第35話 新たな刃
エアロムントへの帰り道は、多くの魔物に襲われることとなった。
「今度はチュリスの群れだ!」
「私たちが誘導する!アシュレイ!魔法で一掃するんだ!行くぞ!リュミナ!」
スリーズとリュミナは、素早く移動するチュリスたちを一点に集まるように誘導する。
「……!ここだ!〈キュロス・ウィンド〉!」
アシュレイが放った大きな竜巻が、チュリスの群れを一網打尽に吹き飛ばした。
「一体どうなっているんだ?この辺りの魔物が全員襲ってくるレベルだよ……」
アシュレイがへたり込む。無理もない。先ほどのチュリスの群れで、もう6連戦目だ。
「多分、その剣のせいだろう。"星の剣"といえば、地上に溢れた魔を払うために、この星そのものが生み出すという話を聞いたことがある。カイレンが、その剣の扱いに慣れる前に、排除しようとしているのかもしれないな」
スリーズの言葉に、カイレンが立ち上がって答える。
「だったら、俺が一番前に立とう。剣の扱いに慣れるなら、とにかく使って、体に覚えさせるのがイチバンだ!」
「しっ、静かに……。また何か来るよ……」
リュミナの言葉に、五人はあたりを警戒する。飛び出してきたのは二体の、鋭い爪と硬い皮膚を持つ魔物、イグナドンだった。
「はあぁぁぁ!」
カイレンは、イグナドンの爪をかわし、硬い皮膚をものともせずに吹き飛ばす。
「すごい!ちゃんと動けてる。カイレン、今までに剣を使ったことあるの?」
セリが感心しながら尋ねる。カイレンは首を振った。
「いや、だけど、自然と体が動くんだ。まるで、剣が戦い方を教えてくれるみたいに!」
二体目のイグナドンを吹き飛ばし、カイレンはまじまじと剣を見つめる。
「まるで、剣が体の一部になっていくような……そんな感じがする」
その時、吹き飛ばされた、一体目のイグナドンが大きな音で喉を鳴らす。すると、その音に呼応するかのように、遠くからさらに低い音が返ってくる。それと同時に、一行の前に現れたのは、おそらくイグナドンたちの親玉である巨大な個体だった。しかし、カイレンは怯まずにイグナドンたちの頭上へと飛び上がる。振り上げた刀身が輝きを纏い、大きなエネルギーを放つ。
「セイクリッド・バスター!」
放たれたエネルギーは、たった一振りでイグナドンたちを吹き飛ばした。
――その日の夕方――
「はー、なんか疲れがどっと出てくるよ」
夕食の支度中、カイレンはそう言って座り込む。
「無理もない。あんなエネルギーを放出したんだ。反動がない方がおかしい」
スリーズはそう言いながら狩った魔物の肉を焼く。
「でも、あの力はすごいよ!ギルドの最上位、白銀ランクのパーティでも、あんな攻撃できるかどうか」
アシュレイは火の調整をしながら目を輝かせる。
「でも、あれだけすごい威力だと、逆に気軽には撃ちにくいよね。カイレンもこうなっちゃうし」
リュミナの心配に、カイレンも頷く。
「ああ、あの力はあくまで切り札として使う。それも、魔物や、悪い奴にだけだ。それ以外は、普通の剣として使うつもりだよ」
そう言って、カイレンは星の剣を見つめる。先ほどのエネルギーの残りが、柔らかな光の粒として暗い夜空にほんのりと灯りを放っていた。
――数日後――
「あ!あそこ!エアロムントが見えてきたよ!」
リュミナが、遠くに見えるエアロムントの城壁を見つけて指をさす。
「魔物に襲われないと、こんなに早く帰って来れるのか」
アシュレイも驚いた表情になる。カイレンがあの剣を振るって以来、数日にわたって歩いていたが、その間に、リュミナたちに襲いかかってくる魔物はほとんどいなかった。
「カイレンが、剣の扱いに慣れてきた証拠だろう。この辺りの魔物は力の弱いものが多い。そういう魔物ほど、敵の強さに敏感なんだ」
スリーズがそう言うと、カイレンは静かにガッツポーズをした。
エアロムントの入り口の前まで行くと、ザンドが腕を組んで、城門の前に立っていた。
「お疲れさん。スリーズ、大変だったみたいだな」
そう言ってリュミナたちの前に歩み寄ってくる。スリーズは何かを察したような表情をして、リュミナたちから少し距離を置く。いつもの騒がしさを微塵も感じさせない雰囲気に、リュミナたちは首を傾げる。
「ザンド……?何だか今日は雰囲気が違うね?」
「あっ!まだリュミナを狙うなら、覚悟した方がいいよ。私たち、すごく強くなったんだから」
アシュレイとセリの言葉に、ザンドは静かに笑う。
「ははは……。強くなったのは見れば分かる。リュミナは……そうだな、前ほど狙う気はないよ。今の俺の興味は……こっちだ」
そう言ってザンドは剣を引き抜く。剣の切先はカイレンと、その背に背負われている星の剣に向けられた。突然のことに四人は驚くが、すぐに呆れ顔に戻る。
「あのねぇ、僕たちのパーティで、一番強くなったのは多分カイレンだよ。確かに、その剣に興味を持つのは分かるけどさ……」
「それに……こんなところで戦うと……」
そう言ってセリはあたりを見渡す。
「直したばかりの壁に、エアロムントの周りには水の溜まった堀がある。今日はずぶ濡れになるかもね」
「……ご忠告どうも……それじゃあ行くぜ……」
その瞬間、バチッという音と共に、目の前のザンドは消えて、リュミナたちはその場に倒れた。




