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第七話 帰り道

つもレストラン・ゲロマズへご来店いただき、ありがとうございます。


今回は、少しだけ静かな一日です。


笑いもあります。


事件はありません。


でも、人と人との距離は、いつも大きな出来事で縮まるとは限りません。


ほんの少し交わした言葉。


ほんの少し流れた沈黙。


その中にも、新しい物語は生まれます。


それでは、第七話「帰り道」をお楽しみください。

閉店時間。


レストラン・ゲロマズ。


「今日も終わったダー!」


店長のピヨ田ゲロ彦が大きく伸びをした。


「お疲れ様でした。」


ブル子はテーブルを拭き終え、エプロンを外す。


シャー子は椅子に座ったまま大きな欠伸をした。


「疲れたシャー。」


「一番働いてないダー!!」


店長のツッコミに店内は笑いに包まれた。


「それじゃ、お先に失礼します。」


ブル子は裏口から店を出た。


夕焼けの風が頬を撫でる。


店の角を曲がった、その時だった。


正面入口から出てきた男と、偶然顔を合わせる。


男は小さく頷いた。


ブル子も頭を下げる。


「今日はありがとうございました。」


男は短く答えた。


「……ああ。」


行き先は同じだった。


二人は夕焼けに染まる道を黙って歩く。


沈黙は続く。


だが、不思議と気まずくはなかった。


小さな駐車場に着く。


男は一台の黒いアルファロメオ・ブレラの前で立ち止まった。


ポケットからキーを取り出す。


ウインカーが一度だけ静かに光った。


「乗るか。」


「えっ?」


「途中まで送る。」


ブル子は少し戸惑う。


「でも、ご迷惑では……。」


「帰り道だ。」


短い言葉だった。


男は運転席へ乗り込む。


ブル子は小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます。」


助手席のドアを開ける。


思っていたより重かった。


助手席へ腰を下ろす。


低く、硬いシート。


鮮やかな赤いレザー。


革の香りが静かに漂っていた。


男は静かにエンジンをかける。


低く響くエンジン音。


ブレラはゆっくりと走り出した。


街並みが窓の外を流れていく。


「車がお好きなんですね。」


ブル子が何気なく尋ねた。


男は前を向いたまま答える。


「所詮は車だ。」


少しだけ間を置く。


「人生を賭けるほどでもない。」


再び静けさが戻る。


やがて車はブル子の家の近くで止まった。


ブル子はシートベルトを外す。


「ありがとうございました。」


男は軽く頷く。


ブル子は車を降りる。


重いドアが鈍い音を立てて閉まる。


低く響くエンジン音を残し、黒いブレラは夕暮れの街へ静かに走り去っていった。


ブル子は、その姿が見えなくなるまで見送っていた。


「……不思議な人。」


男はほとんど何も話さなかった。


それなのに、なぜだろう。


もう少しだけ、話をしてみたいと思った。


ブル子は小さく笑い、家へ向かって歩き出した。


【第七話 完】

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、男の愛車「アルファロメオ・ブレラ」が初登場しました。


車好きの方なら、「なるほど」と思っていただけたかもしれません。


そして、ブル子も男も、お互いのことをまだほとんど知りません。


名前も。


仕事も。


過去も。


それでも、少しだけ相手が気になり始める。


そんな小さな変化を書いてみました。


次回からは、新しい人物たちも少しずつ物語へ加わってきます。


ゲロマズらしい笑いと、少しだけ漂う謎。


その両方を楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、また次回。

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