よく手入れされた庭には色とりどりの花々が咲いていた。
俺は居心地の悪さを感じ、そわそわしていた。
こんな場所、俺には似合わない。
一刻も早くこの場を離れたい。
だが、ルーディーはこの場所が大変気に入ってるようだった。
奴は薄汚れた仔犬に見えて神獣、俺なんかとは違う。
「まずは、お風呂に入りましょう!
ラインハート兄様もルーディーも泥だらけです!
そのまま屋敷に入ったら、お母様に叱られてしまいます!」
「はっ? 風呂?
いいよ、めんどくさい」
風呂になんか入ったら、帰りにくくなる。
「風呂キャンは認めません!
私が背中を流して上げますから、一緒に入りましょう!」
何を言ってるんだこいつは……!???
俺が風呂に入るのを拒否すると、レイアは俺を押し倒し、馬乗りになって俺の服を脱がそうとしてきた。
見た目はしとやかなお姫様なのに……! どこにそんな力があるんだよ……!?
「やめろ……!
女の子がはしたない……!」
俺は必死に抵抗したが、シャツのボタンをいくつか外されてしまった。
レイアと一緒に風呂なんか入ったら……! パニックで思考が停止してしまう!
そこに第三王妃が現れた。
レイアも母親には勝てないのか、すんなり俺の上からどいた。
第三王妃とレイアに、うまいこと丸めこまれ、一晩泊まることになってしまった。
その上、第三王妃のことを「ブレンダ様」と呼ぶことに……。
まぁいい。一晩泊まればブレンダ様の顔も立つし、レイアの気も済むだろう。
◆
俺が戸惑っている間に、風呂場に連れて行かれ、ルーディーと一緒に洗われた。
石鹸で綺麗に洗ってもらうなんて何年ぶりだろう?
自分の腕に鼻を近づけると、植物の爽やかな香りがした。
何だか自分の匂いじゃないみたいで落ち着かない。
風呂から上がると、新品の服を着せられた。
第三離宮にはブレンダ様とレイアしか住んでないはず。
ワグナーの服でもないようだ。(奴の服は宝石やら刺繍やらがゴテゴテついて悪趣味だからひと目でわかる)
だとしたらこの服は、どこから調達してきたんだろうか?
俺には想像もつかない、魔法みたいな方法があるのかもしれない。
新品の服を着せられ、髪を櫛で梳かされ、分け目をきっちりつけられた。
鏡の前に立った自分は、別人のようだった。
髪の毛には艶があり、服には埃一つついていない。
これが自分なんだと思うと、なんだか不思議な感じがした。
ルーディーは泥を落とされ真っ白になっていた。
ルーディーは、侍女にブラッシングされながら満足そうに目を細めていた。
綺麗に毛を整えられたルーディーは、神獣と呼ぶのにふさわしい神々しい姿をしていた。
しばらくして、レイアが俺の部屋に訪ねてきた。
彼女は紺色の飾り気のないドレスから、桃色のふわふわした可愛らしいドレスに着替えていた。
落ち着いた色合いとドレスもいいが、今着ている華やかなドレスの方が彼女には似合っている。
「花の国の妖精です」と紹介されたら、信じてしまうだろう。
それくらい、綺麗だった。
「そうだ、私も着替えたんですよ!
どうですか、ラインハート兄様?」
彼女がくるりと一回転すると、スカートの裾がふわりと揺れた。
本当に妖精みたいだ……!
「……っ!
お……女の子の服はよくわからない……!」
レイアに服の感想を聞かれたが、心臓がドキドキしてうまく答えられなかった。
◆
食事の時間だと言われたので食堂に移動した。
廊下を移動するとき、何人かの使用人とすれ違った。
彼らが俺に向ける目は、ここに来た時とは違っていた。
風呂に入る前、彼らはねずみでも見るような目で俺を見ていた。
だけど今は違う。
彼らが俺に向ける目は、ワグナーやレイアに向けるものと同じだ。
ちゃんと王族として扱われている。
そのことがとても嬉しかった。
着る服一つでこんなにも違うものなんだと身にしみた。
今の俺ならレイアの隣に立っても誰にも文句を言われない。
少しだけ自分に自信を持てた。
◆
だけどそんな自信はすぐに打ち砕かれた。
貴族や王族の食事は、ただ食べるための作業ではなかった。
美しく飾られたテーブルの上に、見たこともないような料理が並ぶ。
食事の前には祈りを捧げ、スプーンを使って優雅にスープを口に運ぶ。
きっと彼らにとっての食事は、自分がいかに格式の高い人間か、披露する場所でもあるのだろう。
俺は今まで、マナーどころか味すらも気にしてる余裕がなかった。
侍女の機嫌が悪いと、食べる前に皿をひっくり返された。
だから俺にとっての食事は、誰かに奪われないように、急いで腹に入れるものだった。
多少悪くなっていても、食べるものがあるだけマシだと思って生きてきた。
味なんかより、大切なのは量だった。
それに気づいたのはスープの皿に口をつけて、音を立てて飲んだ後だった。
使用人は、蔑むような目で俺を見ていた。
「見てくれは多少ましになったようですが、やはり育ちは隠せませんね」
「所詮は、山猿かしら」
使用人たちの悪口が聞こえる。
服を変えれば、周りの対応が変わると思ってた。
でもそれは、間違いだった。
使用人の言う通り、俺は山猿だ。
この場にはふさわしくない。
俺はブレンダ様やレイアとは違うんだ。
彼らと俺は高い壁で隔てられている。
なのにレイアは、その壁をポンと飛び越えてこっち側に来てしまった。
レイアは俺の真似をして皿に口をつけて、スープを音を立てて飲み干した。
「ぷはぁ〜〜!
ああ〜〜、美味しかった!
たまにはこういう飲み方もいいですね!」
レイアの予想外の行動に、ブレンダ様や使用人が目を丸くしている。
「お母様、お叱りはご尤もです。
王族の食事は皆の見本になるくらい、完璧でなくてはなりません。
ですが、本日はラインハート兄様もおります。
兄様はこういう場に慣れていません。
今日だけ、無礼講というわけにはいきませんか?」
レイアは胸の前で手を合わせ、ブレンダ様におねだりしていた。
可愛い!
俺だったら、すぐに許可してしまう。
だけど、ブレンダ様にその願いを聞き届けられることはなかった。
その代わり、ブレンダ様はレイアに俺の食事の介助を命じた。
レイアに「はい、あーん」と食べさせられるのは照れくさかった。
俺は赤ん坊じゃないっての!
だけど空腹だったし、それにこれがレイアの思いやりなのがわかったから……強く拒絶はしなかった。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




