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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第39話 折れない剣

「分かってるとは思うけど、特に目に見えるくらい色が濃くなっている瘴気は絶対に吸うなよ。毒だからな」

 

 カイレン、セリ、アシュレイ、ザンドは周囲に気を配り、慎重に森の中を進む。

 

「……前はすぐに現れたくせに、何で戦いに来た時に限ってどこにいるかわからないんだ?」

 

 不満そうにアシュレイがぼやくと、ザンドは頭を掻きながら答える。

 

「そりゃ、あちらさんだって森の中全てを見てるわけじゃないだろうからな……。手っ取り早く会いたければ、何か餌でも持ってくるべきだったか?」

 

 ザンドの言葉に、カイレンは振り向く。

 

「餌?……そうだ!」

 

 そして、星の剣を高く掲げて、光のエネルギーを集め始める。

 

「……そうか!"武器狩り"は強い冒険者から武器を奪って自分の強さを誇示する。つまり、強い武器こそ奴をおびき寄せる格好の餌ってわけか!」

 

「ねぇ、あそこ!今何か動いた!」

 

 セリの指差した先の木々が揺れ、次第に地鳴りが響いてくる。四人は武器を構え、注意深く前方を見つめる。咆哮と共に現れたのは、角が捻じ曲がり、血管の浮き出ている、巨大な棍棒を持ったオーク。以前、カイレン達と戦った時よりも不気味な姿になった"武器狩り"が、手下のオークを引き連れて一行の前に現れた。


「カイレン、セリ!二人はまず、周りのオーク達を一掃してくれ!星の剣と、その力の一部を宿したレプリカなら、効率よく倒せるはずだ!アシュレイ!俺の援護を!あのデカブツを足止めするぞ!」

 

 全員が頷き、カイレンは右、セリは左、ザンドは前方に飛び出して見栄を切る。

 

「やい、"武器狩り"よ!俺は!流浪の最強剣士!……」

 

 大袈裟なポーズをとるザンドに、"武器狩り"は大きな岩を投げつける。

 

「ザンド!危ない!」

 

「……以下省略!はぁ!」

 

 飛んできた大岩が真っ二つに割れると共に、周囲のオーク達も一斉に襲いかかってきた。


「〈エア・スラッシュ〉!」

 

 ザンドの放った風の斬撃は、"武器狩り"の頬を掠め飛び去る。怯まずにザンドへと距離を詰めた魔物の大将は、その手に持つ大量の武器が括り付けられた棍棒を振り上げる。

 

「アシュレイ!風!」

 

「分かった!〈キュロス・ウィンド〉!」

 

 アシュレイの放った突風を受けて、ザンドの剣は勢いを増して加速する。

 

「双風融合!〈タービュランス・スマッシュ〉!」

 

 ザンドとアシュレイの風を纏った剣が勢いよく棍棒を迎え打つ。しかし、棍棒の破壊には至らず、ザンドは後ろへ飛び退く。

 

「硬ったい!さてはあの棍棒についてる武器!いくつかは魔法攻撃に耐性があるな!?……全く厄介なモノを振り回しやがって!」

 

 "武器狩り"は、手を痛がるザンドを見ると、ニヤリと笑い、挑発するように手を振る。

 

「かーっ!魔物のくせに舐めやがって。いいだろう!最大火力を叩き込んでやる!アシュレイ!もっかい風!」

 

「追い風よ!ザンドに力を!〈ターボ・ウィンド〉!」

 

 アシュレイの追い風を纏い、加速したザンドは、大剣をスパークさせて飛び上がる。

 

「後悔しやがれ!必殺!〈サンダー・ソードV3〉!」

 

 確かな手応えを感じたザンドが目を開く。次の瞬間、ザンドは自分の目を疑う。"武器狩り"は自身の片腕でザンドの剣を受け止めていた。その腕は黒焦げになっていたが、魔物は気にせず刀身を握りしめる。剣を振り下ろし、無防備になったザンドへ、魔物はお返しとばかりに巨大な棍棒を振り、咄嗟に剣から手を離したザンドは、ギリギリのところで棍棒の直撃を避ける。

 

「……自分の腕を囮に使うなんて……。でも、これで片腕は使えなくなったね」

 

 アシュレイが着地したザンドの元へ駆け寄りながら微かな笑みを浮かべるが、ザンドの額からは玉の汗がこぼれ落ちた。

 

「……いや、違う。あいつ……まさか……」

 

 "武器狩り"は自身の手のひらに突き刺さった大剣を引っこ抜く。だらんと下がったその腕は、次の瞬間、魔物の体から出た黒い霧のようなものに包まれてみるみるうちに再生していく。

 

「あいつの急激な見た目の変化……まさかこの黒い霧の力を取り込んでいるのか!?」


 どうにか与えた大ダメージを回復され、ザンドとアシュレイは焦りの表情を見せる。その時、

 

「だったら俺が!」

 

「私も!」

 

 周りのオーク達を片付けたカイレンとセリが、"武器狩り"の両脇から飛び出し、剣を振り上げ渾身の必殺技を放った。

 

「〈セイクリッド・バスター〉!」

 

「〈彗星斬〉!」

 

 セリの連撃は再生直後の腕を切りつけ、振り下ろされた光の剣は、"武器狩り"の角を片方切り落とし、額に直撃したかに見えた。しかし、すんでのところで、棍棒に防がれそのまま弾き返される。

 

「あいつ……見た目の割に、反応速度も早い!」

 

 カイレンの姿を見た"武器狩り"は、さらに興奮して咆哮を上げる。その声に、四人はたまらず耳を塞ぐ。

 

「何だ!?突然どうしたんだ!?」

 

「星の剣、確か前は奴が持ってたんだろ!?取られたと思って怒ってんじゃないのか!?」

 

「くっ、人の武器は奪うくせに……」

 

 咆哮を上げ終わった魔物は、こちらに一直線に突進してくる。ザンドはカイレンとアシュレイ、セリを左右に投げ、自分もその場を飛び退く。

 

「奴が霧で回復する以上、正面からの力押しじゃ勝てない!散らばって、隙を作って、再生しきれない致命傷を与えるしかない!カイレン!さっきの光の剣、あと何発撃てる!?」

 

「あと……二発くらい……」

 

 魔物は執拗にカイレンを付け狙う。途中、セリが何度かすり抜け際に切りつけるが、魔物は彼女を払いのけ、突き進む。武器を奪われたザンドと、魔力が枯渇したアシュレイも必死に注意を引こうとするが、もはや相手にもされない。

 

 (ぐっ……こうなったら一か八か……!)

 

 カイレンは立ち止まると、剣に光を集め始める。

 

 (奴の攻撃を避けながらの特大攻撃を撃ち込むのは無理……。だったら、相打ち覚悟でぶち込むまで!)


「あいつまさか……よせ!お前も無事じゃ済まないぞ!」

 

 ザンドが叫ぶが、覚悟を決めたカイレンは、迫り来る"武器狩り"を見据え、腰を低く構えた。その時、魔物の頭上に魔石が投げられ、破裂した拍子に、あたりに水が飛び散る。

 

「これで少しは、頭にのぼった血も下がったかしら?」

 

 水の魔石を持ったセリが、魔物を挑発する。立ち止まり、セリの方を向いた"武器狩り"が、再び棍棒を掲げようとした瞬間、苦痛に顔を歪める。

 

「……よかった。興奮がおさまれば、体の痛みは感じるみたいね……」

 

 魔物の体には、いつの間にか数えきれない小さな切り傷が刻み込まれていた。

 

「その角を見て、確信してたわ。星の剣で切られた場所に、霧の再生は働かないみたいね」

 

 そう言って自身の剣を構える。セリが力を込め、剣に光を灯すと共に、"武器狩り"の体に刻まれた傷口からも同じ光が漏れ出してくる。

 

「私は立ち直った!この剣も、光を灯した!もう絶対に折れたりなんかしない!」

 

 そう叫ぶと、セリが飛び出す。"武器狩り"も咆哮と共にすぐに棍棒を振り上げるが、セリの感情に呼応したのか、傷口の光の量が増え、その痛みに魔物の動きが一瞬鈍る。

 

 結果は見えた。カイレンは静かに、剣に集まった光のエネルギーを振り払った。静かに納刀するセリの後ろには、地に倒れ、光に包まれて消滅していく"武器狩り"と、その手から落ちた棍棒が地面に突き立つ姿があった。棍棒に括り付けられた武器は、セリの納刀の瞬間、束縛から解放されて地面に散らばる。呪縛から解き放たれた無数の剣は、月明かりを反射して、蕾から開花した花のような姿を見せた。それは、奪われた冒険者たちの魂が解放されたかのような、あまりに美しい光景だった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第39話「折れない剣」いかがでしたか?


 手に汗握る激戦の末、遂に"武器狩り"を倒すことができました!ですが、まだ終わりではありません。"武器狩り"にすら取り憑いていた黒い霧...。これを出す元凶である"霧の王"との決戦も待ち構えています!


 物語もいよいよ後半戦に差し掛かります!是非読んでやってください♪


 次回「包まれた場所」水曜日投稿予定です。お楽しみに!


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