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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第9話 馬車に揺られて

 乗り物に乗っての移動はリュミナにとって初めての経験だった。自分は座っているのに、森の中を全力で駆け回っている時以上のスピードで景色が後ろへと流れてゆく。時折、道の凸凹に揺られ体が浮き上がる不思議な感覚。走っているときのように前方を注意しなくてもよいため、より一層流れる景色が新鮮に映る。馬車に揺られている時間は、あっという間に過ぎていった。


「よし、もうすぐ暗くなる。御者くんそろそろ止めてくれ、今日はここで野営だ」


 馬車が速度を落としてゆっくり止まる。リュミナは特等席から飛び降りて、カイレンたちがいる荷台に向かった。


「あ、リュミナ、なんだかご機嫌な顔してるね。特等席は楽しかった?」


 セリがリュミナに気づいて手を振った。カイレンとアシュレイはひたすら体を伸ばしている。


「かーっ、馬車は速いし楽なんだけど、ずっと荷台に乗ってるとお尻が痛くなっちまうな」


「贅沢言わない。乗せてもらえてるんだから、リュミナやジストさんに感謝だよ」


 すると、御者の少年――セリネオがこちらに手を振って呼びかける。


「皆さーん、夕飯の支度をするので手伝ってくださーい」


 4人は頷いて火を起こしているジストの元へ走り出した。


「どうだ?うまいだろ」


 ジストが自慢げに4人に振る舞ったシチューの味を聞いてくる。


「もー、ジストさん。これほとんど僕が作ったんですよ。あなたは火を起こした後"やることがある"とか言ってどっか行っちゃってたじゃないですか」


 セリネオが口を尖らせる。


「はっはっは!そうだったね。すまないセリネオ。いつも助かっているよ」


 ジストはそう言ってセリネオをなだめる。


「二人はずっとこんなふうに旅をしていたんですか?」


 リュミナが尋ねると、ジストは一瞬、少し遠くを見つめるような表情をした後、何事もなかったかのように頷く。


「ジストさんも以前は風の国の冒険者だったみたいですよ。それもかなりの強さだったみたいで。それでエアロムントでもかなり顔が効くんです。僕は数年前、とある理由で路頭に迷っていたのですが、そこでジストさんに声をかけられて以来、こうして御者として旅にお供しているんですよ」


 ジストの代わりにセリネオが答えた。


「ただ、最近は諸外国の情勢があまり良くないみたいで……厄介ごとに巻き込まれないよう、今は風の国の中だけに行動範囲を絞ってあちこち回っているんです」


「まぁ、国によっては積極的に戦争を起こして領土を拡大するところも増えてきたからな。その点、ヴェンティアの王は国政もしっかりしていて平和主義、なるべく戦争を避けるってスタンスみたいだからな……まぁしばらくはこの国で厄介になるつもりだよ」


「あの……ジストさん、今までの旅の中で兄に――"ヴェンティアの刃"って呼ばれる騎士については何か聞いてませんか?」


 セリの問いにジストは首を振る。


「すまないねぇ、セリちゃん。俺も噂話を含めてなるべく多く情報を集めてるつもりだが、"ヴェンティアの刃"の話は聞かないなぁ」


「……そうですか」


「まぁ、あいつのことだ。心配はいらないさ。あいつの強さは本物だった。それは俺が保証する」


 そう言ってジストは、落ち込むセリの肩を優しく叩くと、立ち上がって手をパンと叩く。


「さぁ、食べ終わったら早めに休んでおけよ。この調子なら明日にはエアロムントだ」


 次の日、再び一行は馬車に揺られる。


「ほら!見えてきたぞ、リュミナちゃん」


 ジストが指差す方向に大きな城門が姿を現す。


「あれが王都"エアロムント"だ。ちょっと待っててな、キャラバンを入れる手続きをしてくる」


 ジストが馬車を降り、城門付近の衛兵の元へ向かう。


「リュミナさん、エアロムントは、というか人間の街は初めてでしょうか?」


 セリネオが振り返り、そわそわしているリュミナに問いかける。リュミナが頷くとセリネオは真剣な表情を見せる。


「そうですか……気をつけてくださいね。人間にはジストさんのように優しい人もいれば、反対に悪いことを考える人も沢山いますから……」


「手続き終わったぞーって、確かに!そうだな……」


 そう言いながら、手続きを終えたジストが乗り込んでくる。


「俺たちも一緒にいてやれればいいんだが、流石にずっと目的地が同じではないからな……よし、リュミナ、これ持ってけ!」


 そう言ってジストはリュミナにピンク色の玉が入った小瓶と、キャラバンの紋章がデザインされたブローチを手渡した。


「その小瓶はフェアリードロップって言ってな、昨日もらったフェアリーフラワーを調合して作った万能薬さ。どんな以上もたちまち治すすごい薬だぜ」


 ジストは同じ小瓶をもう二本取り出しカラカラと振って見せる。昨日、ジストの言っていた"やること"というのは、どうやらこの薬の調合だったようだ。


「こっちは?」


 リュミナはもう一つの、キャラバンの紋章のデザインされたブローチの方に目をやる。


「それはこの、ジストキャラバンお得意様用のブローチさ。俺たちもこの国ではそこそこの知名度があるからね。まぁどっちもお守りみたいなものさ。運送料のお釣りとして持っときな」


 そんなことを話しているうちに、衛兵が見張塔に合図を送り、城門がゆっくり開き始める。

 賑やかで活気のある光景がリュミナの目に飛び込んできた。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第9話「馬車に揺られて」いかがでしたか?


 リュミナにとって初めての馬車の旅は、さまざまな景色や感覚を彼女にもたらすことになりました。また、リュミナが手に入れた二つのアイテムは、今後どのように活かされるのでしょうか?


 さあ、次回はいよいよ王都"エアロムント"です。リュミナにとって初めて訪れることになる"人間の街"彼女はそこで何をみて、何を感じるのでしょうね?


 次回「人の世の歓迎」水曜日投稿予定です。お楽しみに!


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