第49話 この先の道
「じゃあ、俺たちは先に行くよ。と言っても、エアロムントに着くのはザンドたちが先になるのかな?」
そう言って、カイレン、アシュレイ、セリ、リュミナは村の出口へと向かう。
「おう、悪いな。テレポートジェム借りちまって」
見送りに来ていたザンドが、カイレンに手渡された、ほとんど光を失ってしまったテレポートジェムを取り出して見せる。
「いいってことよ。俺たち仲間じゃないか。困った時はお互い様さ」
そう言うとカイレンはザンドから受け取ったテレポートジェムの代金――硬貨の入った皮袋を手に、笑顔を見せる。
「まぁ、カイレンたちの力に当てられた影響なのか、そのテレポートジェムの力がだいぶ落ちてる。そのジェムを使っても、テレポートできるのはせいぜい三人ほどだと思うしね。だったら、一番傷の深いソラと、その看病で村に残る、ザンドとスリーズが使うのが理にかなってる」
アシュレイも説明しながらうんうんと頷く。
「セリ、何かあったらいつでもこの村を尋ねてくるんだぞ。僕はいつだってお前の味方だ」
ゼルは心配そうに何度もセリにそう言い続け、セリはその度に笑って
「うん!ありがとう」
と返す。村を出た四人は、最後にもう一度振り返ると、大きく手を振った。
「それじゃあみんな、またな!」
――――
エアロムントまでの道のりに、もう黒い霧はない。魔物たちはまだそこらじゅうに生息し、時折、気性の荒いものが襲いかかってはくるものの、今の四人の敵ではない。帰路の旅は順調に進んでいた。
――フローナの村を出て数日が経った――
日が落ちてきて、一行は野営の準備に取り掛かる。
「カイレン、ここで火を焚くよ」
リュミナがそう言って薪を並べ、火の魔石を取り出す。
「おう!今日はご馳走だぜ!なんたってこんな大きなゴートが狩れたからな」
カイレンとアシュレイは、先ほど倒した大きなゴートを引きずってくる。
「この辺りなら見通しもいいし……。うん、今夜はこの辺で休みましょう」
セリはあたりを見渡し、ちょうどよく生えている木の根元に寝袋を用意する。
「俺たち、かなり手練れの冒険者って感じになってきたよな。野営の支度だってこんなに早くなったし」
火を囲み、美味しそうに肉を頬張りながらカイレンが言う。セリも頷くと、夜空を見上げる。
「ヴェンティアの色んなところを旅して、色んな経験をしてきたもんね……。地図を作って、兄さんを探して……」
「そうそう、リュミナを狙うザンドたちと戦ったり、霧の魔物や"武器狩り"を倒したり……」
アシュレイもそう続けると、鞄から地図を取り出して見せる。
「そのおかげでほら!"ヴェンティアの地図"かなり正確なものが書けたよ!」
「すごい!見せて見せて!」
リュミナは目を輝かせ、アシュレイから手渡された地図を広げる。その地図は、ヴェンティア全土の地形や植生、生息している魔物などの情報のほか、リュミナたちがその場所を訪れた際のエピソードが、小さな日記のように記録されていた。
「へー。こんなことまで詳しく書いてあるんだな……。これ、こないだ行った"煙山"だろ?それにここは"星の剣"を手に入れたあの洞窟!あっ!ここ、リュミナと出会った場所まで書いてあるぜ!」
いつの間にか、リュミナの背後から地図を覗き込んでいたカイレンも、その精度に驚き、あちこちを懐かしそうに指差す。
「"煙山"の中まで詳しく記録されたヴェンティア全域の地図なんて、きっとまだ誰も作っていないんじゃない?」
セリの言葉に、カイレンもガッツポーズを取る。
「ああ!これならギルドからの追加報酬にも期待できる!これでヴェンティアの地図作成依頼も完了だぜ!」
その言葉は、笑顔だったリュミナの胸にチクリと小さな違和感を与えた。
「ああ、これで僕も当面の間、学費や寮の宿代に悩まずに、魔法学者になるための勉強に専念できるよ!」
アシュレイの言葉に、セリも頷きながら続ける。
「私も、この旅でお兄ちゃんを見つけられたし、これからは騎士として、もっともっと強くなってヴェンティア中に私の名前を広めなきゃね!」
「カイレンはどうするの?」
「そうだな……。一度フィンベルの――実家に顔を出すつもりではいるけど、その後は……また、割りのいい仕事を探すかな?うちは家族が多いからね!どれだけ稼いでも足りないのさ!」
三人のこれからの話を聞くたびに、リュミナの胸に、言葉に表せない小さなモヤモヤが出てくる。
(なんだか落ち着かない……。変な感じ……)
夕食を終え、四人は片付けと寝る支度を始める。すると、周囲を歩いていたカイレンが、少し離れた丘に登って三人に手を振る。
「おーい!みんな!こっちに来てみてくれ!」
「なんだよ、カイレン……。君も少しは片付けを手伝ったら……。うわぁ……」
文句を言いつつ丘を登ったアシュレイは、そこで言葉を失い、目の前の光景に釘付けになる。遅れて登ってきたリュミナとセリも、その景色を見て目を細める。丘の下、少し遠くには、ぽつぽつと小さな灯りが集まった巨大な都市――王都"エアロムント"が静かに佇んでいた。すごく綺麗で、それでいて懐かしい場所。
「冒険は……みんな無事に、あそこに帰るまでが冒険だからな……」
カイレンがぽつりと呟いた言葉に、リュミナははっと、今までの変な気持ちの理由に気がつく。
(そっか……。地図が完成して、セリのお兄さんも見つかって、黒い霧の事件も解決した……。もうすぐで私たちの旅は……)
気がつくと、頬から一筋の雫がこぼれ落ちる。
「……リュミナ?どうかしたの?」
心配そうに覗き込むセリに、リュミナは慌てて顔を逸らす。
「べ、別に……それにしても、今日は疲れたな―。なんだか眠たくなっちゃった。先に寝るから、見張りの交代になったら起こしてね」
そう言って足早に走って行ったリュミナは、頭から寝袋を被る。目を閉じたリュミナの頭の中にふと、一つの悩みが浮かび上がる。
(私は……この先どうしよう?)
――それから数時間後――
「リュミナー。起きて、そろそろ交代してくれ……」
眠そうなアシュレイの声に、リュミナはパチリと目を開く。いつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。
「うん、わかった」
アシュレイと見張りを交代したリュミナは、一人でぼーっと、ゆらゆらと小さな火の粉を上げ続ける焚き火を見つめる。――どれくらいの時間が経っただろう。
悩んでいても答えは出ない。そうだ、さっきは途中で寝袋に入ってしまったから、気分転換にあの綺麗な景色をもう一度見てみよう。
そんなことを考えたリュミナは再び丘を登る。エアロムントの灯りの数は先ほどよりも少なくなっていたが、それは逆に一つ一つの光の明るさ、暖かさを感じさせる。
「リュミナ、こんなところでどうしたの?」
振り返ると、目覚めたセリが歩いてきて、リュミナの隣に腰を下ろす。
「ごめんね。起こしちゃった?」
「全然。なんだか寝付けなくって……それよりも、もしかして、何か悩んでた?」
その言葉に驚いたリュミナが目を丸くすると、セリはクスクスと笑う。
「何となくわかるよ。この一年間、ずっと一緒にいたんだもん。リュミナの考えてることくらい……」
そう言うと、セリはポーチから小さな押花の栞を取り出して見せる。
「これ、村を出る前にスリーズさんがくれたの。『きっとあの子は……リュミナは帰り道に悩むことになるだろう。そうなったら、これを渡してあげてほしい』って。……なんの花だかわかる?」
リュミナは首を傾げる。見たことのある色をしているとは思うのだが……。するとセリは、栞を持つ手のひらにそっと魔力を込める。辺りに魔力の光が溢れ、景色が見覚えのある場所に変化していく。
「記憶の花……!」
――光の粒がどんどん濃くなり、懐かしい映像を甦らせる――
「俺はお金!大金稼いで家族に楽させてやるんだ!そのためにも、地図を完成させなきゃな!」
「僕はもっと賢くなって、人類の魔法のレベルを上げる!」
「私は、兄さんを絶対に見つける!」
見覚えのある景色に、聞き覚えのある声。セイリン流星群を見た日に、四人で星に目標を誓いあった記憶だ。
「リュミナはなんて願ったんだ?」
映像の中のカイレンの声に合わせて、隣に座っていたセリもリュミナの方を見つめる。
(そうだった。思い出した。私の願ったこと、これからしたいと思ったこと……)
立ち上がったリュミナは、目を閉じて、記憶の中の自分のセリフを口に出す。セリはそんなリュミナを見て、にっこりと笑った。
「私?私はね、この広い世界をもっと見て、もっと色んなことを知りたい!」
映像を形作っていた光の粒が弾けて、元の押花の栞へと戻っていく。
リュミナは深く息を吐き出すと、再びエアロムントを真っ直ぐに見つめ直した。その顔にはもう、先ほどまでの悩みは残っていなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第49話「この先の道」いかがでしたか?
エアロムントへの帰り道、リュミナは、この冒険の終わりを感じて少し寂しさを感じるとともに、この先自分は何をするのかわからないという不安に襲われてしまいました...。
しかし、そんな彼女を救ったのは、星に誓ったあの日の記憶。リュミナは、自分のやりたいことを見つけることができたようです。
さあ!次回は遂に、一行がエアロムントへ到着します!
次回「風の祝福」金曜日投稿予定です。お楽しみに!
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