第37話:一夜が明けて…城内は慌ただしくなり、現実を突きつけられるロワール!
ーチュンチュンチュン
城内の木々に巣を作る鳥たちの声が清々しい朝を知らせた。その鳥の声とは対照的に城の中は人の動きで慌ただしくなった。
夜のうちにロワールは自分が襲った人間が着ていた衣類を回収して裏山へ捨てに行ったのだ。だからあの惨状は誰の目にも触れてはいない。だが、勤務時間になっても現れない人達を探して従者たちが走り回っていたのだ。
そして一番は父の側近であるエドモンド伯爵がいつまで経っても執務室へ来ない王を訪ねて王の部屋に行ってもいないということで王の居所を探してロワールの私室を訪ねてきた。
「皇太子さま、朝から失礼致します。陛下をご存知ないでしょうか。朝から姿が見えませんゆえ…。」
「………………。いや。知らない。お母様のところではないのですか?」
「いえ。別の者が王妃様の所にも行きましたが今朝はまだ訪ねて来ていないとの事でした。そうですか、ご存知ない。一体どこに行かれたのでしょうか……………。」
エドモンド伯爵は王を心配していた。
「伯爵。すぐに父は現れるでしょう。」
「そうですね。それまで執務室で待機しております。戻られた時に少しでも執務がはかどるようにしておきます。」
「はい。お願いします。私もお手伝いします。」
「いえ、皇太子さま。まずはご自身の分をこなして下さい。それが済みましたらお声を掛けて下さいますか?お持ち致しますので…。」
「わかりました。」
エドモンド伯爵はペコリとお辞儀をして執務室へと向かった。ロワールは私室から出て回廊へと移動して伯爵を見送ることにした。
ロワールは伯爵が父の事をどこまで知っているのだろうか…。そう思いながら彼の後ろ姿を見ていた。
ジジジ…。ロワールはふと、自分の腕を見た。どうやら陽に当たったところが焦げているようだ。その様子を見て昨日の事はやはり夢ではなかったのだと改めて痛感した。彼の表情が一瞬、曇る。
だが、父に任されたのだ。どんなに辛くても民のために自分は働かなければならないと自身を奮い立たせていた。
そして用意をして自身の執務室へと行く途中で母の事が気になったので母の部屋を訪れた。
「ロワールです。お母様。」
そう言ってロワールが部屋に入ると母は儚げに微笑んだ。
「ロワール…。お父様が行方不明だと聞いたのだけど、あなたも心配よね。大丈夫よ。すぐに戻ってらっしゃるわ。」
「そうですね、お母様。」
そう言ってロワールは母の手をギュッツと握った。ロワールの表情が一瞬暗くなったのを母は見過ごさなかった。いつもと違う、少し影のある作った笑顔の息子を見て、母、ユリアは察したのだ。
〝きっと…。知ってしまったのね…。可哀想に……………。だとしたらきっとあのひとはもう…。〟
母はロワールの前で涙を見せないように悲しくなる気持ちをグッツと耐えた。それは最愛の夫を亡くしたこと、そして夫を抹殺したのが息子だということ。我が子がその重責を担ったのだということ。全てを彼の一瞬の表情から察したのだ。
母は知っていた。吸血族になった人間はもう元の人間には戻れないこと。そして吸血行為を止めるために自ら命を投げ出すことは出来ないこと。銀の剣で殺せるのは血縁の親子関係であること。だから今の息子の苦悩を止めるには自分の手で息子を殺さなくてはならないこと。
〝あぁ…!神様!こんなの、あんまりです…。こんな…!〟
ユリアは朝から城内がせわしないこともきっと最愛の息子ロワールが目覚めたせいだと確信した。これ以上の被害を出さないためにも早く息子に銀の剣を刺さねばならない。だが、ユリア自身、既に肉体がボロボロだ。剣を持つことすらままならない。
母の手が震えているのをロワールは感じて、更にギュッツと握って
「大丈夫ですよ。お母様。私がついています。」
そう言って微笑んで見せた。その微笑を見てより一層胸が締め付けられる母。
〝このままこの子に吸血族として生を委ねてはいけない…!きっとこの子の心がボロボロになる!〟
そう思った母は決心をし、ベッドから身体を起こした。
「…あっ、お母様。起き上がって大丈夫なのですか?」
ロワールは心配する。だが、母は
「ええ、ロワール。大丈夫よ。大丈夫…。」
そうゆっくり返事をして枕の下から銀の小さな剣を取り出して自分の両手で持った。
「ロワール…。あなた、知ってしまったのね…。そしてお父様を…。」
ロワールは目を見開いた。あの優しいお母様が…涙を流しながら自分をジッと見ている。その目はきっと全てを理解している目だ…。
「お母様、お父様が私に……………。」
「ええ、存じています。あの人は早く解放されたがっていた。だけど何も知らないあなたを巻き込むまいと必死で抗っていたわ。だけどあなたは知ってしまった。そうよね?」
「………………。はい。昨日、お母様に吸血行為をしているのを見てしまったんです。それをお父様が勘付いていらして、私を呼ばれたのです。」
「………………。そう。」
「お母様は私を殺すのですか。」
「………………。出来ればそうしたくはないわ。だけど、あなたはどうなの?このまま生きていくのは…。辛くないの?」
母の問いかけにロワールは言葉が詰まった。昨夜の出来事はまるで夢の中の出来事のようで信じられないからだ。昨日の自分ならすぐに答えただろう。だが、今は迷ってしまった。
「そうよね、迷うのが当たり前よ。ロワール…。私だって迷っているもの。」
母は泣きながらロワールに語った。
ご覧下さりありがとうございます。いきなり吸血族として目覚めてしまったロワールは戸惑うばかり。一夜明けてしまうと生への執着はもちろんあるのだ。




