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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第29話 足取りを追って

「……まだ帰らないのか」

 

 夕食の席でタルローは、ぽっかり空いたカイレンの席を眺めて呟く。

 

「カイレンのことだし、大丈夫だと思ってるけど……やっぱり心配だよね……」

 

 アシュレイも寂しそうな顔をする。

 

「私もだいぶ動けるようになったし、明日、街の人たちに、カイレンがどこに行ったか聞いてみよう」

 

 リュミナの提案に、セリとアシュレイも頷いた。


 ――翌日――


「カイレン?そういえば、帰ってきたって聞いたけど、うちの店には来てないな……。売れそうな素材でもあれば真っ先に来てくれると思っていたが……」

 

「そうですか……。ありがとうございます」

 

 リュミナはお辞儀をして店を出ると、二人の待つ広場へ戻った。

 

「あの店にも来ていないって?」

 

「うん……」

 

 三人は朝から、カイレンのよく行きそうな場所を片っ端から尋ね回っていた。しかし、どこに行ってもカイレンの手がかりは見つからない。その時、後ろから、リュミナを呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、医者のおじさんが手を振ってこちらへ走ってきていた。

 

「リュミナちゃん、もう体はいいのかい?」

 

「うん!おかげさまでこの通り!」

 

 その場で元気にターンして見せる。それを見たおじさんは良かったと頷き、尋ねてくる。

 

「それはそうとカイレンがどこに行ったか知らんかね?」

 

「うん、僕らも探してるんだ……」

 

「そうか……、いや、すまないな。この間カイレンに、リュミナちゃんの容態について聞かれた後で、彼が一人でギルドに入っていったのが気になったんだ。治りが早かったと言っても、全ての傷が完治しているのかどうか……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、三人はおじさんにお礼を言って、足早にギルドへと向かった。


「カイレンさんですか?はい、3日前に来ましたよ?」

 

 ギルドの受付嬢が答える。

 

「なんでも、『以前俺たちが提出した、ヴェンティア西の地図の写しを貸して欲しい』って。そしたらそれを持って、そのまま走っていってしまいまして……。外から聞こえた足音の様子では、キャラバンの方へ向かったと思いましたが……」

 

「ありがとう!」

 

 お礼を述べた三人は再び走り出した。

 

「ヴェンティア西の地図って……」

 

「そう!僕らがリュミナと初めて出会った時に作ってた地図だ!」

 

「どうしてそんなものを……?」


 キャラバンには、セリネオと、ラウルの姿があった。

 

「あ!リュミナさんたち!聞きましたよ。大変だったみたいで……もう体は大丈夫なんですか?」

 

「……おや!リュミナたちは3日ほど前に、再び旅に出たものとばかり思っていたが……」

 

 ラウルの言葉にアシュレイが反応する。

 

「ラウルさん、どういうこと?もしかしてカイレンが?」

 

 ラウルが頷く。

 

「セリの兄の持っていた剣は、俺やジストと旅をしている中で見つけたものだという情報をどこかから聞いたようでな。場所を教えてやったら『ちょうどいい!』と言って飛び出して行ってしまった」

 

「分かった!ありがとう!」

 

 三人は再び走り出した。


「剣を見つけた場所ってどこだろう?カイレンはそこに向かったってことかな?ねぇ、アシュレイ?ラウルさんに詳しい場所聞いとかなくて良かったの?」

 

 リュミナが尋ねると、アシュレイは得意げな顔で一枚の絵を取り出す。

 

「図書館の文献に、それらしい記述とこの絵があったんだ。ちょっと待ってて……そう!この辺りの位置!」

 

 そう言ってアシュレイはヴェンティア西部の地図を取り出し、森の北側を指差す。

 

「あれ?……この辺り、行ったことあるかも」

 

 リュミナが森に住んでいた頃、近くを通った記憶があった。

 

「確か、滝があってすごく綺麗な場所なんだけど……。なんだか嫌な感じがして、ちょっと嫌いな場所だった」

 

「道が分かっているならありがたい。今からカイレンを追いかけたいんだ。……今、二人とも傷心気味なのは分かってる。けれど、一緒に来てくれるかい?」

 

 アシュレイがセリとリュミナに尋ねる。答えるまでもない。セリとリュミナは強く頷いて、ヴェンティアの西門へと向かった。


「待ってて、今衛兵のところに外出の申請をしてくる」

 

 アシュレイが西門の衛兵のところへ向かい、リュミナとセリが少しの間あたりをふらついていると、聞き覚えのある女性の声に呼び止められた。

 

「……驚いた。あなたたちは旅に出たのかと思っていた」

 

 振り返ると、ザンドと共にいた女性、スリーズがこちらを見つめていた。

 

「何の用?あいにく、私たち急ぐの。あなたたちの相手をしている暇はないんだけど」

 

 セリがリュミナを後ろに庇い、スリーズの前に立つ。しかし、目の前のスリーズから敵意を感じない。

 

「別に……こちらも今のあなたたちと戦う気はない」

 

 少し引っかかる言い方にリュミナとセリは顔を見合わせる。スリーズはそんな彼女たちを静かに見つめる。

 

「……なるほど、事情は察した。あの子を――カイレンを追いかけるって感じね……面白そう」

 

 そう言って怪しく微笑む。

 

「今のあなたたちにとって、耳寄りのいい話があるって言ったら……どうする?」

 

 その時、衛兵から許可証を受け取ったアシュレイが戻ってくる。

 

「おーい。許可とってきたよ……ってスリーズ!?」

 

 身構えるアシュレイに、やれやれと、言った表情で首を振るスリーズ。セリが心配ないことを伝えると、スリーズは再び話を戻す。

 

「それで……どうする?見たところ、あなたたちのパーティは安定して敵の注意を引きつける、言わばタンク役がいない。それでは安定して攻撃魔法を撃てない。ましてや……」

 

 スリーズはリュミナの方を一瞥する。

 

「魔力の無くなった魔弓使いなんて抱えていては、まともに戦闘なんてできないだろう?」

 

 リュミナはムッとするが、事実、弓が使えず、円月輪も使いこなすことができていない彼女は言い返すことができない。それを察したセリが反論する。

 

「待って!確かに私も慣れない剣で、まともな前衛が務まるとは思っていない。でも、それはあなたも同じでしょ?どう見ても盾役の戦い方じゃなかった」

 

 以前戦ったスリーズは、林の中を俊敏に駆け回り、隙をつく攻撃をしていた。どう考えても、カイレンのように相手の攻撃を受け止める盾の役目を果たせるとは思えない。

 

「タンクの役割は、攻撃を受け止めることだけじゃない。現に、あなたたちは以前の戦いで、一度もザンドに攻撃を当てられなかった」

 

 と、スリーズが説明し、アシュレイがハッとする。

 

「攻撃を全て自分に向けさせて、味方を守るってこと?」

 

 その答えを待っていたかのようにスリーズが胸を張る。

 

「その通り。どう?今のあなたたちには、必要な存在なんじゃない?」

 

 アシュレイとセリも納得した表情になる。しかしすぐに厳しい表情になって尋ねる。

 

「それで、あなたの要求は何?リュミナを差し出せっていうのは受け入れられないよ」

 

「そんなんじゃないの。私は、少しあいつと離れて旅がしたいし……」

 

 そこで少しだけ、スリーズは口を止める。

 

「それに……強いて言えば、会いたい人がいるの」

 

 その声には、普段の余裕とは違う、かすかな迷いが混じっていた。彼女の表情はどこか寂しげで、兄のことを話すセリに似ていたが、微かに迷いの感情も見てとれた。

 

「……いいよ、分かった。今のあなたからは敵意を感じないし、その言葉を信じてあげる。でも、リュミナに対して、少しでも変な素振りをしたら許さないからね」

 

 三人は納得し、スリーズを受け入れる。セリと握手をしたスリーズは、チラリとリュミナを一瞥すると、僅かに、でもすごく優しく微笑みかけた。


 そうして四人は西門から街を出る。数日前、同じように街を出たであろうカイレンを追って……

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第29話「足取りを追って」いかがでしたか?


 エアロムント中を駆け回り、カイレンが向かったであろう場所が特定できました!そこはなんと、リュミナと三人が初めて会った森の近く。カイレンは一体なぜ、一人でそんなところは向かったのでしょうか?


 さらに、パーティにニューフェイス!なんと以前、リュミナを狙って襲ってきた強敵、スリーズが加入!?

彼女の狙いとは?会いたい人とは?


 次回「再び西へ」金曜日投稿予定です。お楽しみに!


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