第十三話 コードネーム・レインメーカー(後編)
いつも『レストラン・ゲロマズ』をお読みいただき、ありがとうございます。
第十三話は、いつものゲロマズとは少し違う空気でお届けしました。
笑いの裏側で静かに動き始めた、原島修一郎の過去。
「コードネーム・レインメーカー。」
その一言から始まった物語は、まだほんの入口に過ぎません。
どうぞ最後まで、静かな緊張感と余韻をお楽しみください。
雨は静かに降り続いていた。
誰も口を開かない。
マテオとサントスは、自分たちの席へ戻っていた。
コーヒーは、まだ少しだけ残っている。
マテオはカップを持ち上げ、一口飲んだ。
「……。」
サントスも黙って飲む。
二人とも、もう修一郎を見ようとはしなかった。
伝言は伝えた。
返事も受け取った。
それ以上は、自分たちの仕事ではない。
ブル子は、その二人を不思議そうに見つめていた。
敵には見えない。
友人にも見えない。
それでも、原島修一郎を知っている。
それだけは確かだった。
店長は空気を変えるように声を張る。
「ブル子ダー!」
「はーい!」
「四番テーブル、お水ダー!」
「はい!」
ブル子は慌てて駆け出した。
いつものゲロマズ。
さっきまでの張り詰めた空気が、少しずつ溶けていく。
それでも修一郎だけは動かない。
窓の外を眺めながら、静かにコーヒーを飲んでいた。
やがてマテオが席を立つ。
サントスも続く。
二人はレジへ向かった。
「ゴチソウサマデシタ。」
店長は満面の笑みで答える。
「また来てダー!」
マテオは小さく微笑んだ。
「キット、マタキマス。」
サントスも軽く頭を下げる。
「ゴチソウサマ。」
ブル子が会計を済ませる。
「ありがとうございました。」
カラン。
ベルが鳴る。
二人は一本の傘を広げ、雨の中へ歩いていった。
ブル子は、その後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
修一郎は静かに立ち上がる。
伝票を持ち、レジへ向かう。
店長が笑う。
「毎度ありダー!」
修一郎は財布から代金を置く。
「ごちそうさん。」
それだけ言うと店を出た。
カラン。
ベルが鳴る。
雨は弱くなっていた。
修一郎は黒いブレラのドアを開ける。
運転席へ乗り込み、静かにエンジンを始動させた。
低く落ち着いたエンジン音が雨音に溶け込む。
ゆっくりとブレラは走り出した。
その姿をブル子は窓越しに見送る。
シャー子が隣へやって来る。
「なんか、うるさい車が走って行ったシャー。」
ブル子は思わず笑った。
「そうだね。」
でも、その目はまだ窓の外を見ていた。
原島修一郎。
毎日のようにコーヒーを飲みに来る、静かな常連客。
それ以上でも、それ以下でもないと思っていた。
けれど今日、その考えは変わった。
『レインメーカー。』
『エクアドルの英雄。』
その言葉が頭から離れない。
ブル子は空になったコーヒーカップを見つめ、小さくつぶやいた。
「原島さん……。」
「あなたは、何者なのですか?」
雨は静かに降り続いていた。
【第十三話 完】
第十三話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は、いつもの賑やかなゲロマズとは少し雰囲気を変え、静かな物語に挑戦してみました。
修一郎は多くを語らず、過去も明かしません。
けれど、その沈黙の中に、彼という人物の重みを感じていただけたなら嬉しいです。
「レインメーカー」とは何者なのか。
「エクアドルの英雄」と呼ばれた理由とは。
そして、ドン・ゴルガンとは一体何者なのか。
その答えは、これから少しずつ描いていきます。
次回は、またゲロマズらしい日常が戻ってくる……かもしれません。
これからも『レストラン・ゲロマズ』をよろしくお願いいたします。




