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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第46話 霧晴れ

 リュミナが飛び出していったすぐ後、星の剣に力を込めるカイレンたちを、とめどなく溢れ出るどす黒い霧が覆う。

 

「まずい!セリ、この霧払える!?」

 

 アシュレイの言葉に、セリは必死に剣を振り、押し寄せる霧を浄化しようと試みる。しかし、突然増えた霧を完全には浄化しきれず、カイレンの剣に集まる光は少しずつ霧に奪われていく。

 

「ヤバい!このままじゃ……」

 

 カイレンが悔しそうな顔で剣を見下ろす。その時、足元から小さな風が吹き上がり、周囲の霧を微かに吹き飛ばす。

 

「カイレン!二発目はもう撃てない!今のうちに溜め切ってくれ!」

 

 ソラが、僅かな風を纏った剣を振り上げて叫ぶ。

 

「ああ!ありがとう!」

 

 星の剣が再び光に包まれ、暗い霧の中を明るく照らす。

 

「よし!みんな、伏せてくれ!」

 

 カイレンは、チャージの完了した剣を振り上げて、周囲

の霧を吹き飛ばしながら飛び上がる。

 

「〈セイクリッド・バスター〉!」

 

 勢いよく地面に打ちつけられた光の剣は、溜めたエネルギーを一気に周囲へと放出し、周りを取り囲んでいた霧の魔物たちを次々に浄化していった。


 ――――


「ふぃー。助かったよソラ。それにしても、さっきは何でいきなり、霧の勢いが増したんだ?」

 

 周囲の黒い霧を完全に浄化したカイレンが、ふらふらと立ち上がり、周囲を見回す。黒い霧と、霧の魔物たちが浄化され、光の粒が白い霧のようにあたり一面に広がる中、少し離れた場所で、立ち上がるリュミナの姿が目に映る。手を振ろうとした時、彼女の後ろの光の中から、浄化されなかった霧の魔物が、腕を振り上げながら現れる。

 

「リュミナ!後ろ!」

 

 その言葉に驚いたリュミナは、遅れて後ろを振り返るが、すでに魔物の腕は彼女の目の前まで迫っていた。

 

 (避けられない!)

 

 目を閉じたリュミナは、その後に響いた重い打撃音と、魔物の悲鳴のような声を聞き、そっと目を開く。リュミナの視界には、大きく吹き飛ばされた霧の魔物と、彼女の後ろから伸びた巨大な翼が映っていた。


 リュミナが振り返ると、大きく翼を広げたドラゴンが、静かに彼女を見下ろしていた。真っ黒だった霧の王とは違い、その体は白く、ツヤツヤとした体毛は、鏡のように周りの光を反射して輝いている。ところどころに存在する、毛先の黒い部分は、体を動かすたびに空気中に抜け落ち、光の粒となっていく。

 

「あなたは……霧の王?」

 

 ドラゴンは何も言わずに、ただ、リュミナを見つめる。しかし、その瞳には僅かに、感謝のような、温かな光が宿っていた。


「リュミナ!大丈夫か!?」

 

 白い霧をかき分けて、カイレンたちが駆け寄って来る。

 

「まだ霧の魔物たちは全部倒せたわけじゃない!油断しないで……って、ドラゴン!?」

 

 カイレン、セリ、アシュレイ、ソラはリュミナの後ろで佇むドラゴン――霧の王だった者の姿に驚いて身構えるが、先ほどまでと違い、静かに佇む魔物から敵意を感じない。リュミナがゆっくりと首を振ると、一行は向けた武器をゆっくりと下ろした。


 周囲に広がる光の中からは、そこらじゅうから魔物の声が響いている。

 

「気をつけて!残った魔物たちに囲まれてる!」

 

 アシュレイが叫び、五人はボロボロな体で武器を握りしめると、周りを警戒する。

 

「霧の魔物はだいぶ減ったはず……。塞がれた道とは違うルートから逃げられるか?」

 

 ソラの提案に、セリは首を振る。

 

「ダメ……。減ったとはいえ、今の状態だと、周りにどれくらいの魔物が潜んでいるかわからない。下手に動き回るのは逆に危険よ……」

 

「でもこのままじゃ、どのみち全員やられちまうぞ……」

 

 カイレンも疲弊した声で返す。動けない五人を見たドラゴンは、大きな翼を振り上げると、勢いよく飛び立った。

 

 巨大なドラゴンの羽ばたきは、大きな風を起こし、あたりに潜んでいた魔物たちが姿を現す。潜む霧が無くなった魔物たちは一斉に飛びかかって来る。しかし、次の瞬間、上空から飛んできたいくつもの白い塊が、次々と魔物を包み、吹き飛ばす。吹き飛ばされた魔物は、気を失うと共に、全身から黒い霧が抜けていった。

 

「……助けてくれたの……?」

 

 リュミナは空のドラゴンを見上げる。ドラゴンは空を舞い、次々と白い塊を山に放ち、黒い霧に覆われた煙山を、元の白い煙に包まれた山に戻していく。

 

「みんな!無事か!?」

 

 道を塞いでいた大岩を壊したザンドとスリーズが走って来る。

 

「突然、黒い霧が消えて、代わりに白い霧が増えてきたんだが……もしかして、霧の王に何かあったのか!?」

 

 ザンドの問いに、カイレンが首を振る。

 

「いや、何が起きたのやら……。多分あいつが霧の王だよ」

 

 カイレンの指差した方向から、ドラゴンが戻ってきて、リュミナたちの近くに降りてくる。その姿を見て、ザンドとスリーズは驚愕する。

 

「何!?このドラゴンが!?」

 

「体色は黒から白に変わってはいるが……。このシルエットに、あの傷跡……。確かに、こいつが霧の王で間違いなさそうだ……」

 

 冷静に分析するスリーズに。リュミナが頷いて答える。

 

「この子が、霧に苦しんでいるように見えたから、万能薬である"フェアリードロップ"をあげたの。そうしたら、黒い霧が抜けて、私たちを助けてくれたの」

 

 その言葉にアシュレイも続く。

 

「とにかく、カイレンやドラゴンのおかげで霧も無くなった!これで一件落着だよ!」

 

 全員が喜ぶ後ろで、リュミナは何かに背中を叩かれる。振り返ると、ドラゴンは静かに横たわり、柔らかな眼差しでリュミナを見つめていた。

 

「どうしたの……?大丈夫?」

 

 リュミナたちが駆け寄ると、ドラゴンは静かな声でゴロゴロと声をあげる。

 

「この傷だ……。きっと、最後の力を振り絞って、黒い霧を消してくれたんだろう」

 

「そっか……。悪いことをしちゃったな……」

 

 肩を落とし、申し訳なさそうな顔をするカイレンやセリに、ドラゴンは優しく息を吹きかけ、小さく首を振る。少しずつ、ドラゴンの体が光に包まれ消えていく。ドラゴンは全員を見回すと、最後にリュミナに優しい眼差しを送ると、地面に倒れ、完全な光となって消滅した。

 

「リュミナに『ありがとう』って言ってるみたいだった」

 

 セリがそう言ってリュミナの頭を撫でる。

 

「ああ、ドラゴンはきっとこの光となって、山を見守っているさ。最後に、霧から救ってくれたリュミナにお礼を言ってな」

 

 ザンドも、山に溶け込んでいくドラゴンだった光を優しく見つめる。うつむいていたリュミナは静かに頷くと、ポーチから小さなタネを取り出し、日の光がよく当たる場所に植えた。最後に地面をポンと叩くと、顔を拭って立ち上がり、笑顔でみんなの方を振り返った。

 

「帰ろっか」

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第46話「霧晴れ」いかがでしたか?


 前話でリュミナが放ったフェアリードロップは、霧の王を白いドラゴンへと戻すことに成功しました!霧の王と呼ばれ、恐れられていたドラゴンも、あの霧の被害者だったのでしょうか...?


 そんなドラゴンはリュミナたちの危機を救うと、今までのダメージが原因なのか、消えてしまいました...。


 少しの寂しさを胸に、彼らはエアロムントへの帰路に着きます。


 一方その頃、エアロムントでは何やら怪しげな動きをする人物が...?


 次回「暁のエアロムント」金曜日投稿予定です。お楽しみに!


 

 なんと先日、この作品に高評価をしてくれた方が現れました!ありがたい限りです!これを励みに、より一層執筆も頑張っていきますので、また気が向いた時にでも、どうぞ読んでやってください♪


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