第30話 再び西へ
西門を出たスリーズは、振り返って声を上げる。
「ザンドー!アタシ、これから少しの間旅に出る!その間に、あなたが迷惑かけた街の人たちのために、しっかり働くこと!」
見上げると、梯子を上り、城門の上の方の壁を修理しているザンドの姿があった。
「おぅ!スリーズ!気をつけてな……って、リュミナ!?うわっ!わーっ!わーっ!」
スリーズと一緒にいるリュミナに驚いたのか、ザンドはさっき積み上げたレンガを盛大に崩す。
「こらーっ!そこの兄ちゃん!直してるそばから壁を壊すんじゃなーい!」
「ひーっ!すんません親方ー!」
声をかけ終えたスリーズは、叱られるザンドを振り返ることなく歩き始める。
「……あいつ、何やったんだ?」
アシュレイの問いにスリーズは呆れながら答える。
「この間、城門付近に魔物の群れが現れてね、あいつが倒したんだが……。いつものようにカッコつけて、派手にトドメを刺した結果、吹き飛んだ魔物の一体があの壁をぶち抜いた。自業自得さ……」
「迷惑かけた人たちって……他にも何か……?」
「ああ、ギルドの酒場では、入って早々に酔っ払いに絡まれて、テーブル一つに椅子四つの破壊。図書館では、あの大きな剣の柄で、積み上がってた書類の山をひっくり返す。木から降りられなくなった猫を助けようとして木に登ると、奴の重さでその木が倒れて植え直しに……」
「あー、なんか……散々だね」
スリーズの言葉の節々から、これまでにあったであろう散々な苦労が伝わってくる。
「ザンドは、根っこからの不運体質らしくてね。奴一人ならともかく、一緒にいる私まで巻き込まれるから、たまったものじゃないんだ……」
リュミナとセリには、旅立つ直前にスリーズが言っていた、「少し離れたい」という言葉の意味がわかった気がした。
「……止まって」
道中、突然スリーズが手を広げて制止する。
「この感じ……まだ囲まれきってないね。それなら……」
そう言って、ポーチから取り出した小さなナイフを草むらに投げ込む。
「グェー!」
悲鳴と共に、何かが草の中で倒れる音がする。その後すぐに、草むらのあちこちで、羽音と金属音が聞こえてくる。そして数体の、武器を持った魔物が現れた。
「あいつらはバーディアンだ!知能が高くて、群れで襲ってくるのが特徴の魔物だよ!」
「ちょうどいい。攻撃を受け止めないタンク役というのを実践で見せよう。アシュレイ!魔法を撃つ準備をしておくんだ!二人とも!魔物の体勢を崩して、隙を作るよ!」
スリーズの指示のもと、四人は戦闘体制に入った。
――バシュッ!
穏やかな昼下がりの平原に、風弾を受けたバーディアンが舞う。
「よし!これで3体目!」
「安心するのは全部倒してからだ!ほら、次が来るよ!」
アシュレイのガッツポーズを注意すると、スリーズは再びバーディアンの群れに突っ込む。
「ほら!セリもリュミナも、全然隙を作れてないよ!」
二人を動きの悪さを指摘しながら、スリーズは4体目のバーディアンの槍を避けて懐に入り、鉤爪で打ち上げる。打ち上げられ、自由の効かなくなった魔物は即座に風弾によって吹き飛ばされた。
「そんなこと言ったって……」
バーディアンの棍棒を剣で捌くセリだったが、なかなかスリーズのように隙を作れない。リュミナもなんとか、目の前のバーディアンの武器を叩き落とそうと円月輪を振るうが、敵の攻撃を避けながらでは、うまく強い衝撃を与えられない。苦戦する二人の背後から、スリーズが魔物の背後に回り込む。瞬間、魔物の持っていた武器が弾き飛び、体勢が崩れる。
「今だ!」
リュミナとセリの渾身の一撃は、無防備な魔物たちを地に叩きつけた。
――その夜――
夜の焚き火を囲み、スリーズはそれぞれに戦闘のアドバイスを行う。
「アシュレイ、君は魔法を撃つ時、両足を踏ん張る癖があるね。教科書通りの姿勢、と言った感じだ。しかし、君の使う魔法は反動が大きく、足を踏ん張ることでかえって体に負荷がかかっている。そうではなくて、反動に身を任せ、後ろに飛び退くことを意識してみるといい」
アシュレイは顎に手を当てながら頷いた。
「セリ、君の剣の扱い方は、大柄な男性が使ってこそ最大限の力を発揮する、まさに騎士団の型だね。ザンドとの戦闘でも見てとれたが、今までも、押し負けることが多かったんじゃないか?君の身のこなしなら、一撃に込めるのではなく、手数を意識して攻撃を行うんだ」
セリは自分の剣を見つめなおす。
「リュミナ、君は円月輪を大きなナイフのように扱っている節があるね。本来の円月輪での戦い方は、私の戦闘スタイルと同じなんだ。スピードを活かして敵の攻撃を避け、手痛いカウンターを狙う。魔力がないのであれば、当面の間、それを意識して動くんだ。君のスピードと反射速度なら、そう難しくないはずだよ」
リュミナは腰に下げた武器を握り直した。
夜も更けて、見張りのスリーズ以外の三人は静かな寝息を立てる。不意に、リュミナの耳がピクリと動く。眠い目を擦りながら、リュミナが静かに起き上がり、焚き火の、弱々しい残火にうっすら照らされた周りを見渡す。
「……あれ?……スリーズ?」
彼女の姿がないことに気がついたリュミナは、立ち上がって再びあたりを見回すと、近くの木がわずかに揺れた。
「……起こしてしまったようだね」
リュミナが木の上に顔を出すと、スリーズは遠くの景色を眺めながら、優しく語りかける。
「ううん。私は最近ずっと寝てたから、元々あんまり眠くなかったの」
「そうか……。聞いたよ、酷い怪我だったってな」
そう言ってスリーズは再び、遠く離れたエアロムントを見つめる。彼女の横顔はどこか、懐かしさや、寂しさを感じさせる。リュミナがそう思ったのを感じ取ったスリーズは、静かに口を開く。
「……リュミナ、暇なら少し話さないか」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第30話「再び西へ」いかがでしたか?
カイレンを追って西へ向かうリュミナたち。戦闘に長けたスリーズの加入は、とても心強い存在でしたね♪
そんな彼女は、最後の場面で、どこか寂しそうな表情で、リュミナに語りかけています。一体どんな話をされるのでしょうか?
次回「長命への問」月曜日投稿予定ですが、もしかしたら休日中に投稿できるかも!?お楽しみに!
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