第十三話 コードネーム・レインメーカー(中編)
皆さま、いつも『レストラン・ゲロマズ』をお読みいただき、ありがとうございます。
前編では、二人の外国人が静かに原島修一郎へ声を掛けました。
「コードネーム・レインメーカー。」
その一言が、止まっていた時間を動かし始めます。
今回は笑いを少しだけ脇へ置き、修一郎の過去へと続く扉が、静かに開いていきます。
それでは、第十三話・中編をお楽しみください。
「ヤハリ、アナタダ。」
マテオは静かに言った。
修一郎はコーヒーカップを手に取る。
「昔の話だ。」
短い返事だった。
マテオはゆっくりとうなずく。
「レインメーカー。」
「エクアドルノエイユウ。」
ブル子は思わず足を止めた。
(英雄……?)
耳を疑った。
毎日のように店へ来る常連客。
静かにコーヒーを飲み、静かに帰る。
そんな原島さんが、英雄?
信じられなかった。
マテオは続ける。
「イマデモ、アナタニタスケラレタヒトタチハ、アナタヲワスレテイマセン。」
修一郎は窓の外へ目を向ける。
「勝手にそう思わせておけ。」
マテオは小さく息をついた。
「ワタシタチハ、タタカイニキタノデハアリマセン。」
「知っている。」
その一言に、マテオの表情がわずかに緩む。
「ドン・ゴルガンガ、アナタニアイタガッテイマス。」
店内の空気が、また少しだけ重くなった。
ブル子には、その名前の意味は分からない。
だが、修一郎は知っている。
そう感じた。
修一郎は最後の一口を飲み干す。
カップをソーサーへ戻す。
乾いた音が、小さく響く。
「死んだと伝えろ。」
マテオは何も言わない。
静かに目を伏せ、小さく一礼した。
サントスも無言で頭を下げる。
二人は席へ戻った。
二人とも、もう何も話していない。
ただ静かにコーヒーを飲んでいた。
まるで、それだけが目的だったかのように。
修一郎は席を立たない。
窓の外では、雨が静かに降り始めていた。
雨粒が窓ガラスを伝う。
店内には食器の触れ合う音だけが響く。
ブル子は修一郎を見つめた。
(原島さん……。)
(あなたは、本当はどんな人生を歩いてきたんですか。)
【つづく】
第十三話・中編を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は、派手な展開はありませんでした。
けれど、静かな会話の中に、修一郎という男の過去が少しだけ見えてきたのではないでしょうか。
「レインメーカー。」
「エクアドルの英雄。」
そして、ドン・ゴルガンという人物。
まだ謎ばかりですが、その答えを修一郎は語ろうとはしません。
語らないからこそ、過去の重さが伝わる。
そんな男を書きたいと思いました。
次回はいよいよ第十三話・後編。
静かに動き始めた物語が、どんな余韻を残すのか。
ぜひ最後までお付き合いください。
それでは、またゲロマズでお会いしましょう。




