第10話 人の世の歓迎
城門をくぐった先はリュミナにとって未知の場所だった。嵐の日の森や、洞窟内で暴れる魔物の咆哮とも異なる賑やかさだった。何千、何万という人々の話し声、石畳を叩く馬の蹄音、そして立ち並ぶ店から漂う、焼きたてのパンや香辛料の混ざり合った濃密な匂い。それらが彼女の五感すべてに「異なる世界」を感じさせる。絶えず周りを見渡し落ち着きを失ったリュミナに、ジストは腕を広げ誇らしげに鼻を鳴らす。
「ようこそ、風の国の中心、王都"エアロムント"へ!」
見上げれば、青空を背景に巨大な風車が風を受けてゆっくりと回転している。
リュミナは期待と少しの不安を胸に、馬車の特等席から、初めて見る「人間の都」へと飛び出した。
「さぁ、まずはギルドに、今回の旅で作った地図を届けないとな」
荷台から降りたカイレンが腰を摩りながら少し離れた大きな建物を指差す。
「その前に、カイレン」
ジストが馬車から降りてきて彼を呼び止める。
「何か俺たちに見せるものがあるんじゃないのか?」
「え?何のこと?」
「とぼけるんじゃないの、そのバッグの中身、結構自信のある素材か何かなんだろう?」
ジストがトライホーンの角を入れていたバッグを指差し、カイレンが頭をかきながら2本の角を取り出す。
「バレてたか、流石旅の名商人」
「ほぅ、こいつは……トライホーンか?なかなか状態のいい角じゃないか。どこに売るつもりだ?よければウチで買い取るぜ」
「さぁね、ギルド近くの武器屋か道具屋か、はたまた魔物マニアか王国の魔物研究所か、どこが一番高く買い取ってくれるかなー?」
カイレンが意地悪そうにジストに目をやる。
「……なんか、時間かかりそうだし、私たち、先にギルドに行ってるね」
セリとアシュレイはリュミナを引いてギルドへ歩き出した。
「カイレン、なんか日に日に交渉術が上達してる気がするよね」
「ああ、あいつには商人の才能があるのかもしれない」
「いつもあんな感じなんだ……」
そんなことを話しながらギルドのドアを開こうとした時
「イテッ」
先にドアが開き、アシュレイの顔にあたる。
「あぁ、すまんすまんってアシュレイ!?」
ドアを開いた主はアシュレイを見て驚き、謝罪しながらアシュレイを引き起こす。
「ああ!リクトか!君たちも今帰ってきたの?」
「いや、俺たちは一昨日帰ってきてな、レポートをまとめて今から提出しに行くところさ。ルイやマルナもさっき学校に向かってたぜ」
「ぼ、僕も一緒に行くよ。ごめんセリ、ギルドへの報告よろしく!」
そう言ってアシュレイはリクトと呼ばれた青年とともに走っていった。
「アシュレイはね、同級生でさっき名前がでたマルナって子が好きなんだよ。本人は秘密にしてるらしいんだけどね」
走っていくアシュレイの背中を見ながらセリがリュミナに耳打ちした。
「さぁ、私たちもやることやっちゃいましょ」
そう言ってセリとリュミナはギルドの受付へと歩きだす。ギルドの中は食堂や道具屋があるようで、美味しそうな匂いに混じって皮や鉄の匂いがしていた。
「お姉さん、カイレンパーティ、ヴェンティア南西部の地図作成依頼の報告です。」
「お疲れ様でした。……はい、こちらの地図確かに受け取りました。それではこちらが今回の依頼の達成金です。また、先日ご案内した通り、地図の精度や希少性によっては追加の報奨金をお支払いしますので恐れ入りますが数日間お待ちください」
「ありがとうございます。うわぁ、リュミナ、何か美味しいものでも食べちゃおうか?」
セリが報酬の入った革袋を受け取り、上機嫌でこちらを見る。リュミナも、街に入ってからずっと漂う美味しそうな匂いに興味があった。
「……ところで、失礼ですがそちらの女性は?カイレンパーティ様のメンバーに女性はセリさん一人しかいなかったはず……というかこのギルドでもあまり見覚えがないのですが……」
受付の女性がリュミナを見つめて尋ねる。セリは思い出したように受付に戻る。
「そうだった、忘れてました。この子はリュミナ。旅の途中で仲間になったエルフの女の子です。正式にパーティに入ってもらいたいので、今日はその手続きもお願いします」
「承知いたしました。それではお二人ともこちらへ……」
リュミナとセリは受付の女性に案内されて別のカウンターに移動する。ギルドの隅に座っていた二組の男たちは彼女らの様子を見て、それぞれがニヤリと不気味な笑みを浮かべ、それぞれがその場から立ち去っていったのをリュミナたちは知る由もなかった。
「……はい、お待たせいたしました。こちらがリュミナさんの冒険者カードになります。風の国において身分証明書にもなりますので無くさないでくださいね」
「ありがとうございます」
リュミナは不思議そうな顔で受け取った冒険者カードを見つめる。それに気づいたセリが説明を始める。
「その冒険者カードはここ、エアロムントのギルドが認めた人にだけ支給しているものだよ。本当ならその人がこの国やギルドにおいて信用できるか、戦力になるかとかを確認する試験に合格してから受け取るものなんだけど……今回はそれのおかげで試験が免除されたみたい」
そう言ってリュミナの胸元についたジストキャラバンのブローチを指差す。
「とにかく、これであなたも正式に私たちの仲間になったのよ。よーし、今日はお祝いも兼ねて美味しいものをたくさん食べましょ。この街の美味しい食べ物をたくさん教えてあげる!」
カイレンやアシュレイも合流して、一行は賑やかにリュミナの歓迎パーティを行った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第10話「人の世の歓迎」いかがでしたか?
初めて訪れた人の街は彼女の目にはどれも新鮮に映ったみたいです。
今回はリュミナのギルド登録だけでしたが、次回は街を歩いて回ることになります。
次回「街巡り」金曜日投稿予定です。お楽しみに!
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