第42話 煙山
「え!?じゃあ、ザンドたちが私を狙ってたのって、エルフなら紫の森を浄化できると思ってたからってこと!?」
夕食の席で、ザンドの昔話を聞き終わったリュミナは驚いて尋ねる。ザンドは気まずそうに頭を掻き、視線を泳がせた。
「……まあ、最初はな。エルフなら、指パッチン一つで森をキラキラに元通り! なーんて都合のいい奇跡を信じてた時期もあったんだ……」
その言葉に、リュミナはうつむき自身の手を見つめる。
「……ごめん。私や、森のみんなにも、そんな力は無いよ……。お母さんですら、自分の森を浄化するので精一杯って言ってた……」
「大丈夫、リュミナが謝る必要は無いよ」
スリーズがスープの器を置き、真っ直ぐにリュミナを見据える。
「私にも、森を浄化する力の片鱗すらないんだもの。純粋なエルフにも、そんな力があるなんて、本気で信じてはいなかったから。それでも何かを期待して旅に出て……結果的に、あなたに出会えてよかった」
そう言って、自分の胸に手を当てる。
「私の旅の目的だった、大精霊に会うきっかけをくれた」
ザンドも頷いて、眠っているカイレンたちに目を向ける。
「それに、ローグも言ってただろ?今のお前たちは、この国でも相当な力に選ばれた。そんな奴らの力を借りれば、きっとこの霧の問題も解決できる!頼りにさせてもらうぜ!」
リュミナが頷くと、スリーズが手をぱんと叩く。
「さて、昔話はこれでおしまい!明日は"煙山"だからね、今日は早く休んで、明日に備えるんだ」
次の日、村の出口へ村長が見送りにやって来る。
「カイレンさん、リュミナさん、スリーズさん、うちの馬鹿が迷惑をかけるでしょうが、どうか、よろしくお願いいたします」
「親父……」
ザンドは困ったような表情で頭を掻き、みんなはそれを笑う。体力の回復した一行は、気持ちを新たに、目の前に聳える"煙山"へと歩みを進め始めた。
――数日後――
麓を抜けて標高を上げるにつれ、空気の質が明らかに変わり始めた。
辺りには、山の名前の由来でもある、白く重たい煙が立ち込め、視界を遮っていく。それは先ほどまで一行を苦しめていた邪悪な黒い霧とは異なり、どこか硫黄の匂いが混じった、活火山の息吹そのものだった。
「……前が見えにくいね。霧じゃないけど、これはこれで厄介だわ」
セリが剣の柄に手をかけ、周囲を警戒しながら周囲の煙を手で払う。
「吸いすぎないように気をつけて。火山性のガスが混ざっているかもしれないから」
スリーズが全員に呼びかけた。
少し先は、出っ張った岩壁が日光を遮り、他よりも深い暗闇に包まれていた。アシュレイが杖の先を光らせて足元を照らすが、その光の中に映し出された光景に、全員が息を呑んだ。
岩肌のあちこちに、ヴォルグや大型の魔物の亡骸が転がっている。さらにそれだけではない。地面には深く鋭い斬撃の跡が刻まれ、岩石は強力な魔法の衝撃で粉々に砕け散っていた。
「この傷跡……最近のものだね。ここで激しい戦闘があったみたい」
リュミナが倒れた魔物を見つめる。
「ああ、それもかなりの手練れだ」
ザンドはしゃがみ込むと、抉られた地面を指でなぞる。
「こいつは、"風の勇者"の戦闘跡だろう。確か、フローナの村を経由せずに、エアロムントから直接この山を登るルートでも、少し前で道が繋がっていたんだ」
カイレンは、戦闘跡のみで、魔物の亡骸が不自然に転がっていない場所を見つめる。
「おそらく、消滅した霧の魔物も含めると、相当な数と戦ってるみたいだな……」
「僕らも急ごう。……この感じ、もうそんなに離れてはいないはずだよ」
アシュレイの言葉に、全員が力強く頷いて、走り出す。白い煙の向こう側、山の頂から放たれる不気味な黒い波動は、刻一刻とその強さを増していた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第42話「煙山」いかがでしたか?
ついに、"霧の王"の住処である煙山へと足を踏み入れた一行は、先に来ていたであろう"風の勇者"の痕跡を発見しました!それと同時に見つけた戦闘跡は、この先の戦いの過酷さを物語っています...。
次回「煙山の番人」水曜日投稿予定です。お楽しみに!
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