第57話:動揺が収まらないロワール
今回が登場しますので気を付けて読み進めてください。
満流が愕然としている頃、輝夜はまだその場に立ち尽くしていた。
それは目の前のロワールが地面に膝をついて頭を抱えたままガクガクとして動かないでいるからだ。流石に無抵抗の者に剣を向ける気にはならないからだ。
〝こんな…チャンスを逃すのはきっと馬鹿だと思う。………………けど、どうしても今の彼を見て、私は彼等を人間に戻せないのか躊躇わずにはいられない………………。〟
輝夜は心の闇を持つロワールを目の前にし、そのロワールに深く寄り添う姿を見せるドライトに対して、二人に人間らしさを感じていたのだった。
「陛下!陛下!大丈夫ですか!陛下!」
ドライトは敬愛する陛下が激しく動揺しているのを目の当たりにしたせいか、彼自身もかなり動揺していた。きっと今までにない姿なのだろう。
「陛下、大丈夫ですか?陛下!」
「我は……………我は……………、ミリアナ!ミリアナ!」
ロワールは完全に自分の中の世界に閉じこもっていた。
〝─────ミリアナ?〟
輝夜はロワールの口から漏れ聞こえてくる名前に反応した。
〝これだけ動揺するくらいだからきっとアイツの大事な女性だったのかしら………………。〟
輝夜はロワールにもかつてそういう人がいたことを感じで、今の動揺する姿を見て彼にとても残酷な過去があったに違いないと思った。
「ミリアナって誰のこと?」
輝夜はトランス状態のロワールにダメ元で聞いてみた。
すると
「我の愛する妹だ。まだ幼いのに……………我は……………。」
「妹………………。彼女がどうかしたの?」
ロワールはガクガクと震えながら
「我が殺したのだ………………。ヤツが我に呪いをかけるために………………。我に殺させたのだ…………!」
今度は激しく怒りを見せる。輝夜は緊張状態を保ちながらロワールに声を掛け続ける。
「殺…させ…た?」
「………………そうだ。あの夜、我は吸血族に目覚めたばかりで大量の血を求めていた。それをヤツは利用して我の自我を奪い、ミリアナの身体を我の手で貫かせて殺させたのだ………………。ミリアナ………………。さぞ怖かったであろうに………………。」
今度は泣き出した。
これには輝夜も驚いた。いつでも傲慢で強気なロワールがこんなにも情緒不安定になるだなんて………………。
だが、ロワールの話を聞いていて、輝夜は愕然とした。
「あなたの手で…貫かせた…?」
その言葉をそのまま捉えると剣で貫くよりもよっぽど惨い事を双方が体験したことになる。
「─────ウッツ。」
輝夜は思わず吐き気をもよおした。
〝ま…待って…。それって、それって…。〟
輝夜まで身体がガクガクと震え出した。そんなヤツがロワールの身体を乗っ取った親玉なのだ。
そんなやつを相手にするの?しかもどこにいるのかすらわからないのに?
「なぁ…。お前、我を殺せ。」
突然のロワールの言葉に輝夜は更に衝撃を受ける。
「ま…待って!待って。そんな簡単に言わないで!」
「何を言っておる。お前たちの望みであったのだろう?今が最大のチャンスなのだぞ?」
「だけど、だけど…!」
輝夜の瞳からは涙が流れていた。
それを見たロワールは衝撃を受けた。
「な…ん、だ…?敵なのに。我は血を貪る悪魔なのに……………。何故お前は泣く…。」
そう言って輝夜にゆっくりと近付いて来る。輝夜は一瞬、ビクッツ!となるが、今のロワールからは殺意も敵意も感じられない。
「そんなの、わからない。だけど、あなたの境遇を想像したら耐えられない…。」
「ハハ…。同情したのか。」
「あなたたちの気持ちを考えると……………私、」
「お前は綺麗な魂をしているのだろうな、きっと。だからお前に聖痕が現れたのだろう。」
ロワールの顔には涙のあとが残っている。彼の表情はいつもとは違う。
〝誰?…目の前にいるこのひとは誰?〟
輝夜は調子が狂う思いだった。ロワールなのにここにはただの弱弱しい人間そのものだった。
「ーやっぱり私っ!」
輝夜は何かを決意したかのように声を張り上げて言う。
「あなたたちを人間に戻したい!」
その瞳はとてもまっすぐで純粋でいて強く輝いていた。
「─────眩しいっ!」
思わす手で顔を覆うロワールとドライト。
輝夜から放たれるオーラが彼等を撥ね退けるかのように輝きを見せた。
「娘、どうやらお前には不思議な力が沢山宿っているようだな。お前の過去は一体何があったんだ?」
「………………私の過去?聞いてもつまらないわよ。幼い頃に母を亡くして…。」
「違う。そういう〝過去〟じゃない。」
ロワールが話の途中で口を裂いた。
「─────え?」
「我の言う過去は、お前たちの言う〝前世〟というものだ!」
「─────前世?」
輝夜は暫く茫然とした。
〝確かに前世というものの存在を語る人物もいるし、どっちかというと私もそういうものに憧れるタイプだから信じたいけど………………。〟
ロワールの口からはそれが伝説や推測の類ではなく、現実に起こりえる話であるかのような口調だった。
ご覧下さりありがとうございます。動揺が収まらないロワールから思わぬ方向へと話が進んでいきます。




