第47話 暁のエアロムント
時は少しだけ遡り、リュミナたちが霧の王と対峙している頃――
エアロムントの国王は、城の最上階で、黒い煙の吹き出す"煙山"の方を見つめていた。そこへ、王の側近が二人歩み寄ってくる。
「王様、"煙山"から出続ける黒い霧は、やはり周囲の魔物を凶暴化させる力があることが判明しました。学者の研究では、一種のウイルスのような成分が含まれているのではという話も出ております!」
「ウイルスや毒の類であった場合、隣国、"火の国"からの軍事的な工作の可能性もあります!もしそうであった場合、我が国も、騎士団の派遣など、報復措置も考えるべきです!」
その言葉に、国王はゆっくりと二人の方を振り返ると、静かに首を振る。
「騎士団の調整は行うが、明確に"火の国"からの攻撃であることが分かるまで、こちらから攻撃を行う気はない」
「ですが、何かあってからでは……」
その言葉を遮るように、王は持っていた杖を強く地面に打ち付ける。
「話は以上じゃ。二人とも、下がるがよい」
静かだが力強い言葉に、側近は頭を下げると、部屋を出ていった。扉が閉まるのを見届けた王は、再び"煙山"の方を見つめると、静かに独り言を始める。
「本当にこれが攻撃なら、我が国も、領土を広げるチャンスだったんじゃがな……」
そう言うと、一枚の紙を懐から取り出し、階下へと放り出す。空中を舞う紙を掴んだ人影はその内容に目を通すと、静かに夜の闇へと姿を消した。
――――
「……"火の国"からの攻撃である証拠ね……」
人気のない場所で、男は懐から一つの小瓶を取り出す。その瓶のラベルには、"火の国"の紋章である、猛々しく燃える炎のマークが刻まれている。男は瓶を握る手に力を込める。
「こんな物が見つかれば……あの国王も、兵をあげる決断をするだろう……」
ニヤリと笑う男の手を、一本の鞭が捉え小瓶を奪う。
「何者だ!?」
声と共に、眩い光に照らされた男はゆっくりと振り返る。男の前に立っていたのは、犬と狐の面を被った二人組だった。
「やはりあんただったか……。国王側近のスパイ野郎!」
犬の仮面の男に呼ばれた男はゆっくりと前に歩き出す。光に照らされたその男は、先ほどの国王側近の人物の一人――以前ギルドにて、カイレンたちとも出会った男、ライだった。
「何のことです?私はただ、"煙山"の事件が、"火の国"からの攻撃である可能性を調べていただけですが?」
白々しい態度をとるライに、犬の面の男は奪い取った瓶を見せて続ける。
「お前がこいつを、"煙山"の主のドラゴンに接種させ、黒い霧を撒いたんだろう?もう調べはついてるんだ!」
そう言うと、小瓶を開けて中に水を入れ、再び瓶の蓋を閉める。すると瓶の中で黒い霧が発生する。瓶の中には、水に反応して霧を出す薬品が入っていた。
「あの山に住むドラゴンは水の属性だ!お前の狙いは、こいつで暴走させ、"火の国"が風の国へ攻撃を仕掛けたように見せかけて、戦争を起こさせようとしたってとこだろう?唯一計算違いだったことといえば、ドラゴンは思ったように暴走せず、"火の国"からの攻撃に見せるには弱かったってところか?」
ライは一瞬、唇を噛み締めるが、それでも開き直った態度で反論する。
「それがどうした?それはお前の推測だ。私が撒いたと言う証拠にはならない!」
すると、狐面の男が懐から3枚の紙を取り出してライの前に投げる。
「それは、門番と学者に聞いた、お前の外出記録と、"煙山"で異常があった日の記録、そして地図作成の統計から調べた、この街から"煙山"までの移動時間の平均だ。噛み合いすぎている」
犬面の男も続ける。
「ついさっき、テレポートジェムで男が一人、"煙山"から帰還したって記録もあるし、俺たちの協力者が、"煙山"で怪しい人影を見たって言う証言もあるぜ?あんたの靴についた泥。調べればさらに面白いことが分かりそうじゃないか?なぁ?戦争屋?」
そう言って、犬面の男は、最後にリュミナから受け取った紋章を見せる。
「俺は世界中を旅していてね。いくつかの国では、他国に戦争を起こさせ、弱ったところを襲う物騒な組織もあるって話だ。そいつは、エアロムントから"煙山"に向かう道中で、とある女の子が偶然につけた、その組織の紋章だ。さぁ、お前の後ろにある組織について、たっぷりと吐いてもらおうか!」
そこまで聞いたライは、観念したかのように両腕を上げると、そこから閃光弾取り出し、地面に投げる。
「頼む!ローグ!」
犬面の男の声と共に、飛び上がったライは、素早く飛び出してきた男によって地面に撃ち落とされる。ライを拘束したのは、エアロムントの騎士団長であるローグだった。
「ぐっ……我らに正義を!世界に秩序を!」
捕まったライはそう叫ぶとともに、持っていた丸薬を自身の口に放り込む。途端に、ライの体は崩れて塵となってしまった。
「しまった!奴らこんなことまでするのか!」
駆け寄った犬仮面の男は、悔しそうに仮面を地面に投げ落とす。
「すまない。ジスト、ラウル、油断した……」
ローグが詫びると、狐面を外したラウルは首を振る。
「今のは俺たちも想定外だ。仕方がない。それに……」
ラウルは、遥か遠く、煙山の向こうから登る朝日に目を細める。煙山から噴き出る煙がだんだんと白く、以前の美しい姿に戻ってきていた。
「霧による事件は解決され、戦争も未然に防ぐことができた……。これだけでも上出来だろう」
「……ああ、ソラやザンド、それにカイレンやリュミナたちにも感謝しないとな」
「ジストもラウルもよくやってくれた。王には私から報告しておく。また何かあったら頼むぞ」
そう言ってくるりと背を向けて歩き出すローグに、ジストは両手をあげてやれやれとポーズを取る。そうして3人は、それぞれの居場所へと歩き出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第47話「暁のエアロムント」いかがでしたか?
リュミナたちのいないエアロムントで暗躍する影...。何と今回の霧の事件を引き起こしたのは、戦争を起こさせようとする何者かの仕業でした!
ジストや、死に際のライの言葉から、"戦争屋"と呼ばれる者は、どうやらヤバい組織のようです...。
さあ、切り替えて、次回は大仕事を終えたリュミナたちがエアロムントへと帰ってきます!
次回「祝いと再会」月曜日投稿予定です。お楽しみに!
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