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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第7話 決着

 地響きがどんどん近づいてくる。


「リュミナ!こっちだ!」


 アシュレイが岩陰からリュミナを呼ぶ。


「うん!」


 リュミナはその場にランタンを置いて、急いでアシュレイの元に走る。


 しばらくして、興奮した様子のトライホーンが戻ってくる。アシュレイが杖を回し、魔法を撃つ準備を始める。


「カイレンからの合図が来たら一気に決めるよ。チャンスは一度だ」


 リュミナも頷く。自然と弓を持つ手に力が入る。


 トライホーンはあたりを見まわし鼻をヒクヒクさせる。広間中央のランタンと、独特な匂いを放つイモミントの葉に気づき、ゆっくり近づいていく。もう少しだ……。リュミナもアシュレイも静かにその時を待つ。


「ここだ!」


 カイレンの叫び声が洞窟内に響くとともにトライホーンの足元に仕掛けてあったロープが引かれる。突然片足を取られたトライホーンは驚いてその場で踏ん張る。

 リュミナが身軽な動きで飛び上がり、アシュレイがその場で立ち上がった。トライホーンの傷跡に照準を合わせて全力の魔法を放つ。


「貫け!〈キュロス・ウィンド〉!」


 放たれた魔法の着弾箇所を狙い、リュミナが弓を引く。

 弦の低い音とともに放たれた矢は突き進む風魔法の尻尾に突っ込む。エーテルの矢が風魔法の力を取り込み、鋭さと勢いを増して突き進む。それと同時に矢に取り込まれなかった風魔法の余剰エネルギーが衝撃波として広がる。強力な一撃が魔物の体に突き刺さった。

 しかし、


「ダメだ!仕留めきれていない!」


 強力な魔法を撃ち終えてふらつくアシュレイが叫ぶ。

 リュミナが悔しそうに唇を噛み締める。これで仕留めるはずだった。仕留めなければならなかった。


 リュミナが立てた作戦は、目の不自由になったトライホーンを目立つ光源と匂いのあるイモミントの葉で誘導して、カイレンのロープで体勢を崩させる。そこへ、アシュレイの風魔法にリュミナのエーテルの矢をぶつけて強化した攻撃で仕留め切ると言うものだった。しかし、リュミナの矢が普段と違う環境、土のマナの影響で重さが増し、一瞬タイミングがずれてしまったことで魔物を仕留め切るための十分な威力を乗せられなかったのだ。

 

 矢の刺さった魔物はふらつきながらも最後の足掻きと言わんばかりに無防備なリュミナとアシュレイに突進してくる。やられる!アシュレイが目を瞑る。


「うおおぉぉぉ!」


 カイレンの掛け声とともに魔物の動きが止まる。そして少し後ろに引きずられるように後ずさる。カイレンはその隙に魔物の頭上に飛び上がった。


「仲間は絶対に傷つけさせない!」


 そう叫んで、渾身の力で大きな盾を振り下ろした。

 

 べしゃん!と言う音が洞窟内に響きわたり、その後大きな魔物が倒れる音がする。先ほどの衝撃波で弱くなってしまったランタンの明かりが照らし出したのは、土煙の中ゆっくりと立ち上がってガッツポーズを取るカイレンの姿だった。


「助かったよ、カイレン」


 アシュレイが若干ふらつきながらカイレンに駆け寄る。


「いや、なんて言うか、自分でもよくわからなかったんだけど、やばい!守らなくちゃって思ってさ、体が勝手に動いてた」


「ごめんね……一撃で仕留められなくて」


 リュミナが申し訳なさそうに謝る。


「いや、大した威力だよ。こんなにも硬い皮膚に穴を開けるなんてな」


 そう言いながらカイレンは倒れた魔物の皮膚を叩く。


「おかげで魔物の力もかなり弱くなっていた。リュミナの矢があったら勝てたようなもんだぜ?」


「そうだよ」


 そう言いながら、セリも足を引きずりながら岩陰から出てくる。


「リュミナがいなかったら私たちどうなっていたことやら……」


「それにしても……」


 カイレンは魔力が離散し、ほとんど消えかかったランタンを拾い上げ、足元に転がるひん曲がった盾を見つめる。


「……この『竜骨の盾』、高かったのになぁ……こいつの角を持って帰ってギリギリプラスって感じかな?アシュレイ、悪いけどトライホーンの角を傷つけずに取るの手伝ってくれ」


「じゃあ私たちも散らばったイモミントの葉や売り物になりそうな素材を探してようか?」


 セリとリュミナは散らばった素材を拾い始める。

 ふと、リュミナが顔を上げる。


「……あれは……光?」


 ランタンの光が弱まり、暗くなったからこそ気づいたほんの僅かな白い筋。リュミナは身軽な動きで天井付近の光の下へ飛びつく。


「リュミナ!これ!」


 彼女の意図に気づいたセリが魔石を投げてよこす。リュミナが壁に魔石をぶつけ、小さな爆発とともに壁の穴を広げる。先ほどの地響きで壁が弱っていたのか、ガラガラと崩れたその先から真っ白に輝く光が差し込み、一同は目を瞑った。


「……綺麗」


 崩れた壁の先の光景を見たリュミナは息を呑む。

 そこには小さな池と、いくつかの木々、そして一面の花畑が広がっていた。


「……洞窟の外ってわけではなさそうだね」


 アシュレイが周りを見渡しながら言う。周囲は洞窟の壁に囲まれているが、天井だけぽっかりと穴が空いていて、そこから温かい日差しが差し込んでいる。


「ここ……魔物の入ってきた形跡がないな」


 カイレンが地面を撫でながらそう分析する。


「多分、この水のおかげかな?」


 リュミナは花園の中央にある池の水を掬い上げる。


「この水、ほんの少しだけどお母様の力を感じる。多分外の川が流れ込んできているんだと思う。お母様の力は魔物を寄せ付けないんだよ」


「……なるほど、道理でここは、リュミナの森の雰囲気に似ているわけだ。魔物に荒らされないだけでこんなに美しい場所になるんだな」


「ここなら問題なさそうかな」


 そう言ってリュミナは池のほとりに持っていた種を蒔く。


「何してるんだ?」


 カイレンがリュミナに尋ねる。


「私の習慣……みたいなものかな?誰かとお別れした時に、私はこうして種を蒔くようにしてるの。これはあの魔物の分」


「そういえば、初めて会った時も、エルクの死体のそばに植えていたね」


「うん、私は寿命が長いからね。他の生き物たちが寿命や、やむを得ない理由でお別れしちゃった時に、みんなを忘れないためにこうして種を蒔くの。私が忘れないで、みんなのことを未来に繋げてあげるために」


「そっか……リュミナは本当に優しい子なのね」


 セリがリュミナの頭を撫でる。そして綺麗な花園に目を向ける。


「少しここで休んで行かない?」


「そうだね、僕もこの付近について地図にまとめる時間が欲しかったし」


「さんせーい」


 アシュレイとセリも賛成し、カイレンも頷く。


 アシュレイはひたすら紙に記録をまとめ、カイレンは高価な素材を探して周辺を歩き回る。セリはリュミナに支えられながら池の淵まで歩き、そこで二人は腰を下ろす。未知の洞窟の探索中とは思えないほど静かで平穏な時間が流れた。

 最後で読んでいただきありがとうございました。

 第7話「決着」いかがでしたか?


 立ちはだかった強敵をなんとか倒し、束の間の休息。その後、彼らは次の目的地へと再び歩き出す予定です。


次回「キャラバン」月曜日投稿予定です。お楽しみに!


ごめんなさい、手違いで先に第8話投稿しちゃってました......。


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