第36話 勇者候補
地面に倒れたリュミナたちは、何が起きたのか分からずに起き上がる。振り返ると、いつのまにか一行の背後に立っていたザンドが不敵に笑う。
「ぐっ……速すぎて見えなかった……のか?」
アシュレイの言葉に、ザンドは挑発するように返す。
「どうした?強くなったってのは口だけか?」
カイレンは起き上がって剣を構える。
「いや……油断しただけさ……」
いつの間にか、騎士団長のローグが、エアロムントの門の前にやって来ていた。
「お前たち、気を抜いていると簡単にやられてしまうぞ。何たってその人は、元勇者候補のパーティの一人だ」
その言葉に、セリとアシュレイは驚く。
「勇者候補って……ギルドが指定するあの勇者!?」
「騎士団を除いた、この国の最高戦力と認められた冒険者パーティにのみ、与えられる称号じゃないか……」
その言葉に、ザンドは待ってましたと言わんばかりに胸を張り、芝居がかったポーズをとり始める。スリーズはそんなザンドを見て額に手を当てる。
「はっはっは!だから最初に会った時にも言っただろう?俺は!流浪の最強剣士!強く!勇敢な男!その名も!」
そこで剣を振り投げ、一回転して決めポーズをとる。
「ザンド様だ!」
宙を舞う剣はそんな決めポーズをとったザンドの背中の鞘に収まった。
「さぁ、死にたくなければ覚悟を決めて……かかって来んかーい!」
ザンドの気迫に、負けじとリュミナたちも武器を構えた。彼らの表情に、もう呆れの感情は一ミリも残っていなかった。
先陣を切ったのは、新たな力を得たカイレンだった。
「はああぁぁ!」
重厚な『星の剣』が、鋭い光の軌跡を描いてザンドの脳天を強襲する。だが、ザンドは一歩も動かない。激突の直前、彼は抜き身の剣ではなく、鞘に収まったままの剣をわずかに傾けた。
ガギィィィン!と、硬質な音が響く。
「流石は星の剣。いい攻撃力だ。が、使い手が剣に振り回されてる内はまだまだだ!」
ザンドは鞘の弾力を利用してカイレンの一撃を跳ね返すと、そのまま流れるような動作でカイレンの懐に潜り込み、柄頭で彼の鎧の隙間を軽く突いた。
「ぐはっ……!」
カイレンがたまらず後退する。そこへ、セリが左側から挟み込むように仕掛けた。
「逃がさない!」
折れた過去を乗り越え、より鋭さを増したセリの連撃。しかし、ザンドはまるで背中に目があるかのように、最小限の動きですべてを紙一重で回避していく。
「アシュレイ!これを!」
リュミナの声が響く。彼女はすでに魔弓を構え、三本の光の矢を天高く放っていた。
「わかってる!〈キュロス・ウィンド〉!」
アシュレイが杖を振ると、ザンドの周りに放たれた矢が風を纏い、それらが合わさり風の檻を形成し、ザンドの動きを封じる。
「おっと……?」
自由を奪われたザンドの背後に飛び上がったのは、体勢を立て直したカイレンだった。
完璧な同時攻撃。スリーズがわずかに目を見開き、ローグが「ほう」と感心の声を漏らす。
だが、ザンドは不敵に口角を上げた。
「いい連携だ……。が、足りないな、圧倒的に」
次の瞬間、風の檻に穴が空き、「バチッ」という音と共にザンドの姿が掻き消えた。
「なっ……!?」
振り下ろされたカイレンの剣は空になった檻を真っ二つにする。
「どこ……!?」
リュミナが周囲を見回した瞬間、背後にゾッとするような熱量を感じた。
「小賢しい細工師は、先に叩くに限る!」
振り返れば、いつの間にか背後に回ったザンドが、剣を振りかぶる。鞘の上からでも、剣に纏った雷光は眩く光り輝いていた。
「リュミナ!」
リュミナは素早く飛び退く。振り切られた剣の鞘からはパチパチと、雷剣の余剰エネルギーが舞い散る。
「ほら!どうした?お前らの力はこんなもんか?」
ザンドがさらに一行を挑発する。
「剣に……振り回されない……」
カイレンが自分の剣を見つめ、唱えるように自分に言い聞かせて、グリップをギュッと握りしめる。
「ほらほら!逃げてるだけじゃ勝てないぞ!」
円月輪に持ち替えたリュミナは、ザンドの攻撃を避けながら攻撃する隙を伺うが、大ぶりながら隙のない動きは、リュミナに反撃の暇を与えない。ガチンッという音と共に、手から離れた円月輪が宙を舞う。
「リュミナ!」
傷ついたセリが立ち上がるが、
「そこに座ってな!〈炎の弾を撃つ魔法〉」
放たれた炎弾は、セリやアシュレイを近寄らせない。もう一本の円月輪も弾かれる。
「勝負あったか?」
ザンドがリュミナに向けて、鞘を振り上げた時、横から飛んできた小石に、二人の視線が、飛んできた方へと吸い寄せられた。
「ザンド!正々堂々、俺と勝負だ!」
カイレンが剣を構えて、ザンドの方を向く。
「へぇ……本気の目だね……」
ザンドはカイレンの方に向き直ると、鞘から剣をゆっくりと引き抜く。
「本気には、相応の態度で臨んでやらないとな……」
構えられた大剣が、青く輝く稲妻を纏う。
(剣に振り回されず……俺が一番振りやすい形で……)
カイレンは左足を前に出し、剣先を下に向け構える。
「構えを変えて来たか……面白い!いざ、勝負!」
ザンドの剣が振り下ろされ、カイレンも剣を振り上げる。瞬間、カイレンの左腕は、剣のグリップを放し、その腕に付いた盾で思い切りザンドの剣を弾く。そして、剣を弾かれ、無防備になったザンドを斬り上げて、そのまま上空へ飛び上がる。
「セイクリッド・バスター!」
凄まじいエネルギーを纏った剣は、倒れたザンドの右隣スレスレに振り下ろされた。その力を目の当たりにしたザンドは、「まいった」というように首を振る。
「双方、そこまで!」
ローグが間に割って入り、戦いを止めた。
「試すような真似をしてすまない」
疲れ果てた四人に、ローグが説明を始める。
「ラウルや、そこにいるスリーズ殿から、君たちが星の剣を取りに行ったかもしれないと聞いてね。強大な力は、正しく扱えるものでないと、破滅へ導く危険なものにもなりかねない。それで、たまたま街に来ていたザンド殿に、君たちの力試しを依頼したんだ」
スリーズがヒラヒラと手を振っている。
「それで……俺たちは合格ってこと?」
カイレンが尋ねると、ザンドはグッと親指を立てる。
「合格も合格!期待以上だ!俺も結構本気で戦ってたんだぜ!それを負かして、しかも手心まで加えられるとは」
カイレンは、照れたように頬を掻きながら答える。
「あの力は、魔物や、本当に悪い奴にしか当てないって決めたんだ。あんたは……悪い奴じゃないと思ったから……」
「うん!気に入った!なぁ、騎士団長さんよ、こいつら借りていいか?」
ザンドの質問に、ローグも頷く。
「無論だ。元々こちらもそれを頼むつもりだった」
何のことかわからない四人は首を傾げる。そんな一行の肩をローグは優しく叩いて門の中、中央広場の方を指差す。リュミナたちがそちらに目を向けると、そこには、こちらに手を振りながら走ってくるタルローの姿があった。
「今日は皆疲れたろう。詳しいことは明日、ギルドにて、改めて話そう。さぁ、ここ数日ずっと心配した様子だった宿主に、無事の帰還を知らせてやるんだ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第36話「勇者候補」いかがでしたか?
何と、あのザンドは過去に勇者候補のパーティメンバーの一員だったことが判明しました!
そんなザンドにも認められた一行に、ローグは何かを依頼したい様子...
この後彼らには一体何が待ち受けているのでしょうか...?
次回「騎士団長の依頼」水曜日投稿予定です。お楽しみに!
☆ブックマーク・評価・感想をいただけると、投稿主の励みになります!




