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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第32話 ただいま!エルフの森

 朝霧が深くなってくる。その光景さえ、リュミナには懐かしく感じられる。やがて、森の雰囲気が変わってくる。

 

「ただいま!」

 

 リュミナは大きな声で、森に向かって挨拶した。


 店の暖簾を上げていたローヴェが、彼女の声を聞いてやって来た。

 

「リュミナじゃないか!おかえり。いやぁ、元気そうで何よりだ!」

 

「ローヴェさん!久しぶり!あのね、私たち、人を探しに来たんだけど……」

 

 そう言いかけたところでお腹がなる。そういえば昨日から何も食べていない。

 

「はっはっは!お腹が空いたろう。ほら、食堂に来なさい。皆さんもぜひ!」

 

 食堂に案内された四人は、エルフの味付けがされた料理をお腹いっぱい頬張った。


「……なるほどな、リュミナたちが探しているのはあの時森にきた兄ちゃんか」

 

 朝食の席で、ローヴェはリュミナたちがこの森を訪れたわけを聞く。

 

「そうなの。もしかしたらこの森にきてるかもと思ったんだけど……」

 

 ローヴェは顎に手を当てる。

 

「そうだな……森のこととなると、お前さんの父親、オルダさんに聞くのが早いかもな。まぁそうでなくても、顔は見せてやりなさい。オルダさんもだが、お前の母親、フランさんも喜ぶはずだ」

 

「うん!」

 

 リュミナは大きく頷いた。


「お父さん、久しぶり!私帰って来たよ」

 

 リュミナは、森の中心に聳え立つ、大きな木に話しかける。すると、木のごう……という音と共に、森に溢れる光がリュミナの前に集まってくる。リュミナはその光の正体に気がつくと、腕を広げて思い切り抱きつく。光が実体化し、エルフの美しい女性となってリュミナを抱きしめた。その様子を見た、セリとアシュレイは驚きの表情を見せる。女性はそんな二人の前に出て、手を取る。

 

「こうして顔を見てお話しするのは初めてですね。私はフラン。リュミナの母です」

 

 そう言い終わると、フランの体が再び輝き、二つに分裂する。

 

「ごめんなさい。まずはこの子の治療をしたいの。あなたたちの質問には私が答えますよ」

 

 そう言うと、一人目のフランはリュミナを連れて森の奥へ、もう一人のフランは三人の前に腰掛ける。その様子を見たアシュレイとセリは、驚きを通り越して笑いが出る。

 

「リュミナの話から、すごい人なんだとは思ってたけど……本当になんでもありって雰囲気だね」


 ――森の奥――


 フランに連れられて、リュミナは泉にやって来る。

 

「……なんだか久しぶりだね。ここに入るの」

 

 そう言って泉に浸かると、リュミナの体から黒いモヤのようなものが水中に流れ出る。フランはそれを掬い上げると、手のひらの上で消滅させる。

 

「……今のは魔の力と、それに毒のようなものが混ざっていました。これが、あなたの魔力を吸収していた原因ですね。大丈夫、この泉につかっていれば浄化されていくはず。しばらくすれば、魔力も戻るでしょう」

 

 そう言ってリュミナの頭を優しく撫でる。すごく安心する母の温もりを感じる。

 

「私は不安でした。あなたを外の世界へ送り出したあの日から……でも、今は良かったと、安心しています。あんなに素晴らしい仲間に恵まれて……。あなたたちの探している方、カイレンさんは、2日前にここを訪れました。おそらく、あなたたちを助けるために」

 

 そして森の向こうを指差す。

 

「今頃はあそこの滝の裏の洞窟、"星の深洞"に向かっているでしょう。ですが、向かうなら用心しておきなさい。あそこの近くには不思議な力に満ちていて、私の力でも手助けすることはできません」

 

 そこまで言って、リュミナの肩に置かれたフランの手は、少しだけ力を増す。リュミナは優しく母の手を握る。

 

「大丈夫、助けに行くよ。私の大切な仲間だから」

 

 フランは頷いて、強くリュミナを抱きしめた。


 ――しばらくして――


 泉から出たリュミナが、フランと共に仲間の元へ歩いていると、スリーズが一人歩いて来た。

 

「フランさん、あなたが本体かどうかはわからないけれど、向こうにいる分裂体よりは、本体に近い存在なのは分かるよ」

 

 そう言うと、突然スリーズは、鉤爪をフランに向ける。

 

「ちょっと!?スリーズ!?」

 

 突然の出来事に困惑したリュミナを、フランは優しく落ち着かせると、スリーズの方に向き直る。

 

「あなたは……ニフルの……」

 

 その問いにスリーズは頷く。

 

「そう、私は、あなたの娘、ニフルと人間の孫。エルフと人間の混血、"ハーフエルフ"だ」

 

 そう言うとスリーズは長い髪を後ろに送る。今まで髪に隠れていた彼女の耳は、リュミナたちほどではないが、確かに尖っていた。

 

「あなたに刃を向けても、父さんや母さんは戻ってこないのは分かってる。それでも、ずっと、あなたに直接聞きたかったことがある!」

 

 そしてスリーズは問いかける。

 

「あなたは……他のエルフの何倍も生きるはずのあなたは何故……たくさんのエルフを産むの?……産み落とされたエルフは、私は、今までにたくさんの悲しい別れが……答えて!」

 

 その声はどこか、震えていた。フランはその問いに、すぐには答えず、少しずつスリーズの方へ歩み寄る。

 

「私が子供たちを産む理由はね、少しでも多くの人たちを、先の未来に一緒に連れて行ってあげたいからなの」

 

 歩み続けるフランの肩に、スリーズの鉤爪が刺さる。スリーズは驚き、爪を引こうとするがフランが一歩進むたび、爪は彼女の体に吸い込まれていく。傷からは光が漏れ出すが、精霊は歩みを止めない。

 

「あなたたちエルフは、他の人よりも、相手の感情を察して、寄り添ってあげられる力がある。そうして、たくさんの人に寄り添い、その想いを未来に繋げてあげたい。だから、あなたたちエルフを産むのよ」

 

 そうして、フランはスリーズを抱きしめる。

 

「でも、ごめんなさい。命が長い故の悲しみを、痛みを、あなたたちに課してしまっていることには変わりはない。だからせめて、あなたの感じた痛みの一部でも、私は共に背負いたい」

 

 スリーズはその場に崩れ、フランの体に顔を埋めると、声を押し殺し震え始めた。精霊は、そんな曽孫をただ優しく撫でるだけだった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第32話「ただいま!エルフの森」いかがでしたか?


 リュミナやセリ、アシュレイにとって久々に訪れたエルフの森。リュミナはそこで、魔力を失った原因である毒を体から抜いてもらえました。


 そしてなんと、スリーズの正体はハーフエルフでした。彼女が以前、会いたいと言っていた人の正体は、リュミナの母、フランだったようです。


 さあ、次回はいよいよ、カイレンの足取りを追ってさらに奥地へと踏み入れます。


 次回「星の深洞」月曜日投稿予定です。お楽しみに!


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