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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第43話 煙の番人

 山頂へ続く一本道を急ぐ六人の耳に、白い煙を切り裂くような激しい金属音と、大地をも揺らす咆哮が届いた。

 

「この音!先で誰かが戦ってる!」

 

 スリーズの言葉に、カイレンたちは一斉に駆け出し、音のする方へと斜面を駆け上がる。視界を遮る煙を抜けた先、開けた岩場には、魔法使いの女性と盗賊の男性が、岩壁に背を預けてぐったりと倒れ込んでいた。二人とも装備はボロボロに引き裂かれ、意識も朦朧としているようだ。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 駆け寄ろうとするリュミナの肩を、セリが抑えて警戒させる。

 

「待って、リュミナ!……この音……上!」

 

 次の瞬間、巨大な岩が降って来て、一行のすぐ近くに着弾する。そして、その岩に、見知った顔の人物、ジストが、折れたハンマーと共に地面に着地した。

 

「くそっ!どんだけ頑丈なんだ。ミスリルハンマーのが先に砕けるなんて……」

 

 すると、落ちて来た岩から突然手足が生え、巨大な顔がこちらを睨む。

 

「こいつは……ボル・ガメール。火山岩でできた、硬い甲羅が特徴の魔物だ!」

 

 アシュレイが叫ぶと、カイレンが前に出る。

 

「ジストさん!加勢するよ!」

 

「なっ、カイレン!?何でこんなところに……って、その剣……」

 

 ジストがカイレンの手に輝く星の剣に目を落とすと、ザンドがポンと肩を叩く。

 

「ま、そういうことだ。ここは俺たちに任せて、下がってな!お前たち!油断すんなよ!」

 

 ザンドの掛け声と共に、六人は一斉に武器を構えた。


 ――――


「はぁぁぁぁ!〈セイクリッド・バスター〉!」

 

「うおぉぉぉ!〈サンダー・ソードv2〉!」

 

 ボル・ガメールの背中へ飛び乗ったカイレンとザンドは、お互いに力を込めた剣を甲羅へと叩きつける。しかし、甲羅には傷一つつかず、二人は振り落とされる。


「くそっ!なんて硬い甲羅だ!」

 

「だったら側面から!セリ!」

 

 アシュレイの魔法による追い風を受け、飛び出したセリは光の一閃を抜き放つが、手足を引っ込めた魔物には、側面でさえも隙はなく、ガチンという音と共に弾かれる。

 

「くそっ!バカに頑丈だぜ……あいつ」

 

 カイレンが悔しそうに、地面に剣を突き立てる。

 

「ああいうやつには、物理攻撃を諦めて、潔く魔法で相性勝負をするか、硬さで防ぎきれない超一撃を叩き込んで、ガードの上からかち割るかの二択だ!」

 

 ザンドが言うと、魔物は話す隙を与えないとばかりに炎弾を放って来る。

 

「この中で、おそらく奴に有効な、水の魔法を使える奴は?」

 

 飛び退きながら、スリーズが確認すると、セリが自信なさげに答える。

 

「わ、私一応、水の魔法に適性があるの。と言っても、魔法自体が苦手で、できるのはせいぜい、剣に水を纏うくらいだけど……」

 

「いや、それでも十分だ!あとはそれを、リュミナのエーテルの矢で強化すればいい!」

 

 アシュレイが、少し離れた場所にいるリュミナを見る。

 

「任せて!」

 

 リュミナは、以前、"武器狩り"に襲われた際に放った氷の矢の感覚を思い出す。瀕死のリュミナは、無意識のうちに、周囲のマナを読み取り、わずかな水のマナと、風のマナに矢を当てて、融合させることで氷の矢を放ったのだ。

 

(……あの時の、あの感覚を……)

 

 リュミナは集中し、周囲のマナの動きを感じ取る。火山特有の火のマナ、土のマナ、壁の隙間からわずかに流れる風のマナ、そして、セリの剣の周りにわずかに集まり始める水のマナ。

 

「リュミナ!行くよ!」

 

 セリが飛び出すのを感じ、リュミナも弓を引き絞る。水を纏ったセリの剣が、魔物に触れて飛沫が跳ねる。放たれた矢は、そんな飛沫を浴びて、頑丈なボル・ガメールの甲羅に突き刺さる。

 

「みんな、良くやった!あとは、俺が決める!」

 

 全員の背後から、光のエネルギーを溜め切ったカイレンが飛び出し、刺さった矢を目掛けて渾身の一振りを繰り出した。


 ――――


「それにしても、何でジストさんがこんなところにいるんだ?」

 

 砕け散った、ボル・ガメールの甲羅を拾いながら、カイレンが尋ねる。

 

「あそこで倒れてた二人を見ただろ。俺は、風の勇者のパーティと一緒に、"霧の王"を倒しに来たんだよ。……よし、甲羅はこれで全部だ。さ、カイレン、これ持って早くこの先へ、"霧の王"と、我らが風の勇者が戦ってる。助けになってやってくれ」

 

 ジストが、拾い集めた甲羅の破片をまとめて、カイレンに渡す。

 

「ジストさんは?」

 

 セリが尋ねると、ジストは、スリーズに看病されている二人を指差す。

 

「あんな状態の二人を放って置けるわけないだろ。それに俺は、本来戦闘職じゃないんだ」

 

 そう言って、もうクタクタとアピールするジストの懐に、見慣れないブローチが光る。

 

「あれ……ジストさん、そのブローチ……」

 

 そう言ってリュミナは、ポーチから、同じようなデザインの紋章、以前、ヴェンティア北部へと旅立った際に拾ったものを取り出して見せる。

 

「おっと……リュミナちゃん、これをどこで?」

 

「えっと……紫の森に入る前の、この辺!」

 

 アシュレイが広げた地図をもとに、リュミナが、紋章を拾った場所を説明すると、ジストはニヤリと笑う。

 

「ありがとう。こいつには、金銭的な価値はほぼないんだが、それでも今の俺が最も求めていたものだ。少しの間だけ貸してくれないか?後で返す」

 

 真剣な表情のジストに、リュミナは迷わずに頷く。そんな二人のやりとりを見たカイレンが、二人の間に突っ込んでくる。

 

「こらっ!リュミナ!そういう時は少しでもお金をもらわないと、タダ働きになっちゃうだろ!さぁジストさん、この紋章にいくら出す?」

 

 カイレンの商談が始まる予感を感じ取り、セリが慌ててカイレンを引っ張る。

 

「ほらカイレン!奥で戦闘音がするよ!急がないと手遅れになっちゃうよ!じゃね、ジストさん!この人たちをよろしく!」

 

 手を振るジストを後ろに、駄々をこねるカイレンを引っ張り、六人は先へと走っていった。その様子を見送ったジストは、足元でテレポートジェムを起動し、小さな声で呟いた。

 

「みんな……任せたぜ……」

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