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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第44話 霧の王

 ジストたちと別れ、岩場を駆け上がった六人を待っていたのは、もはや「自然」とは呼べない異様な光景だった。

 

 標高が上がるにつれ、白かった火山の煙はどす黒い霧に飲み込まれ、視界は極端に狭まっていく。激しい突風が吹き荒れ、飛来する小石が肌を打つ。その風の中には、鋭く研ぎ澄まされた火のマナの断片が混じっていた。

 

 ごうごうという風の中、突如、霧の向こう側で巨大な竜巻が巻き起こり、黒い霧を一瞬だけ払いのけられる。

 その中心にいたのは、剣に竜巻を纏わせた青年――「風の勇者」だった。

 

「〈サイクロン・バスター〉!」

 

 斬撃と共に放たれた竜巻は、周囲に広がる霧をあっという間に吹き飛ばす。しかし、飛び散った場所から、穴を埋めるように霧が吹き出しさらに多くの霧が辺りを包む。わずかに勇者がふらついたその時、足元に霧の中から鋭いものがぎらりと光る。

 

「危ない!」

 

 飛び出したスリーズの鉤爪は、霧の王の爪を弾き、火花を散らす。続いてリュミナたちも飛び込んでいき、周囲を囲む霧に立ち向かう。突然の助っ人に驚く青年に、ザンドが肩を掴む。

 

「久しぶりだな!ソラ!ギルドで、風の勇者の称号を賭けて戦って以来か!?」

 

「ザンド!?何でここに?」

 

 ソラと呼ばれた青年は、カイレンとセリの持つ剣の光を目にして納得したように頷く。

 

「……そうか、ジストの言っていた助っ人か!ありがたい!」

 

「みんな、気を緩めないで!敵の位置がわからない!まずはこの局面を何とかするのが先だよ!」

 

 アシュレイがそう言って杖を振る。周囲を霧に囲まれた一行は、互いに背中合わせで武器を構えた。


 ――――


「はぁぁぁっ〈エア・スラッシュ〉!」

 

 ザンドの渾身の斬撃は、霧をすり抜けて空を切る。

 

「……そこっ!」

 

 すり抜け、離散した霧が一箇所に集まった瞬間、リュミナは魔法の矢を放つが、それも霧をつき抜けて、その先の地面に刺さる。

 決まった形を持たず、常に変化し続ける霧の王には、すべての攻撃がすり抜けてしまう。

 

「くそっ!このままじゃ、いずれみんなやられる!」

 

 間一髪、霧の王の攻撃を受け流すカイレンだったが、その動きは目に見えて鈍くなっている。周囲を見渡したスリーズは、意を決した表情で、霧の一際濃くなっている場所の真上へと飛び上がった。

 

「スリーズ!それじゃ格好の的だ!」

 

 アシュレイの制止も虚しく、スリーズの背後に形成された爪は、音もなく彼女に斬りかかる。

 

「ザンド!」

 

「おうよ!」

 

 スリーズの掛け声が早いか、ザンドは雷を纏った剣で、スリーズに触れる直前の爪を叩き切る。


 ガチン!という音とともに、ザンドは腕に確かな手応えを覚える。

 

「そうか!大人数なら、その手があったか!」

 

 ソラはその光景を見て、剣を握る拳に力を込める。

 

「みんな!聞いてくれ!奴は常に霧に隠れていてこちらの死角から攻撃を仕掛けてくる!お互いに守り合い、その一瞬にカウンターを仕掛けるんだ!アシュレイ君、ザンド、君たちは大規模な風の魔法が使える!僕と一緒に、周囲の霧を吹き飛ばすんだ!少しでも、奴の動きを制限するためにね!スリーズさん、リュミナさん、君たちは身軽な動きを活かして、霧の王の攻撃を誘発させてくれ!一番負担が大きい役回りですまない!カイレン君、セリさん、君たちの、その光の剣なら、奴に手痛いダメージを与えられるだろう?」

 

 ソラの指示に、各々が的確な配置につき、体制を立て直す。

 

「流石、変わってないな!お前の目は!」

 

「ザンド、君は、昔は『サンダーソード』一辺倒だったのに、変わったね」

 

 こんな状況でも軽口を叩き合う二人に、スリーズも自然と口元が緩む。

 

「よし、みんな!勝機は見えた!第二ラウンド!行くぞ!」

 

 カイレンの掛け声に、一行は再び武器を構え、霧の王には立ち向かった。


 ――――


「〈サイクロン・バスター〉!」

 

 風の勇者の掛け声と共に、巨大な竜巻が目の前の霧を散り散りに吹き飛ばす。

 

「カイレン、セリ、奴の隙を、実態を見逃すな!」

 

 そう言いながら、吹き飛んだ霧の中をスリーズとリュミナは縦横無尽に走り回る。そんな二人を包むように霧が噴き出すも、アシュレイの放つ風弾と、ザンドの放つ斬撃がそれを許さない。

 

「見えた!そこ!」

 

 セリの剣が、リュミナを狙った魔物の爪を捉える。光の剣に斬られた傷は、周囲の霧を浄化しながら、一瞬だが、霧の王の本体が持つ、巨大な腕を晒す。

 

「あれが、霧に包まれてない霧の王の"真の姿"ってわけか!逃がさないぜ!」

 

 すぐに霧の中へ引っ込んだ腕に、ザンドは追撃の斬撃を放つが、それは霧をすり抜けて空を切る。

 

「やはり、そう簡単にはいかないか……。でも、確実に攻撃は効いている!みんなこの調子でいこう!」

 

 ソラの掛け声に、一行は頷き、さらに機敏に動き出す。周囲を囲んでいた霧は、いつのまにか半分ほどの量に減っていた。

 

「カイレン、そこだ!」

 

「おっしゃ!」

 

 再び霧の王の攻撃に気付いたアシュレイが、カイレンに追い風を吹かせて加速させる。

 

「〈セイクリッド・バスター〉!」

 

 溜め込んだ光を一気に解き放ち、周囲の霧が一気に浄化され光の粒となって消えていく。誰もが手応えを感じていた。

 

「奴を守ってた霧が晴れていく……。霧の王の"真の姿"拝ませてもらうぜ」

 

 一行はどんどん減っていく霧の塊を注意深く見つめる。次の瞬間、周囲の光を振り払うように、巨大な翼が出現し、続いて、何度も一行を狙っていた大きな爪の生えた前足が振り下ろされる。霧の晴れた魔物の姿を見たアシュレイは息を呑む。

 

「あれは……まさか……この山に住んでたって言う……?」

 

「あ、ああ……。俺も本物を見るのは初めてだが……」

 

 頷いたザンドはその魔物の放つオーラに、冷や汗を拭う。霧の散った中、一行の前には、一頭の巨大なドラゴンが姿を現した。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第44話「霧の王」いかがでしたか?


 先に辿り着いていた「風の勇者」ソラと合流し、遂に「霧の王」との決戦が始まりました!


 霧によって実体を捉えられず苦戦する一行でしたが、互いの連携により、厄介な霧を消し去ることに成功しました!


 霧に包まれていた魔物の正体は...なんとドラゴン!リュミナたちは勝てるのでしょうか...?


 次回「最後の策」月曜日投稿予定です。お楽しみに!


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