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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第33話 星の深洞

「じゃあ、行くね!」

 

 リュミナはそう言って、父と母に手を振り、森の入り口で待っているセリとアシュレイの元へ駆け出す。スリーズも、フランに頭を下げ、リュミナを追おうとする。

 

「スリーズ」

 

 フランに名を呼ばれて振り返る。

 

「別れを悲しく思うのは、それだけ相手を想っている証拠です。どうか、その気持ちを大切に、あなたの進む未来に連れて行ってあげてください」

 

 スリーズはもう一度、深々と頭を下げると、リュミナの後を追って行った。


「……リュミナもスリーズも、良い仲間に恵まれたな」

 

 娘たちを見送ったオルダが、フランに優しく語りかける。フランは静かに頷くと、光の粒となり、風と共に森に溶け込んでいく。その光には、以前のような不安そうな揺れは残っていなかった。


「カイレンは二日前に、この森に来ていたみたいだね」

 

「ええ、そして森の近くにある"星の深洞"に向かったって言ってた」

 

 セリとアシュレイも、分裂したフランから、カイレンの行き先について聞いていた。

 

「入れ違いになる前に、急いで向かわなくちゃ!」


「でも気をつけてね。滝の近くは、不思議な力で満ちていて、お母さんの力が及んでないみたい。何が起こるかわからないよ」

 

 リュミナの忠告に頷いた四人は、森の近くの川に沿って、滝の方向へと走りだした。

 

 しばらく走ると、水の音が大きくなってきた。それと同時に、何かに見られているような、嫌な感覚がリュミナに付きまとってくる。

 

(……でも、今はカイレンを助けに行くのが先!)

 

 リュミナは自分に言い聞かせるように、嫌な感覚を振り払う。やがて一行は、大きな滝のある綺麗な湖のほとりにたどり着いた。


「ここだね。昔、セリのお兄さんが、ラウルさんやジストさんと一緒に、あの剣を見つけたっていう場所は」

 

 そう言って、アシュレイはバッグから一枚の絵を取り出す。少し雑な絵だが、景色の構図がほぼ一致している。

 

「あそこじゃない?"星の深洞"って」

 

 セリが指を指した方向に、真っ暗な洞窟が口を開けていた。

 

「……最近誰かが足を踏み入れた形跡があるよ。でも、出て来た様子はなさそうだ。この洞窟は見た感じ、出入り口が複数個あるようには見えないし、きっとカイレンがこの中にいるんだ!」

 

 アシュレイがそう分析すると、セリがカバンから小瓶と魔法石を取り出して、簡易ランプを作る。

 

「!?」

 

 突然、リュミナの耳がぴくりと動き、スリーズがあたりを警戒する。

 

「随分と急に……それにかなりの数だな。洞窟に入られるのを嫌がっているのか、あるいは……」

 

 言い終わらないうちに、草陰からヴォルグが一体飛び出してきて、スリーズによって地に叩き伏せられる。

 

「かなり弱っている……。おそらく……この洞窟から漏れてる嫌な風のせいだな。肌を蝕むような、妙な感覚にやられている。リュミナ!セリ!君たちは洞窟に入って、カイレンを助けに行け!アシュレイ!その狭い洞窟の中じゃ大した風魔法は撃てない。私と一緒に、こいつらの足止めをするぞ!」

 

 スリーズの指示に、三人も頷く。

 

「二人とも、カイレンを頼んだ!」

 

 アシュレイは杖を構えて洞窟の前に立ち塞がる。

 

「リュミナ!お前の大切なものは、お前自身の手で守るんだ!……後悔しないためにも!」

 

 洞窟に入る直前、スリーズはリュミナにそう伝える。リュミナは強く頷いて、洞窟の入り口に立つ。

 

「すぐにカイレンを助けて戻ってくるから、二人とも気をつけてね!」


 そう言い残すと、洞窟の中へと飛び込んでいった。


 洞窟内は単純な一本道で、リュミナとセリは迷うことなく先へと歩く。しかし、奥に進むほどに、洞窟内には謎の違和感が蠢いていた。

 

「……ねぇ、リュミナ。なんだか変な感じがするね。視線?みたいなものが……なんだか少し苦しい……」

 

 セリもリュミナと同じように、違和感を感じているようだった。

 

「セリ、大丈夫?苦しくても、今は先に進まないと!外で戦ってくれてる二人のためにも、絶対にカイレンを見つけないとね……」

 

 それからどれくらいの時間歩いただろうか。ふと、リュミナが隣を見ると、そこにセリの姿はなかった。

 

「あれ……セリ?」

 

 リュミナは慌てて周りを見渡すが、どこにもセリの姿は見えない。どこかで道を間違えたのか……いや、そんなはずはない。ここまで、分かれ道など無かったはずだ。まさか途中で倒れて……?来た道を振り返るも、そこには暗闇だけが広がっている。そして突然、聞き覚えのある、嫌な声が聞こえてきた。

 

「……よぉ。久しぶりだな。エルフの小娘……」

 

 その声に驚いて前を向く。いつの間にかリュミナの目の前に立っていたのは、いつか、エアロムントでリュミナを誘拐した人攫いのカシラだった。

 

「……そんな、何で?」

 

 リュミナの脳裏に、あの日の恐怖が蘇ってくる。

 

「お前たちにやられて、騎士団に捕まってからよ、俺はずっと考えてたんだ……。お前にどんな復讐をするか……。何をするのが一番お前に苦しみを与えられるかってな……」

 

 カシラはジリジリとリュミナに迫ってくる。

 

 (どうしよう……。戦う?逃げる?怖い……。セリはどこに行ったの?無事でいるの?まさかこいつに……?)

 

 色々なことが頭の中に浮かんでは消えてゆく。逃げようにも、戦おうにも、体が震えてうまく動けない。足がもつれて、リュミナは尻餅をつく。その拍子に、何かがカランと音を立てて地面に落ちる。それは、星祭りで買った、仲間たちの願いと魔力のこもったメモリースターだった。

 

 (そうだ……。私の大切な宝物、仲間を、守らなくちゃ)


 そう決心したリュミナの脳裏に、洞窟に入る直前の、スリーズの言葉が蘇る。


「リュミナ!お前の大切なものは、お前自身の手で守るんだ!……後悔しないためにも!」

 

 リュミナの体の震えが止まり、立ち上がって円月輪を手に構える。

 

「あなたが今、何故ここにいるのかなんて関係ない!私は、私の大切なもののため、そこをどいてもらう!」

 

 カシラはニヤリと笑うと、メイスを振り回し、周囲に水滴を生成し始める。以前見た、カシラの攻撃魔法だ。リュミナは素早く懐に飛び込み、メイスを避けながらカシラの手に円月輪を叩き込んだ。


「これで……最後!」


 体勢を崩したカシラの背中に、リュミナの渾身の一撃が決まる。確かな手応えを感じた瞬間、カシラは黒い影のようなものとなって霧散した。その瞬間、リュミナの意識は元の洞窟に戻ってくる。

 

「……今のは、夢?」

 

 ゆっくりと起き上がる。その手には微かに、先ほどの手応えが残っている。あたりを見回すと、隣でセリが眠っていた。声をかけても、揺すってみても、起きる気配はなく、ただうなされている。

 

「……私と同じで、悪い夢を見てるんだ」

 

 リュミナは直感的にそう感じた。あれはこの洞窟の、嫌な気配が見せた試練のようなものだったのかもしれない。するとその時、聞き覚えのある掛け声が、洞窟中に響き渡る。リュミナはピクッと反応し、セリを洞窟の壁に寄り掛からせると、音のした方へ走り出した。


 洞窟の奥は広い空間になっていた。リュミナがそこに飛び込むと、黒くて大きな、犬のような魔物――ガルムがこちらを睨みつける。

 

「リュミナ!?」

 

 振り返ると、満身創痍、傷だらけのカイレンが肩で息をしながらそこに立っていた。

 

「まさか……また幻か!?」

 

 そう言って拳を構えるカイレンに、リュミナは慌てて説明しようとする。

 

「ち、違うよ!私たち、カイレンを追いかけてきたんだ!アシュレイや、セリも一緒に!」

 

 しかし、説明の途中で、ガルムが飛びかかってくる。リュミナは円月輪を構え、カイレンも向きを変えてグローブの紐を締め直す。

 

「とにかく!説明は後!今はあいつを倒すんだよね!」


 そう叫ぶと、リュミナはガルムの鋭い牙に、円月輪の刃を叩き込んだ。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第33話「星の深洞」いかがでしたか?


 不気味な雰囲気を放つ星の深洞。その洞窟が見せた幻の敵を、リュミナは自分の意志と強さで乗り越えることができたみたいです!


 そしてラスト、ようやく見つけたカイレンは、強敵、ガルムとの戦闘中でした。果たして二人は勝てるのか?セリは、アシュレイは、スリーズはどうなっているのでしょうか?


 次回「再会」水曜日投稿予定です。お楽しみに!


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