第36話:ロワール、父の秘密を知り、涙ながらに父を開放する…!
今回は残酷なシーンがあります。注意してお読みください。
*父との対面からです*
男の子はある夜、執務官経由で父に夜中に呼び出された。
昼間、父の秘密を知ってしまった彼は恐怖におののいたが、王子という立場であるため、父の王としての呼び出しを無視することは出来なかった。
〝あの行為自体は恐ろしくおぞましい行為だが、それでも父は直前までいつもの父だった。〟
彼はそのことに希望を抱いて執務官に導かれて父の部屋を訪ねた。部屋まで来た時、執務官は王から今夜は誰も部屋に通さないように、そして自分も帰るようにと言われていると彼に話した。
「わかった。案内、ご苦労。」
彼の言葉に執務官は一礼をして去って行った。
部屋の前で大きく息を吸ってからゆっくりと息を吐く。そして意を決したようにドアをノックする。
コン、コン、コン…。
「お父様。僕です。」
「入りなさい。」
彼は部屋の扉を開けた。彼の身体は一気に緊張する!
父はワイングラスを片手にソファーに腰を掛けてリラックスしていた。
────ドキッツ!
彼はその赤いワインが血ではないかと思ってしまったのだ。
「ロワール…。」
父は静かに彼の名前を呟く。
彼は父の方へと目線を移した。
父は小さく息を吐いて
「……………そうか、やはり昼間のはお前だったのか。」
その一言で彼は察した。それが自分であると思って確かめるために呼んだのだと。
「お父様…。」
ロワールは何とも言い難い表情をして父を見た。父の表情も同じだった。あの行為を目撃した事により、自分はこの先どうなるのか…。ロワールは死を覚悟した。
その時、父の表情が和らぎ、フッと笑った。
「座りなさい。少し、話そう…。」
父に着席を促されたロワールは素直に従った。父が秘密にしていたことを話してくれるのだろう。元の父に戻って欲しいロワールは静かに父の次の言葉を待った。
吸血鬼としての本能にやられるのか、父としての理性が保たれるのか……………。額にはじわりと汗が滲んだ。
「怖い思いをさせてすまない。だが、私は数年前、山奥で出会ってはならない者に出会ってしまったのだ。あれは…。魔族なのだろうか。最初は傷ついた人間の女性を開放するために近付いたのだ。
だが、いつの間にか私の護衛兵たちは失血死しており、私は恐怖におののいた。
まさか目の前のこの女性が夜に眠っている間に我々の血をすすっていたとは…。」
そう言って父がその時の記憶を振り返る。
「お主は殺さない。我は気に入った。お主は我の仲間にしてやる。」
女はそう言ってアントンの首に牙を立てた!
「もし我が滅びる事があってもお主はおそのまま生き続けるであろう。この血族の楔から解放されたければ聖痕を持つ人間を探すことだな。」
そう言って女はそれ以来姿を見せなくなったそうだ。
「ロワールよ。そなたがこの国を今後護っていきなさい。私はもう、これ以上このまま生きていたくない。」
そう言って父アントンは銀の剣をロワールに手渡した。
「お父様…?まさか……………。」
父は静かに頷いた。その目はまっすぐロワールを見ている。最近では数少ない焦点が定まった状態だ。こんな正気の普通に父親である目の前の人間を刺すことなんて出来るはずがない!
「嫌です、お父様。私に…私にあなたを刺すことは出来ません!」
必死に抗うロワールに対して父アントンは
「頼む!このままではユリアはもちろんのこと、ミリアナにまで手を出しそうで怖いんだ。もちろん、お前にだっていつ…!」
そう言って怯える父を見てロワールは震えながらも剣をギュッツと握った。
父は見境のない吸血鬼になってしまうことを恐れているんだ…。その事を理解した彼は大切な妹のミリアのためにも震えながらも覚悟を決めた…!
「………………。わかりました。お父様、今までありがとうございました。」
そう言ったロワールの目には涙が浮かび、彼の端正な顔立ちの頬を静かに伝っていた…。そして彼は父の胸に目掛けて剣を勢いよく、突き刺した!
────ドスッ!!
──────────ッシャッツ…‼
刹那!大量の血が辺りに飛び散った!もちろん、ロワールにもその血は跳ねてかかった!
突いた衝撃がロワールの両手を通じて身体全体に伝わってくる。震えが止まらない。だが、これでは父の希望を叶えられない…。ロワールの目からは幾度となく涙が零れ落ちた。そしてギュッツと目を瞑り、更に貫くつもりで刺す!
「………………。お父様…!」
ロワールは声にならない声で父を思った…。
そして目を開けて父を見ると父は笑っていた。
「────?!」
その父の笑う顔が不気味だったのだ。咄嗟に彼はその目の前の者は父ではないと悟った!ジッツとロワールを睨みながら笑い
「ハハハ!お前は今、我の返り血を浴びたな!お前もたった今、我の仲間となったのだ。すぐに身体全身から血を欲するだろう!全てを壊せ!今後、血を求めて永遠に過ごすがいい!」
その言葉はまるで呪いだった。父ではない。父の中にいる吸血族という魔族が発した言葉だった。
ロワールは何が起こったのかわからずに戸惑っていると、目の前で父の姿をした別の何かが砂になって消えて行く…。その様子を見ながらロワールはガクガクと震えていた。
「僕は人間だ…。僕は人間だ…。」
そう言ってその場に蹲ってしまった。
心配した護衛兵が部屋に入ってきた。
「陛下、皇太子さま、どうかなさいましたか?」
だがその部屋の中には砂と皇太子であるロワールしかいなかった。
「皇太子さま?陛下は……………。」
護衛兵がロワールへと近付いたその時────!
ロワールの目が紅く揺らいでいた…。そしてそのまま護衛兵を押さえつける。
「皇太子さまっ…?」
動揺する護衛兵。それもそのはず!ロワールの力はまさしく人間の力を遥かに超えた魔族そのものだった。そんな力で押さえつけられた護衛兵はなすすべもなく必死で抗うがただただ空しいだけだった。彼はロワールの腕を振りほどくことが出来なかったのだ。
「皇太子さまっ!」
護衛兵はそれでも正気に戻るとこを期待して叫び続ける。だがロワールには聞こえない。
彼が目にしたロワールはいつものロワールではなく狂気に満ちた魔族そのものだったのだろう。顔は引きつり、血の気がサーッツと引いていった。きっとこの後に起こることを想像したのだろう。目の前のロワールの歪んだ笑顔のその口元には鋭い牙が見えたからだ。
「─────ひっ、化けも…っ‼うぐぐ…っ!」
声を上げられないようにロワールの片手は護衛兵の口をしっかりと塞いでいた。微かに息が出来るだけの空間がある、それだけしっかりと塞いでいたのだ。恐怖に満ちた護衛兵はそのままロワールはに噛みつかれた!
─────ガブッッツ!
護衛兵は彼に大量の血を吸われたのだった。
これがロワールの初めての吸血行為だった。
それからというもの、吸血族として目覚めてしまったロワールは、目覚めの反動のせいか、一人の血だけでは足りずに城内を徘徊しては捉えてわずか数時間の間に30人を襲っていたのだった。その行為は静かに行われたため、誰にも気付かれることはなかった。
幸い、夜だったことで人がほとんどいなくても誰も何も思わないのだろう。
しばらくすると彼は正気に戻って辺りの惨状を見て、むせ返る血の匂いと砂まみれな状況に、自分がやったことを思い出した。城の中は彼が吸い尽くした人間の服だけが残っていた。どうやら吸血族の目覚めには大量の血が必要なようで体内から一気に血が無くなった人間の肉体はそのまま砂になってしまうようだ。あとでわかることだが、数回に分けて血を失う場合は失血死となり、肉体はそのまま残るようだ。
荒れた城内を見てその異様さと自分の中に残る微かな記憶とでロワールは夜だというのに思わず発狂してしまった。
「ウワァァァァァァァァァァァァーッツ!!」
彼はそんな自分が嫌で銀の剣で死のうとうとして食堂に飾ってある銀の剣で自身に突き刺してみたが、何の反応もなかった。
「ーくそっ!どういうことだ?!何故、これで死ねない?!」
ロワールは自分で銀の剣を触ることが出来て自身の胸に突き刺しても死ぬことすら出来なかった…!ロワールは自分の身体が変化したことを認識していた。このままでは父と同じようにひたすら血を求めてしまう!もう既にどれだけの人間を襲ったのだろうか…!父のようにコントロール出来なければ手あたり次第に吸血行為を行ってしまう…。その恐怖が彼を襲っていた。
ご覧下さりありがとうございます。ロワールの悲しい過去が明かされていきます。




