第四話 酔っ払い
レストラン・ゲロマズは今日も平常運転です。
店長は適当。
シェフは不安。
看板娘は苦労人。
そして今回は酔っ払いまで来店します。
ごゆっくりお楽しみください。
カラン。
二人の男が店に入ってきた。
酒の匂い。
大きな笑い声。
昼間から出来上がっている。
常連客の田中は小さくため息をついた。
見覚えがあった。
近くの工事現場で働いている男たちだ。
酒が入ると面倒になる。
そして今日は、かなり面倒そうだった。
「おい!」
一人が大声を出した。
「やってるのか、この店!」
「やってますダー!!」
店長のピヨ田ゲロ彦が元気よく答えた。
「そうか!」
男は店内を見回した。
「客がいるから分からなかった!」
「失礼ダー!!」
店長が傷ついた。
ブル子は慣れた様子でメニューを持っていく。
「ご注文は?」
男はメニューを開いた。
そして固まった。
「何だこれ」
「メニューです」
「それは見れば分かる」
男は指を差した。
『気まぐれ定食』
「これは何だ?」
「分かりません」
「お前もか」
ブル子は申し訳なさそうに頭を下げた。
男たちは顔を見合わせた。
そして笑った。
「面白い店だな!」
「ありがとうございますダー!」
「褒めてねぇよ!」
店長が黙った。
珍しいことだった。
その時。
男たちの視線が、
店の奥の席へ向いた。
黒いコート。
磨き込まれた革靴。
静かに食事を続ける男。
「なんだあいつ」
「さぁ」
ブル子は答えた。
本当に知らなかった。
男たちは興味を失ったようにメニューへ目を戻した。
「じゃあ俺たちも気まぐれ定食だ」
厨房の奥で、
けつげしげるが青ざめた。
「どうしましょう……」
「シェフ!」
店長の声が飛ぶ。
けつげしげるが顔を上げた。
「気まぐれてください!」
「無茶言わないでください!」
店内の静寂。
男たちは大笑いした。
やがて料理が運ばれる。
そして数分後。
事件は起きた。
「おい!」
一人が立ち上がった。
「なんだこれは!」
店内に怒声が響く。
ブル子が慌てて駆け寄る。
「どうかされましたか?」
「どうかされましたかじゃねぇ!」
男は皿を指差した。
「これ、本当に食い物か!?」
ブル子は皿を見た。
「たぶん……」
「たぶん!?」
男の声がさらに大きくなる。
店内の空気が変わった。
田中は嫌な予感がした。
男たちは完全に酔っていた。
そして、
こういう時の酔っ払いは面倒だ。
「責任者を呼べ!」
「私ですダー!」
店長が出てきた。
「帰れ!」
「私ですダー!」
話が噛み合わなかった。
男の額に青筋が浮かぶ。
ブル子は困ったように立ち尽くしていた。
その時だった。
「離してください!」
ブル子の声が響く。
男の一人が、
ブル子の腕を掴んでいた。
店内が静まり返る。
店長は固まった。
けつげしげるは厨房に隠れた。
田中は目を伏せた。
誰も動けない。
カタン。
店の奥で音がした。
男がカップを置いた。
ただそれだけだった。
【第四話 完
最後まで読んでいただきありがとうございます。
気まぐれ定食は今日も犠牲者を増やしました。
そして酔っ払いは調子に乗りました。
しかし彼らはまだ知らない。
店の奥で静かにコーヒーを飲んでいた男のことを。
次回、第五話。
たぶん誰かが後悔します。




