第6話:奴らのオモチャ。狙われた満流
その頃、
ココシアを失ったバモアスは上司であるケルドアの元を訪ねていた。
そこは高層ビルのひとつだ。ケルドアは高層ビルの上に立つ大きな看板の中に入口を造りその先に自分だけの空間を展開してそこに住み着いている。女王気質のケルドアらしい深紅の壁紙で造られた部屋だ。それらは人間の目には見えない。
「ケルドア様っ!」
悲痛な声をあげながらケルドアの元にやってくるバモアス。
「なんだ?騒々しいな、バモアス。………………ん?ココシアはどうした?」
いつも仲良く行動している双子の片割れがそばにいない事に気付いたケルドア。バモアスに尋ねるが…。
「……………クッツ!」
様子がおかしいバモアスにケルドアはもう一度訪ねた。
「ココシアはどうしたのだ?あのおもちゃを遊んでやったのではないのか?」
「ケルドア様、……………あのおもちゃは仲間がいました。」
バモアスは震える拳を握りながら答えた。
「────仲間?」
ケルドアはあのおもちゃに仲間がいたとしてそれが対して障害になるとは思っていないのだ。だが、ここにココシアがいないこと、そしてバモアスがこれ程までに動揺していることが全てを物語っているのだろう、それを察してケルドアは眉間に皺を寄せてそう問うのだった。その問に答えるバモアス。
「その女がとてつもなく強く、いきなり手から日本の刀を取り出したかと思うと刀にキスをして銀の剣に変えたんです!油断していたココシアは……………!ココシアは…ウゥグッツ……………!」
そう言ってバモアスは言葉に詰まった。ケルドアはバモアスが偽りを申しているとは思っていなかったが、人間にそのような力があるとは聞いておらず驚きとそのような者がいるならきっと陛下はお気に召すはず!そう思った。
「なんと!そのような事が出来る人間がいるとは!きっと陛下はその女もおもちゃにと望むであろうな。」
「ケルドア様、その女はココシアを銀の剣で貫いて死なせたのです!俺はソイツを同じ目に遭わせてやりたい!」
陛下への進言を想像することを興奮するケルドアとは反対に怒りでおかしくなりそうなバモアス。
「バモアス。お前の気持ちはよくわかった。お前たち双子は産まれてからずっと共にいたのだからな。その悲しみは計り知れないだろう。だが、この件は陛下に報告をする。勝手に暴走するんじゃないよ!?陛下からの指示があるまで待つんだ。わかったな!?」
バモアスは悔しかった。だが組織下にいるのだから命令には逆らえず、その場では
「はい。ケルドア様。」
と返事をした。彼の目には悲しみの涙と怒りの炎が宿っていた。
機会があれば報復のチャンスを望むだろう。だがバモアスはケルドアの眷属だ。ケルドアの命令に背くことは体内の血が逆流するように熱を帯び、全身を苦痛が襲うのだ。今まで命令違反をしていた者たちへの処分を見てきたバモアスは悔しい気持ちをグッツと堪えた。
ケルドアはバモアスの心境を思えばきっと報復に行くだろうと考えていた。命令違反はいかなる理由があっても処分されるのだ。
〝大事にしてきた眷属だ。だが、我の命令を無視するのなら仕方あるまいな……………。〟
そう思いながら陛下の元へと急いだ。
その陛下は山の中にある洞窟の中に自分の居場所を展開していた。入口付近は洞窟そのものだが、奥に進むにつれ、まるで洋館の中のように部屋が造られていた。だが、これは陛下の力によるものでケルドアと同じく人間の目にはただの洞窟なのだ。
「全く…………!不便なものだ。この幼児体形。満月だけが元の成体に戻れるとはな。早く鍵を見つけてこの呪いを解いてやる……………!」
陛下と呼ばれていた男の子はそう嘆いていた。自分で造った空間。そこで不満を漏らしながらも彼なりにくつろいでいたのだろう。
カツ!カツ!カツ!……………。
そこに慌ててケルドアがやってきたものだから彼は一気に不機嫌になった。
「陛下!」
「ケルドアか!?騒々しいぞ。」
ケルドアは陛下の部屋を見回してくつろいでいた事を知り、慌てて謝罪をした。
「おくつろぎの所、申し訳ございません!」
「して、あのおもちゃはどうだ?長く楽しめたか?」
陛下はケラケラ笑いながらケルドアに問う。
「はっ、あのあと私の眷属であるバモアスとココシアに奴を与えたのですが、ココシアを失ってしまいました。」
「何!?それは誠か?あのおもちゃにそんな力があるのか?!」
陛下はケルドアの言葉にワクワクしながら飛びついた。
「いえ…、奴に仲間がいたとバモアスから聞いております。」
「ふむ、仲間か。あのおもちゃはちょっと特殊な匂いがした。人間ではあるが何か特別な力を秘めているような感じだったな。ではその仲間も同じ類なのか?」
陛下は冷静にそう言った。
「いえ……………。女が現れて手の平から日本刀を取り出してキスをしたら銀の剣に変わったとバモアスが言っておりました。その女にココシアは貫かれて死んだと…。」
「ほほぉ、何やら興味深いな、その女。美人なのか?ソイツを生け捕りにして我の前に連れてまいれ。その奇妙な力の源である血はさぞや美味いのだろうな。ハハハ!」
ケルドアは全身が歓喜に溢れて身震いした。敬愛する陛下が悦んでおられる……!
「ハッツ。陛下ならきっと興味を持たれると思っておりました。」
「流石一番の配下だ。期待しておるぞ。」
「ハッツ。お任せを。」
ケルドアは陛下に対してお辞儀をしてその場を去った。
「フフフフフ……………。鍵となる者の気配といい、最高に楽しめそうなおもちゃの存在といい。この町は長く楽しめそうだ。」
陛下はワイングラスを軽く揺らした。
「間もなく満月だ。俺の力が戻る日だ。どれどれ。その時に相手してやろうかな。」
金髪碧眼の陛下の目は笑っていなかった。どこか遠くを見つめ、呪いをかけた者への憎しみが瞳の奥に宿っていた。
「さて、ケルドアにはああ言ったが、おもちゃはみんなで共有すべきだろう。ドライトを呼んでまいれ!」
陛下直属の眷属であるラビットが魔法通信網を開いてドライトを呼びだした。
「陛下、ドライトでございます。」
ドライトは身体が大きく筋肉質だ。細身の豊満なボディーのケルドアとは正反対な感じの男だ。顔は…四角く眉もごつく黄土色の髪がまるで獅子のようだと皆に言われていた。
「うむ、来たか。お前たちにおもちゃを進呈しようと思ってな。場所は東地区の手入れがされていない公園があるのだがその近辺にきっとまた出没するだろう。黒髪の男子学生だ。」
「陛下、それだけでは中々目星が…。」
ドライトは見た目のゴツさとは違い、陛下に対しては絶対的な服従を誓っている。
「ああ、柳川かおりという女子高生と接点があるようだ。何ならちょっと喉の癒しをもらって待てばいい。言っとくが、その女、殺すなよ。俺が毎日少しずつ血を頂いてる大事な餌だからな。」
「承知いたしました。陛下。」
そう言ってドライトはその場を去って行った。
「さて、ドライトはどこまであのおもちゃで遊んでくれるのだろうか。フフフ……………。」
どうやらこの陛下という存在は人間をいたぶって楽しんでいるようだ。
ご覧下さりありがとうございます。ココシアを失ったバモアスがこれから先、暴走するのが目に見えるようです。また、彼等に目をつけられた満流は今の段階では自力で身を守りきれない。どうする?満流!




