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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第28話 傷跡

 リュミナはパチリと目を開く。見たことのある天井。なんだかぼーっとする頭。ムクリと体を起こすが、うまく力が入らず、コテンと枕に吸い込まれる。すると、その音を聞きつけたのか、扉が開き、アシュレイが顔を覗かせる。

 

「リュミナ!目が覚めたんだね!待ってて、今、医者の先生を呼んでくるから!」

 

 そう言ってバタバタと走っていった。


「命にも別状はありません。このまま休ませていれば、直に回復していくでしょう。いやぁ、エルフといってもこの子はまだ若い。回復速度が私の想像以上で驚きですよ」

 

 そう言って、医者のおじさんがリュミナの頭を撫でる。タルローとアシュレイが頭を下げると、医者のおじさんはタルローに少し来るようにと手招きをする。

 

「命の危機はもうないでしょう。しかし……いや、私にエルフの体の知識がない以上、断言はできませんが……彼女、魔力を使えなくなっている可能性があります……」

 

 エルフの耳は人間よりも大きく、小さな音でも聞くことができる。リュミナはその会話を聞いて、こっそり魔法の矢を生成しようと試みる。しかし、いくら集中しても手のひらに何も出てこない。

 

「カイレンさんの話だと、気絶寸前、今までに片鱗すら見せなかった氷の魔法、つまり、風と水の融合魔法を使ったと聞きます。それの副作用の可能性もありますが、なんとも……エルフは数も少なく、前例自体少ないもので……」

 

 そう言い残して扉が閉まる。タルローが心配そうに、リュミナの顔を覗き込む。先ほどの医師の言葉は、彼の表情に不安という形で現れている。

 

「心配しないで……。私もう元気だよ」

 

 そう呟くと、タルローも少し安心した笑顔でリュミナに眠るように促し、アシュレイとともに部屋を出ていった。


 しばらく時間が経ち、起き上がれるようになったリュミナはよろつきながら階段を降りる。テーブルには、食事の用意を手伝うセリの姿があった。

 

「あ、リュミナ!よかった……。アシュレイから目を覚ましたっていうのは聞いてたけど……。歩いて大丈夫なの?座ってて、今、何か美味しいもの作ってあげる。タルローさん!厨房借りるよー」

 

 リュミナを気遣ってくれているのか、明るい笑顔を見せるセリ。しかし、長い間近くにいたリュミナには、それが無理をして作った笑顔であることがなんとなく分かっていた。星祭りで聞いた彼女の家族の話。その次の日の朝見せた笑顔に酷似している。

 

「はい、お待たせ。騎士団でも人気の、特製スープよ!」

 

 セリは、優しい匂いのクリームスープを振る舞い、リュミナの正面の席に座り、にっこりと笑いかける。無理をして笑う彼女を見て、リュミナの心がチクリと痛む。

 

「セリ……大丈夫?」

 

 自然と発されたリュミナの言葉に、セリの顔から偽りの笑顔がスッと消え、まるでその涙を隠すようにうつむく。

 

「……やっぱり分かっちゃうのかな?リュミナの前ではお姉さんでいようと思ってたのに……。私、嘘下手だな……」

 

 少しずつ声が震えていく。リュミナはスプーンでスープを掬い、セリに向ける。

 

「セリ……。わけっこしよ?」

 

 セリは何も言わずにそれを口に含み、

 

「……あったかい」

 

 セリの顔に、作られていない、自然な笑顔が戻った。



「カイレンも目を覚ましたって!」

 

 アシュレイが宿の扉を開き、みんなに報告する。

 

「カイレンはこの宿じゃなくて別のところにいるの?」

 

 リュミナが尋ねると、アシュレイが頷く。

 

「カイレンの体、傷だらけだったんだ。リュミナ達を守るため、ヴォルグの攻撃を一身に受けてたんだよ。それで、大きな病院に運ばれて、治療を受けていたんだけど、さっき目を覚ましたって」

 

 タルローも安心したように笑う。

 

「よかった。だが、今日はもう遅い。明日、お見舞いに行ってやろう」


 その夜、リュミナは不思議な夢を見た。幼い自分が、怪我をして、母に連れられて森の泉で体を癒す。ここまでは、彼女の昔の記憶。小さい頃に何度も経験したことだった。しかし、夢は続く。泉の中にいたリュミナは突然の地面の揺れに驚く。慌てて泉から出るが、揺れはどんどん強くなる。その時のリュミナには、何故か、この星そのものが揺れているのだという確信があった。次第にその揺れは自身の心臓の鼓動に重なっていく。その夢は、そこでプツリと途切れた。


 ――次の日――


「ダメだ!ふらついているじゃないか!リュミナはまだ寝てなさい」

 

 翌日、まだふらふらしているリュミナはベッドに寝かされ、タルロー、セリ、アシュレイはカイレンの見舞いに行った。カイレンの体は人一倍頑丈だったようで、その日のうちに退院し、宿に戻ってくることができたようだ。

 さらにその次の日の朝、女部屋がノックされ、入ってきたカイレンが頭を下げる。

 

「二人ともゴメン!」

 

 突然の謝罪に、心当たりのないリュミナとセリは困惑する。するとカイレンは以下のように続ける。

 

「俺、今まで、どこか調子に乗っていたんだ。トライホーンを倒して、ザンドも自分たちの力で撃退できて……。それで、身の丈に合ってない、高難度の依頼も、甘く見て、お金のためだけに受けて……結果、セリの剣も折られて、リュミナは魔力が……。取り返しのつかないことを……本当にゴメン!」

 

「頭を上げて、カイレン」

 

 リュミナは優しく語りかける。

 

「私は、むしろ感謝すらしているよ。カイレンが、みんながあの森に来てくれて、私を冒険に誘ってくれたから、いろんな人たちに出会えて、たくさんのことを知れた。確かに辛いこともあったけど、それ以上に毎日が楽しいんだよ」

 

 セリも頷く。

 

「私も、カイレンが引っ張ってくれたから、兄さんの手がかりを見つけられた。剣なら折れても、また新しいものを買えばいいのよ」

 

 二人の言葉にカイレンは頭を上げて、少し安心したような、どこか吹っ切れたような笑顔を見せる。

 

「ありがとう。俺、二人のためにも、今の俺にできることを全力でやるよ!」

 

 そう言い残すと、カイレンは部屋を出ていった。


 それから3日の月日が流れた。あの日から、カイレンが宿に、リュミナたちの前に戻ってくることはなかった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第28話「傷跡」いかがでしたか?


 前回、なんとか戦闘から離脱し、エアロムントに帰還することができたものの、少年少女らの心には敗北という傷跡が残ってしまいました。


 仲間同士で励まし合うことで、その傷も癒すことができたのかと思ったのも束の間、今度はカイレンが一行の前から消えてしまいました!


 彼はどこへいったのか?また、リュミナたちはこの先どうするのでしょうか...?


 次回「足取りを追って」水曜日投稿予定です。お楽しみに!


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