第50話 風の祝福
エアロムントに帰ってきた四人を出迎えたのは、テレポートジェムで先に帰っていたソラやザンド、スリーズだけではなく、リュミナたちがこの街で知り合った多くの人々だった。
「カイレン!霧の王を鎮めたんだって!?詳しく話してくれよ!」
「アシュレイ!霧の魔物や、紫の森について、実際に行ってみてどう感じた?良ければ君の意見や感想を聞かせてほしい。ギルドへの報告が終わったら来てくれないか?」
「セリ!強い魔物たちと互角以上に渡り合ったその腕を試したい!この後騎士団の訓練棟に顔を出してくれ!」
「リュミナ!あんたも頑張ったんだってね!リュミナの大好きなタルトパイ焼いとくから、後で食べに来な!」
各々が街の人々に囲まれ、称賛と労いの声を浴びる。そんな人混みを掻き分け、ようやくギルドの前まできた一行を、ギルド前の広場でソラが出迎える。
「よく戻ったね!君たち!」
ソラの両脇から、すっかり元気になった仲間の二人もぺこりと頭を下げる。
「実はね、カイレン。僕はフローナの村で治療を受けている時からずっと考えていたことがあるんだ。そして今、それをここに宣言しようと思う!」
そう言うとソラは、胸に輝く"風の勇者"の印であるバッジを外し、高々と掲げる。
「"風の勇者"の称号は!今、この青年!カイレンに譲り渡そうと思う!賛同するものは、大きな拍手を!」
突然の宣言に戸惑うカイレンたちの後ろで、大きな歓声と拍手が湧き起こる。街の人々は皆、新たな"風の勇者"の誕生を祝福していた。
カイレンは照れながらもバッジを受け取る。
「いいのかな……?俺なんかが、そんな大層な称号……」
「もちろんだとも!君は"星の剣"を手にし、強大な霧の王とも見事に渡り合った!それに、街の人々もこんなに賛同してくれているよ!」
ソラが説明する横から、アシュレイがそっとカイレンに耳打ちする。
「"風の勇者"ともなれば、きっと色んなお店から広告の依頼や、ギルドでも報酬の高い依頼を選び放題だ。悪い話じゃないんじゃないか?」
「うおぉぉ!俺が今日から"風の勇者"だぁ!」
アシュレイに乗せられたカイレンは、広場の真ん中で高々と剣を掲げる。その姿に、周りからはさらなる歓声が響く。その時、パチンと手の叩く音が響き、ギルドの受付嬢が人々をかき分けて歩いてくる。
「皆さん!盛り上がるのも結構ですが、ギルドの前でいつまでも騒がれるのは迷惑です!それと、カイレンさん、冒険から帰還したのであれば、まずはギルドへの報告をお願いいたします」
そう言ってスタスタと戻っていく受付嬢に続いて、リュミナたちもギルドの中へと入って行った。
ギルドの中では、ギルド長や騎士団長のローグ、ジストにラウルにセリネオまでもが集まり、カイレンたちを讃え、感謝の言葉を述べていく。彼らの視線が集まる中、アシュレイは完成した地図を提出し、カイレンが霧の王討討伐依頼の完了報告の手続きをこなす。
「……はい、これで手続きは以上になります。冒険、お疲れ様でした!」
その声を聞くや否や、ギルド長が駆け寄ってくる。
「いやぁ、カイレンパーティの皆さん!この度は本当にお疲れ様でした!ささやかではありますが、ギルドから報酬の他に、宴の席をご用意しています。ぜひご参加を!」
ギルド主催の"ささやかな"宴は、街の人々を巻き込み三日三晩賑やかに続けられた。
――3日目の夜――
「おい、しっかりしろ!カイレン!」
「リュミナ?大丈夫?……ほら、宿に着いたよ」
ザンドとスリーズに支えられて、何とか宿まで帰ってきた一行は、ベッドに飛び込むや否や、スヤスヤと寝息を立て始めた。
翌日、目覚めたリュミナとセリが部屋から出てくると、食卓ではアシュレイが、半分ぼーっとしながら朝食を食べていた。
「あ、アシュレイ、おはよう。昨日までの疲れがまだ取れないよ……」
リュミナがそう言いながら席に着くと、アシュレイも頷きながらのろのろとパンを口に運ぶ。
「ほら、三人とも!片付かないから早く朝ごはん食べてくれ!」
厨房からスリーズの声が聞こえ、三人は返事をする。その後、驚いた表情で厨房の方を見る。
「あれ?覚えてないの?私とザンドも、昨日からこの宿で世話になってるんだ。ほら、君たちを連れてきた後、宿の主人と話してさ……」
そう言われれば、確かにそんな話をしていた気がする。しかし、疲労と眠気に支配されていたリュミナたちに、昨夜のしっかりした記憶は残っていなかった。
「あれ?そう言えばカイレンは?まだ寝てるの?」
セリが思い出したかのように尋ねると、アシュレイは呆れた顔をして首を振る。
「"風の勇者"さんなら、朝から引っ張りだこだよ。本当に、カイレンの体力には驚かされるよね……」
すると、厨房からスリーズが出てきて、外したエプロンを机に置く。
「三人とも、食べ終わったら少し外を歩かないか?外にいるザンドが調子に乗って武勇伝を自慢し始めたんだ。多分もうすぐ、何か問題を起こしそうだ……」
耳を澄ますと、ザンドが調子に乗っているのか、剣を振り回すような音が聞こえてくる。
リュミナたちはさらに呆れた表情でパンをかじった。
「みんな元気だね……」
朝食を食べ、片付け終わった四人は街に出る。途中、騎士団の仲間に誘われたセリが離脱し、リュミナ、アシュレイ、スリーズの三人は、まだ浮かれた空気の残る街をあてもなく歩いていた。
「そう言えば、この間聞きそびれちゃったけど、リュミナはこの後、何をする予定なの?」
アシュレイの問いに、リュミナは胸を張って答える。
「私は、また旅に出るつもりだよ。ヴェンティアだけじゃない。もっと色んなところに行って、色んなものを見てみたいんだ!」
そう言うと、リュミナはスリーズの方へ体をひねる。
「スリーズがセリに渡してくれた、あの花のおかげで、私の本当にやりたいことを思い出せたの。ありがとう!」
スリーズは安心したような優しげな表情でリュミナの頭を優しく撫でる。
「長命同士の勘ってやつかな?私も昔、自分が何をしたいのか分からなくなったことがあってね。リュミナもそんな顔をしてた。だから、その背中を押す手助けになったようで何よりだよ」
リュミナのやりたいことを聞いたアシュレイは少しだけうつむく。
「そっか……。分かってはいたけど、やっぱりみんな別々の道に進むことになっちゃうんだよね……」
その言葉に、リュミナも少しだけ寂しげな表情を浮かべる。そんなリュミナとアシュレイの肩をスリーズは優しく掴む。
「大丈夫。一度できた、大切な人とのつながりは、簡単に消えるものじゃない。私も、今まで生きてきた中で、たくさんの人と出会い、別れてきた。大切な人たちは、今もここで、私と一緒に、未来へと進んでいるよ」
そう言って自分の胸に触れた後、リュミナの方に目を向ける。
「それが……みんなを未来へ連れていく、私たちの役目なんだ。そうだろう?リュミナ」
アシュレイも自分の胸に手を当てる。
「そっか……。そうだね。たとえ離れても、僕らの絆は消えることはない!」
二人の表情が明るくなったのを確認したスリーズは、ゆっくりと宿の方へ歩き始めた。
「さて……。そろそろ宿へ帰ろうか。ザンドが何か面倒を起こしていても、そろそろ片付く頃合いなはずだ」
三人は宿の方へ駆け出す。もうリュミナたちの胸には、ざわざわとした嫌な感じは無くなっていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第50話「風の祝福」いかがでしたか?
エアロムントに帰ってきた一行を出迎えたのは、街中からの感謝と労いの言葉と祝福でした!さらに、何とカイレンが"風の勇者"の称号を譲り受けました!
楽しい時間も束の間、別れの時は刻々と近づいてきています...。
次回「未来へと向かう風」水曜日投稿予定です。お楽しみに!
※すみません!来週前半、投稿主が少し忙しくなる予定のため、投稿が少し遅れます!
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