第39話:哀しみという感情は遥か昔に消えたロワール
愛する妹のミリアナを自分の手で残酷に殺してしまったロワール。例えそれが自分の意思とは関係がなかったとしても、自分の身体がしたことに違いはなかった。ミリアナからすれば愛する兄からの惨い仕打ちそのものだ。きっとその絶望の中死んでしまったのだろう。ミリアナの気持ちを考えると居ても立っても居られない気持ちだった。それなのにその上、彼女の血をすするなど…!
ロワールの精神は既にボロボロだった。
今目の前で起きていることが現実なのか夢なのかすらわからないようだった。
「あぁ…、もうお終いだ。もうこの城には従者がいない、騎士達もいない…。ハハッツ、皆…僕が殺した…。殺したんだ、この手とこの牙で…!」
ロワールはそれでも吸血衝動を押さえられず町に出ては人々を襲い、自我を取り戻しては後悔を繰り返していた。自暴自棄にもなった。この虚しさと孤独感はどうやっても埋まらない…。
長い年月をかけてようやく吸血衝動も収まってきて、自分自身でコントロールし、定期的に摂取すればいいようにもなった。また、量の調節も覚えたことで、眷属を作ることも出来た。そのおかげで永遠の孤独とはさよならすることは叶ったものの、彼の眷属たちは皆、彼の操り人形と変わらず、どこか寂しい気持ちはいつも付きまとっていた。
彼は自分の年齢も石を積み重ねて管理していた。が、あまりにも生き過ぎた為、その石も今やどこにあるのかすら忘れてしまっている。長い年月が人間らしい感情すら無くしていったのだ。
ただ生きているだけの状態がもう既に何十年も何百年も続いているのだった。
「はぁ……………。」
ワイングラスを揺らしながら中にあるワインを見つめていたロワールが大きく息を吐いた。
「まだ…覚えていたのだな……………。もう、どうにも出来ないことばかりなのにな、」
そう呟き、グラスを揺らす。静かに揺れるワイン…。ひたすらぼーっと眺めるロワール。
そんな時、輝夜に出会ったのだ。
最初は聖痕の持ち主だということで興味をもち、次にあの生意気な喋りが結構気にいった。
だがその輝夜も吸血行為を続けていると他の人間同様に生きる屍と化していったのだ。
ロワールは今の感情が何なのか、もう忘れてしまっていてモヤモヤしていた。自分の髪をクシャッツと掻き上げた。
「ハッ…!」
小さく漏れたその声には悔しさが入り混じっていた。だが本人にはその感情が何なのかわからない。
グラスの中のワインが激しく揺れて少し零れたが気にも留めない。ジッと一点を睨みつけていたかと思うと突然、何か思いついたのか、そのグラスをポイッと部屋の中に投げ捨ててロワールは立ち上がった。
「さて、あのおもちゃがどうなっているのか、ちょっと見てくるとしようか…!」
ロワールは2日間放置していた満流のことを思い出し、輝夜の部屋を訪ねることにした。
ロワールが過去を思い出していた頃、夜月神社へと向かった悠一は狛犬の石造の前に辿り着き、二人に話しかけた。
悠一の声に応えるように石造から人化したケンとダナが悠一の前に現れる。
「作戦通り、上手く満流が輝夜さんと合流出来たよ!輝夜さんも無事だ!」
「そうなんですね、悠一。」
「ああ、これから敵地へ乗り込むんだが、ケン、ダナ、一緒に来てくれるか?」
悠一はもちろん二人から即座に返事があると信じて疑っていないかった。だが、二人は即答するわけでもなくただ悠一を見て黙っていた。
「………………。」
「………………ケン?ダナ?」
悠一の声かけに対しても二人は黙ったままだった。ほんの一瞬の間だが、境内に重い空気が漂い、社殿の灯りが遠くに感じる。
「ケン!ダナ!」
今度は強く二人に呼びかける。悠一の顔には焦りと不安と疑問が入り混じっていた。緊迫した空気が流れる。
「………………。悠一…。」
ようやくダナが口を開いた。ケンもダナも気まずそうに少し俯いている。そして二人は互いに顔を見合わせて頷いてからケンが話をしだす。
「悠一…。俺たちだって加勢したいのはやまやまなんだ。だが、俺たちは〝ナイト〟と言っても君と同じような力があるわけじゃないんだ。」
「ーえ…?」
「残念ながら俺たちはただクイーンに力を分けるだけの存在なんだ。だが、今やその役目はキングが行うのだから俺たちには何も出来ないのだ。」
「………………。つまり、君たちはただ霊体の具現化…。」
「ああ、残念だが、そういうことだ。」
ケンが悔しそうにそう答え、話を続ける。
「万一、キングの力をもらえない場合で切羽詰まっていたら俺たちが自動的に引き寄せられることになる。」
「つまり、緊急事態になるとどんなに離れてても来れるってことですか。」
「そういうことだ。」
「ただの霊体の具現化の俺たちが行ったところできっと足手まといになるのは目に見えているからな…。すまない。」
悠一は静かに首を横に振った。
ナイトだから当然戦う事が出来ると思っていただけにショックは大きかった。同じナイトであっても力を使えないケンとダナの気持ちを考えると胸が痛んだ。きっと話すのもためらったであろう。
だが今は落ち込んでいられない。すぐさま二人の元に行くしかないからだ。
悠一は黙って二人をジッと見た。二人もそんな悠一を見て静かに頷いた。悠一はギュッと歯を食いしばり二人に背を向けて来た道を戻って行った。ケンとダナは彼の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
「悔しい…。」
「ああ、俺も悔しいよ。」
二人の指先は強く握っていた為に爪が手のひらに少し食い込んだのだろうか、血がポタポタと滲んでいた。
ご覧下さりありがとうございます。ようやくロワールの過去編が終わり、彼の苦悩を描くことが出来ました。ここから輝夜たちの反撃かと思いきや、ケンとダナは戦力にならないことが判明しました。




