第六話 遅刻魔
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、ゲロマズに新しい店員が登場します。
遅刻はする。
空気も読まない。
でも、なぜか憎めない。
そんな猫山シャー子です。
一方で、静かなレストランには、また一人、新たな常連客も姿を見せます。
今日もレストラン・ゲロマズは、料理だけは期待を裏切りません。
それでは、第六話をお楽しみください。
昼の十二時。
レストラン・ゲロマズは今日も営業していた。
「シャー子さん、まだ来ないダー!」
店長のピヨ田ゲロ彦が時計を見上げる。
犬丸ブル子は苦笑いした。
「今日も遅刻ですね。」
「今日もダー!」
厨房では、けつげしげるが鍋を混ぜている。
「僕は時間どおり来てるんですけどね……。」
「シェフは普通ダー!」
その時だった。
バン!!
勢いよくドアが開いた。
「セーフシャー!」
元気な声が店内に響く。
猫山シャー子だった。
少し乱れた髪。
曲がったエプロン。
息を切らしながら笑っている。
店長は叫んだ。
「アウトダー!!」
「まだ今日は終わってないシャー。」
「三時間遅刻ダー!!」
「細かいシャー。」
ブル子はため息をつく。
「シャー子さん、急いで準備してください。」
「了解シャー。」
返事だけは立派だった。
カラン。
入口のベルが鳴る。
黒いコート。
磨き込まれた革靴。
男だった。
男は静かに窓際の席へ腰を下ろす。
ブル子が水を運ぶ。
「いらっしゃいませ。」
男は小さく頷いた。
そこへシャー子が近付いてくる。
男の顔をじっと見つめた。
「兄さんはコーヒー飲みたい顔してるシャー。」
男はシャー子を見た。
数秒の沈黙。
「……コーヒーで。」
シャー子は胸を張る。
「ほら、当たったシャー。」
ブル子は苦笑いした。
「たまたまです。」
シャー子は首を横に振る。
「違う。勘違シャー!!」
店長は頭を抱えた。
「何が違うダー!!」
その時だった。
カラン。
入口のベルが鳴る。
「久しぶりじゃの。」
ゆっくり店へ入ってきたのは、一人の老人だった。
白髪混じりの髪。
深く刻まれた皺。
穏やかな笑み。
皮皺稲荷だった。
「皮皺さん!」
田中が手を上げる。
「元気そうじゃな。」
皮皺稲荷は田中の向かいへ腰を下ろした。
ブル子が水を運ぶ。
「お久しぶりです。」
「ありがとう。」
皮皺稲荷は男へ目を向ける。
男はコーヒーを飲んでいる。
ただ、それだけだった。
「知り合いですか?」
田中が尋ねる。
皮皺稲荷は静かに首を横へ振る。
「いや。」
少し目を細める。
「深く静かな、人の心を見透かす目をしておる。」
田中は男を見た。
男は窓の外を眺めながら、
静かにコーヒーを口へ運ぶ。
店長の声。
シャー子の笑い声。
ブル子のため息。
けつげしげるの独り言。
いつものゲロマズだった。
だが――
皮皺稲荷の言葉だけは、
田中の胸に静かに残っていた。
【第六話 完】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、猫山シャー子と皮皺稲荷が初登場しました。
シャー子は、これからブル子とは違った形で店を賑やかにしてくれると思います。
そして皮皺稲荷は、多くを語らず、本質だけを見抜く人物として描いていく予定です。
謎の男は、相変わらず静かにコーヒーを飲んでいました。
ですが、その静けさの裏には、まだ誰も知らない過去があります。
その過去は、もう少し先で少しずつ明らかになっていく予定です。
次回も、レストラン・ゲロマズでお待ちしております。




