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第十五話 東郷玄十郎(前編)

いつも『レストラン・ゲロマズ』をお読みいただき、ありがとうございます。


笑いあり、驚きありの日常が続くゲロマズ。


しかし今回、その店に現れた一人の老人が、いつもの空気を大きく変えることになります。


東郷玄十郎。


店長やブル子には馴染みの常連。


けれど、その老人が原島修一郎と再会した瞬間、店内の誰もが想像もしなかった光景を目の当たりにします。


第十五話「東郷玄十郎(前編)」


どうぞ最後までお楽しみください。

昼の十二時。


レストラン・ゲロマズ。


カラン。


「いらっしゃいませダー!!」


店長、ピヨ田ゲロ彦の元気な声が店内へ響く。


昼時の店内は今日も賑やかだった。


ブル子は料理を運び、


シャー子は注文を聞き、


けつげしげるは厨房で黙々と鍋を振る。


いつものゲロマズ。


いつもの昼だった。


カラン。


再びベルが鳴る。


黒いスーツ姿の男が二人、先に店へ入った。


一人は入口付近を確認する。


もう一人は客席へ静かに視線を走らせた。


異常がないことを確認すると、二人は左右へ分かれ、周囲へ目を配る。


その後、一人の老人がゆっくりと店へ入ってきた。


東郷玄十郎。


八十を超えた年齢を感じさせない真っすぐな姿勢。


落ち着いた足取りで店内へ入る。


店長が笑顔になった。


「東郷さん!いらっしゃいませダー!!」


ブル子も笑顔で迎える。


「こんにちは、東郷さん。」


「こんにちは。」


東郷は穏やかに微笑んだ。


シャー子も元気よく頭を下げる。


「いらっしゃいシャー!」


東郷は軽く会釈を返し、店内を見渡した。


その時だった。


視線が止まる。


店の奥。


いつもの席。


原島修一郎が静かにコーヒーを飲んでいた。


東郷の表情が変わる。


驚き。


そして安堵。


東郷は修一郎から目を離さない。


ゆっくりと歩き出す。


ブル子は首をかしげた。


「東郷さん……?」


店長も不思議そうに見つめる。


東郷は修一郎の席の前で足を止めた。


修一郎はコーヒーカップを静かに置く。


ゆっくりと顔を上げる。


目が合う。


そして、小さく笑った。


「久しぶりだな。爺さん。」


その瞬間。


用心棒の一人が修一郎の前へ一歩踏み出す。


「貴様!口を慎め!」


その声と同時に、もう一人の用心棒も素早く身構えた。


二人の鋭い視線が修一郎へ向けられる。


店内の空気が一瞬で張り詰めた。


ブル子は思わず息をのむ。


店長の笑顔も消えた。


シャー子も動きを止める。


しかし――


東郷が静かに口を開いた。


「やめなさい。」


穏やかな声だった。


だが、その一言だけで二人の用心棒は動きを止める。


「しかし!」


東郷は修一郎から目を離さない。


「貴方達では、このお方には敵いません。」


「まずは、無礼をお詫びしなさい。」


二人の用心棒は互いに顔を見合わせる。


やがて修一郎へ向き直り、深く頭を下げた。


「……失礼いたしました。」


修一郎は静かにコーヒーを一口飲む。


カップをソーサーへ戻した。


「主人に忠義を尽くしているだけだ。」


「気にするな。」


東郷は静かに姿勢を正す。


「原島様、お久しぶりでございます。」


そう言うと、深々と頭を下げた。


その姿を見た二人の用心棒は目を見開く。


ブル子は言葉を失った。


店長も息をのむ。


シャー子も目を丸くしたまま動けない。


誰一人として、目の前で起きている出来事を信じることができなかった。


【第十五話 前編 完】

第十五話「東郷玄十郎(前編)」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は笑いを少し抑え、静かな緊張感を大切にした一話となりました。


東郷玄十郎が原島修一郎に見せた深い敬意。


それを目の当たりにしたブル子たち、そして二人の用心棒。


店内に流れた沈黙は、これまでのゲロマズでは見たことのない空気だったかもしれません。


この再会が何を意味するのか。


その答えは、まだ誰も知りません。


次回、中編では東郷と修一郎、二人だけが知る過去が少しずつ姿を見せ始めます。


引き続き『レストラン・ゲロマズ』をよろしくお願いいたします。

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