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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第51話 未来へと向かう風

「もう……行くんだな」

 

 街をあげた宴から数日が経ち、すっかり静かになったエアロムントの門、カイレンが少し寂しそうに尋ねた。

 

「うん。ヴェンティアの外、火の国"ヴォルカリア"や、水の国"リヴァレイン"に行くには、簡単に国境を越えられるこのジストキャラバンについていくのが一番みたいだからね」

 

 リュミナがそう言うと。門のそばで馬車の積荷を確認していたジストが、一瞬だけ振り向いて、得意げな顔でカイレンたちにウインクを送る。

 

「火の国や水の国って……行き先決めてないのかよ!?」

 

 ザンドが驚くと、リュミナは苦笑いを浮かべる。

 

「うん……。私、ずっと森で暮らしてて、外国のことなんてわからないから……」

 

 すると、ラウルが後ろから口を開く。

 

「いいじゃないか。何も知らないからこそ、自分の気になった場所へ歩き、自分の感覚で世界を見ることができる。旅とは、自由であるべきだ」

 

「リュミナ、世界には色々な価値観や考えを持つ人たちがいる。厄介ごとに巻き込まれないように気をつけるんだ」

 

 スリーズの忠告に、リュミナは頷く。

 

「リヴァレインか……。国全体が、魔法の研究を行っている、いわば魔法都市って聞いたことがあるよ。そうだ!リュミナ、お土産に"魔導人形"っての探してきてよ!」

 

 アシュレイが思い出したかのように頼むと、隣にいたセリも身を乗り出す。

 

「あっ!ずるい!じゃあ私は……氷の国"オルフレイム"の雪菓子!って溶けちゃうか……」

 

 その言葉に、リュミナは吹き出し、つられてみんなも大笑いする。そんな楽しい時間の終わりを告げるように、朝焼けの中、セリネオの声が響く。

 

「ジストさーん、リュミナさーん。そろそろ馬たちが走りたそうにしてるよ!このまま止まりっぱなしだと、前みたいに不機嫌になっちゃう!」

 

 その言葉を聞いたカイレンは、何も言わずに手を前に出す。それを見たセリとアシュレイも、その手に自分たちの手を重ねていく。リュミナも、そんな二人の真似をして、自分の手を上に置いた。

 

「たとえどんなに離れていても、どれだけ時間が経ったとしても、俺たちは仲間だ!今までの冒険の思い出、この絆は、絶対に消えることはない!」

 

 カイレンの言葉に、四人は強く頷く。

 

「次のセイリン流星群の時までに、俺は"風の勇者"として、立派に働いて大金を稼ぐぜ!」

 

「私も!もっと強くなって、ヴェンティア中に名前を届かせてみせる!」

 

「僕だって!立派な魔法学者になって、人類の魔法をさらに進歩させてみせる!」

 

 三人に続いて、リュミナも自分の夢を叫んだ。

 

「私も、広いこの世界を旅して、素敵な思い出をたくさん作る!」

 

「30年後、また会おうぜ!」

 

「おー!」

 

 そう言って四人は重ねた手を上に掲げた。その様子を、ジストやラウル、ザンドにスリーズは静かに、眩しそうに見守っていた。


「それじゃあ、行ってくる!」

 

 馬車の荷台に座ったリュミナは仲間たちに向かって大きく手を振る。

 

「よし!セリネオ、馬車を出すぞ!出発だ!」

 

「はい!」

 

 ジストの声と共に、ゆっくりと馬車が走り出す。

 カイレン、アシュレイ、セリは走っていく馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。


「……30年か、遠いね……」

 

 馬車が走り去った後、アシュレイが呟く。

 

「そうだな。それだけ時間があれば、きっと俺たちの夢も叶うさ。次会う時に胸を張って自慢できるくらいにな!」

 

 そう言ってカイレンがアシュレイの背中を押す。

 

「でも……リュミナにとっては、やっぱりすぐの出来事になっちゃうのかな?」

 

 セリが少し寂しそうな表情をすると、スリーズが首を振って答える。

 

「たとえ長命だとしても、私たちも一分一秒の時の流れの中に生きている。リュミナにとっても、君たちと同じように、30年をきっと長い時間に感じるはずさ……」

 

「……そうだよね。よし!後30年!自慢できるような実績をたくさん残してやる!」

 

 そう言ってカイレンが駆け出し、その後をセリとアシュレイも追いかける。太陽は、いつの間にか水平線を離れ、エアロムントの上空へ登り始めていた。


 ――――


「さて、俺たちはこのまま"ヴォルカリア"への国境を越える。気になった場所や、降りたいところがあれば、いつでも言ってくれ」

 

 ジストの言葉に、リュミナは頷く。

 

「うん、ありがとう。ジストさん、セリネオ」

 

 お礼を言った後、リュミナは自分の小さな握り拳を空に掲げる。木漏れ日の中の小さな光が、荷台に座っている彼女を優しく包み込んでいた。

 

「よーし、みんなとまた会った時のために、楽しい思い出をいっぱい作るぞ!」


 ――――


 遠ざかるエアロムントの街並みを背に、馬車は前へ前へと進んでいく。リュミナの頬を撫でる風は、まだ見ぬ冒険の香りを僅かに運んでいた。出会いと別れ、そしてかけがえのない絆を胸に刻んだ少女は、今、新たな出会いの第一歩を踏み出す。

 

 彼女が進む道の先に、どんな景色が待ち受けているのかはまだ誰も知らない。

 

――未来へと向かうリュミナの旅は、まだ始まったばかりなのだ。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第51話「未来へと向かう風」いかがでしたか?


 仲間たちとの強い絆と、30年後の再会を誓い合って、リュミナは再び旅立ちました。


 旅立ったリュミナも、エアロムントに残ったカイレンたちも、それぞれの目指す未来へと進んでいくことでしょう!


 リュミナの物語はまだまだ続きますが...一旦、次回が最終回です!彼女の物語の「第一章」どうぞ最後まで読んでやってください。


 次回「そしてまた幾星霜の空の下」金曜日投稿予定です。お楽しみに!


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