第31話 長命への問
「リュミナ、君はエルフなんだよね。長命の……」
スリーズはリュミナの方を見て問いかける。
「長く生きるということは、たくさんの出会いや別れを繰り返すということだ。……君は、大切に思える人ができても、いずれ自分だけがとり残される、この運命をどう思う?」
リュミナは少し戸惑った表情を浮かべた。カイレンやセリたちに連れられて、旅に出るまで、彼女は森の外の世界について知らなかった。そのため、いつか来るであろう別れについてもしっかり考えたことはない。一瞬、木の下で眠るセリとアシュレイに視線を落とす。
「……わからない。でも、いつかそういう時が来るっていうのは理解しているよ」
そう答えたリュミナの瞳を、スリーズは静かにじっと見つめる。長いようで短い時間が過ぎて、スリーズはゆっくり口を開く。
「……そうか。まだ君はエルフの子供だったね。難しいことを聞いてすまない」
そう謝罪したのち、自分が今見ていた景色を指差す。
「長生きできるというのは、素晴らしいことでもあると、私は思っているよ。ほら、あそこにエアロムントの高い城壁が見えるだろう?昔はあんなに壮大じゃなく、向こうの平原まで見えていたんだ。こういう変化を楽しめるのは、長命のいいところなんだろうね……」
東にそびえるエアロムントの後ろから、徐々に明るい光が昇ってくる。
「さぁ、そろそろみんなを起こそうか。朝食は、昨晩の残りの鶏肉でいいかな?」
そう言ってスリーズは木の上から降りて行った。
――それから数日後――
「アシュレイ……今どこら辺かな?」
セリの質問に、アシュレイは自身の持つ地図と周囲の環境を交互に見る。
「えーと……。あ!この花見覚えがあるよ。確かこの花の分布はこの辺りだから……。今この辺りだ!」
そう言って地図の一点を指差す。
「ふむ、その距離なら明日には森に着きそうだね」
スリーズも頷く。リュミナはあたりを見渡す。少しずつ、周りの景色が馴染み深い場所に近づいていて、懐かしい気持ちになる。
「この辺りまで来れば、危険な魔物は少なくなるよ!」
「……そうか。そういえば、森に近い場所は、リュミナのお母さんの力で、危険な魔物が寄りつかないんだっけ」
セリとアシュレイは思い出したように頷く。
「まぁ、今までの旅のおかげで、僕らはあの時からさらに強くなったから、魔物が襲ってきてもへっちゃらだけどね!」
アシュレイが杖を振ると、スリーズが彼の頭を軽く小突いた。
「冒険者が命を落とす理由の多くは、そんな驕りと油断だ。確かに君たちは強いが、上には上がいるものだよ」
セリも笑って、その通りだと頷く。
「さぁ、日が落ちる前に進めるだけ進もう。リュミナ!この辺りの道に詳しいなら、ここから先の索敵と、前衛を任せていいかな?」
リュミナは頷いて前に出る。
「任せて!」
一行は草地を掻き分けて、森へと進み始めた。
少し進んだところで、リュミナは離れたところに、あるものを見つけて足を止める。
「みんな!あっち!」
森の、少し開けたところには、焚き火の跡があった。アシュレイが駆け寄ってしゃがみ込む。
「これは……比較的最近、というか、おそらく数日前のものだね。焚き火の熱は完全になくなってるけど、木炭の形がしっかり残ってる」
「この辺りで数日前に焚き火をしたってことは……」
セリの言葉にアシュレイも頷く。
「ああ!この焚き火跡はカイレンの可能性が高い!」
「急ごう!」
ようやく見つけたカイレンの痕跡に、一行は森の奥へと走り出した。
――そこからさらに数時間後――
「そろそろ日が暮れそうだ……。今日はこの辺りで休むか?」
スリーズの提案に対して、三人は首を横に振る。
「もう少しで目的地の森なんだ。それに、この辺りに魔物は少ない!まだ進めるよ!少しでも早くカイレンを見つけたいんだ!」
「……そう言うと思ったよ。わかった。今日はもう少しだけ進んでみよう。ただし、慎重にね……」
そう言いかけたスリーズの背後で何かが動く。木々の隙間から飛び出した影に、素早くリュミナが飛びつく。円月輪で弾かれた魔物が、月明かりに照らされた。
「あれはケットシーフ!キラキラしたものに目がなくて、人や魔物のものを盗む魔物だよ!戦闘力こそ高くないけど、俊敏で厄介だって!」
ケットシーフは鋭い爪を出し、再び夜の闇に紛れる。
(まずは意識をこっちに……!)
前衛にでたリュミナは、そのまま大きく飛び上がる。二本の円月輪が、月に照らされて白く光り輝く。その光に反応したのか、草むらの一点が微かに揺れ、続いて小さな影が飛びついてくる。
(攻撃してきたところを……!)
ケットシーフの奇襲を避けたリュミナは、そのまま魔物を空中へ打ち上げる。
「今よ!アシュレイ!」
リュミナが言い終わる前に、ケットシーフは風弾によって吹き飛ばされた。風弾の放たれた場所では、アシュレイが得意げな顔で、リュミナにガッツポーズをして見せる。
「どう?これなら、心配ない?」
リュミナがスリーズを振り返る。スリーズも満足そうに頷く。一行は夜の森を走り出した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第31話「長命への問」いかがでしたか?
人と違って、長い時間を生きるリュミナ達エルフ族。スリーズから投げかけられた問いに対し、幼いリュミナは「わからない」としか回答できませんでした...。
いつかリュミナも、この問いに直面し、自分の中で答えを見つけることはできるのでしょうか?
次回「ただいま!エルフの森」日曜日投稿予定です。お楽しみに!
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