第40話 包まれた場所
――"武器狩り"討伐から間もない頃――
周囲に現れたヴォルグの群れを倒したリュミナとスリーズは、紫の森の入り口に腰掛け、四人の帰りを待っていた。二人はそこで、森の奥に輝く光を目にした。それからしばらくの静寂の後、ガサガサと草木を分ける音が響き、木々の間から四つの人影が姿を現した。
「終わったぜ、リュミナ、スリーズ」
カイレンが親指を突き立てて二人にウィンクする。
「君たちの、星の剣の光が、ここまで届いていた。おそらく大規模な戦闘だったろうに、みんな目立った怪我も無いようで何よりだ」
スリーズが四人を労い、リュミナも頷く。
「……それで、これからどうする?大きな怪我がなさそうなのはいいけど、みんな疲れたでしょ?一度エアロムントに戻ろうか?」
リュミナが尋ねると、ザンドは首を振る。
「いや、実はこの先にな……」
その言葉を遮るように、突如として周囲に嫌な感覚が広がる。瘴気とも異なる、暗くて冷たい嫌な感覚。それを感じ取ったリュミナとスリーズは顔を顰める。
「……何?今の感じ……?」
「わからない。ただ、おそらくあの山の方角から……」
そう言ってスリーズは、少し離れた場所に佇む巨大な山、"煙山"の方を向く。
「何だこれ!みんな!地面が!」
カイレンの声に、六人は一斉に足元に目を落とす。黒い霧のようなものが、地面を走るように広がる。それが全員の足元を通り抜けていった後、どこからか、ヴォルグやゴートなど、付近に生息する魔物達の興奮したような叫び声が響いてくる。さらに、霧はリュミナ達の足元に倒れていた魔物の亡骸にも取り憑き、魔物の足がピクリと動く。
「……こいつはまずいな。とにかくみんな、俺について来い!リュミナ、スリーズ、少し苦しいだろうが、我慢してくれ、全速力で森を抜けるぞ!」
ザンドが先導し、六人は一斉に紫の森の中へ走って行った。全員が走り去ったすぐあと、霧に包まれて傷が完治したヴォルグ達は、ゆっくりと立ち上がると、一斉に遠吠えをあげた。
紫の森の中でも、異変は確実に起こっていた。森の中に住んでいる多くの魔物が、黒い霧を纏い、正気を失ったような表情で暴れ出している。
「もう少しだ!みんな頑張れ!」
ザンドはそんな森の中を、迷わずに突き進み、全員をどこかに案内しているようだった。だんだんと辺りに生えている木々が減ってくる。
「あそこだ!出口!」
六人は一斉に、森の外へと飛び出した。
「スリーズ、リュミナを頼む」
森から出たザンドはそう言ってスリーズを振り返る。スリーズは頷くと、リュミナの髪を耳に被せるようになびかせると、人差し指を立てて囁く。
「リュミナ、少し事情があってね、しばらく、エルフであることは隠してほしい」
そう言って、スリーズも自身の耳を髪で隠した。その姿を確認したザンドは頷くと大声を上げる。
「おおーい!俺だ!ザンドだー!」
そう言ってザンドは、目の前に広がる空気の檻のようなものに手を振る。すると、空気の檻に小さな穴が開き、中から人が出て来た。
「ザンドか!久しぶりだな、こっちは……旅の仲間かな?とにかく入りな。急がないと魔物達が入ってくる」
六人は案内されるまま、空気の檻の中へと入った。その中には、とても、紫の森の隣に位置しているとは思えない、平和な村が広がっていた。
「ここが、俺の故郷、"フローナの村"だ!ゆっくり滞在はできないが……まあ、"武器狩り"との戦闘での傷を癒すくらいはできるぜ!」
疲れが溜まっていたのか、カイレン、セリ、アシュレイは、宿に案内されるなり、ベッドに吸い込まれるように眠ってしまった。
「……まあ、みんな頑張ってたしな……。一日くらい泊まって行くとするか!」
ザンドがそう言うと、誰かが宿の階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
「ザンド、村長が呼んでるよ」
村民に言われると、ザンドは「やっぱりか」という顔をして立ち上がる。
「おぅ、分かった。今行く。スリーズ、リュミナ、悪いが一緒に来てくれ」
ザンドの後を追って、村の中を歩くリュミナは、改めて平和な雰囲気に疑問を持つ。
「すごく平和でいい村だね。魔物や瘴気の影響もなさそう。とても、紫の森の中とは思えないよ」
「入ってくる時に、風の障壁みたいなものにはいったでしょ?あれは、魔法で作った風の結界なの。毎週、村の人が交代で張っているから、瘴気や霧、魔物は中に入って来られないんだ」
と、スリーズが説明する。
「……着いたぜ。ここだ」
ザンドに続いて、リュミナとスリーズは村長の家へと入って行った。
家の中では、髭を蓄えた老人が、不機嫌そうな顔で座っていた。ザンド達が部屋に入るなり、老人が口を開く。
「……ザンドよ、紫の森を浄化できる力を持つエルフを見つけて帰ってくるのではなかったのか?村を飛び出していった時の言葉……お前の"責任の取り方"なのだろう?」
圧のある言い方に、ザンドはたじろぐ。
「う……。それは……確かに、まだ森の浄化はできてない。けど、絶対、瘴気や霧の影響を抑えて見せる!そのために一度立ち寄っただけさ!」
「ふん!口では何とでも言えるわい……。だがな、村の者たちだって昨日も今日も、そしてこれからも、苦労して結界を維持している。どれだけ動いても、結果を示さねば、事態は好転しない。ゆめゆめ、そのことを忘れるんじゃないぞ。スリーズさん、リュミナさん、話は村のものに聞きました。こんな馬鹿者への協力、感謝しています。ですが、どうかご無理はなさらないように……。命あっての旅ですからな」
そう言うと、村長はリュミナたちに頭を下げ、家の奥に戻っていき、リュミナたちも家を後にした。
「ザンド、さっきの"責任“って……?」
夕食の席でリュミナが尋ねる。
「ああ、それは……」
スリーズが話そうとするのをザンドが制止する。
「スリーズ、俺から話すよ。何故、俺たちがこの村を出たのか。リュミナを……エルフを探していたのか」
先ほどから浮かない顔をしていたザンドは、そう言って少しずつ、過去の出来事を話し出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第40話「包まれた場所」いかがでしたか?
"武器狩り"を倒したのも束の間、あの黒い霧がさらに力を増し、周りの魔物を飲み込んで広がっています!これは"霧の王"からの警告なのでしょうか...?
そんな中、ザンドの案内の元一行が避難したのは、結界で守られたザンドの故郷"フローナの村"でした!どうやらこの村の村長とザンドの間には、何らかの因縁があるみたいです...
次回「ザンドの責任」金曜日投稿予定です。お楽しみに!
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