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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第27話 激戦!そして...

「行くぞ!リュミナ!」

 

「うん!」

 

 掛け声と共にカイレンとリュミナは左右に分かれてゴートの目の前に飛び出した。ゴートの角をかわしてカイレンは左頭部に拳を、リュミナは右前足に斬撃を、それぞれ繰り出す。

 

「二人とも、今だ!」

 

 わずかによろめいたゴートの隙をついて、接近したアシュレイが杖を向ける。

 

「キュロス・ウィンド!」

 

 広範囲に放たれた暴風は、左右に飛び退いたリュミナとカイレンを掠めて、ゴートに襲い掛かり、魔物の体に纏わりついたモヤを吹き飛ばす。反動でよろめくアシュレイの背後から、居合の構えをとったセリが飛び出す。

 

「秘剣・彗星!」

 

 放たれた一閃は、その名の通り彗星のようにゴートの体を両断し、魔物はその場に沈んだ。

 

「……霧が……離散していく……」

 

 空中を漂っていた霧は、宿主を見失ったかのように散り散りになって消えていった。

 

「すごいぜ!二人とも!」

 

 カイレンとリュミナが駆け寄り、四人はハイタッチをして、勝利の喜びを分かち合う。

 

「さーて、戦利品は……。あっ!」

 

 カイレンが、魔物を解体しようとナイフを持ってしゃがみ込んだ瞬間、倒れた魔物の体はどんどん崩れ落ち、砂つぶのようになって消えていってしまった。

 

「……これはどうなってるんだ?」

 

 カイレンが頭を抱えたその時、背中に、冷たくて嫌な感覚が走り、四人は一斉に振り向く。先程、ゴートに倒されたヴォルグ達の亡骸のまわりに、ゴートのものと同じ黒いモヤのようなものが現れ始めた。

 

「ねえ……。あれって……」

 

「おいおい……。まさかな……」

 

 悪い予感は的中した。モヤに包まれたヴォルグの一匹が、何かに取り憑かれたようにムクリと起き上がると、光のない目でこちらの方を向き、遠吠えを上げる。すると、他のヴォルグ達も同じように起き上がり、牙を剥き出す。

 

「これは……まずいね……」

 

「とにかく今は……逃げるぞ!」

 

 四人は一斉に振り返ると全力で走り出した。


「ねえ、アシュレイ、気づいた?」

 

 走りながらセリが問いかける。

 

「うん。起き上がったヴォルグ達には共通点があった」

 

「それって、霧を纏ったゴートに倒されたヴォルグだけが起き上がってたってこと?」

 

 リュミナも不思議に思っていた。ゴートとの戦闘中、一緒に襲ってきたヴォルグを何体か倒したのだが、それらは霧に取り憑かれず、襲ってきていない。

 

「おそらく、あの霧は一種のウイルスみたいなものじゃないかな?だからゴートに倒されたヴォルグには霧が伝播して、僕らが倒したヴォルグには霧が付かなかった!」

 

 アシュレイが自分の立てた仮説を口にする。

 

「でも今はその仮説を確かめてる余裕はないぞ!」

 

 カイレンが先の林を指差す。

 

「あそこに逃げ込もう!」


 四人は林の中へと飛び込んでいった。


「くそ……。あいつら、一体どこまで追ってくるんだ?」

 

 林の中へ逃げ込んだ一行だったが、ヴォルグの群れは執拗に追ってくる。木々の間を飛び回るように伝うリュミナは、何度か振り向きざまに弓で狙撃する。しかし、打ち抜かれた箇所から再生し、再び走り出すヴォルグには、ほんの少しの時間稼ぎにしかならなかった。

 

「それなら……」

 

 リュミナは一本の枝で立ち止まり、目を瞑って集中する。今までよりも細く、鋭い矢が生成された。

 

「これで……どうだ!?」

 

 放たれた矢は一体のヴォルグの後ろ足を貫き、そのまま地面に突き刺さる。ヴォルグの足の傷はすぐに塞がるも、矢が地面に刺さっているせいで魔物は足の矢を引き抜こうと動きが止まった。

 

「よし、この調子で……」

 

 そう言ってリュミナは枝を飛び、次のヴォルグに狙いを定める。

 

「リュミナ!危ない!」

 

 驚いたリュミナが声のした方を振り返る。突然目の前に大岩が飛び出し、幼いエルフを撃ち落とした。

 

「ぐっ!リュミナーっ!」

 

 地面にぶつかる寸前、カイレンが滑り込んでリュミナを受け止める。そして、

 

「これでもくらえっ!」

 

 ゴートとの戦闘でボロボロになった盾を、ヴォルグの群れに向かって投げつける。そして、腕の中のリュミナに目を向ける。彼女の頭部からは血が垂れ、腕がプルプルと震えている。その反応を見たカイレンは、ハッとして周りを見渡す。いつの間にか、周囲に生えている数本の木が、紫色なことに気がつく。

 

「しまった……。ここはもう、"紫の森"の中!とにかくリュミナ、頑張ってこれを飲むんだ」

 

 カイレンはバッグから取り出した万能薬をリュミナの口に運ぶ。リュミナの目がうっすらと開き、腕の震えが止まる。すると、前の方からも怒号が鳴り響く。前方では、先ほどの投石の元凶、オークと、セリ、アシュレイが交戦していた。

 

「くそっ、状況が悪すぎる……。みんな!撤退するぞ!」

 

 そう言ってテレポートジェムを取り出した時、木の陰に潜んでいたもう一体のヴォルグが、カイレンの腕に噛み付いた。

 

「があっ!」

 

 痛みで開いた手のひらから、テレポートジェムが草地に転がり落ちて見えなくなる。

 

「カイレン!」

 

 振り返ったアシュレイが咄嗟に風刃を放ち、ヴォルグの首を切り裂く。カイレンも腕に噛み付いたヴォルグの、力の抜けた顎を振り払って飛び退いた。

 

「まずい……。ジェムが……!」

 

 落ちたテレポートジェムは草の中。しかし、ヴォルグの群れが迫っている中、衰弱したリュミナを庇いながら悠長に探す暇はありそうにない。その時、あたりの木々が大きく揺れ動く。

 

「奥!デカいのが出てきた!」

 

 森の奥から、大きな、見覚えのあるシルエットがゆっくりと姿を表す。それは先日、記憶の花が見せたオークのボスだった。オークのボスは、セリの持っている特殊な装飾のされた剣を見て、ニヤリと笑うと、自身の手にした棍棒を掲げて吠え叫ぶ。その棍棒には、冒険者達から奪ったのであろう様々な武器が括り付けられていた。そして、その中の一つにセリが反応する。

 

「……あれは……お兄ちゃんの剣……」

 

 それを見間違えるはずがなかった。セリと同じような装飾のされた剣。セリの剣は、元々彼女の兄の剣を模倣して作られたレプリカだった。セリの中で何かがプツリと切れた音がした。

 

「……その剣を、どうやって手に入れた!」

 

 セリは我を忘れたように怒り、アシュレイの静止も聞かず、オークのボスに突撃していく。しかし、力の差がありすぎたのか、あっさりと吹き飛ばされ、おまけにセリの剣は刀身が真っ二つに折れてしまった。


 衰弱したリュミナは、薄れていく意識の中、必死に戦う仲間達の姿を見ていた。カイレンの焦り、アシュレイの嘆き、セリの怒り。それだけではない。命の危機に、彼女の研ぎ澄まされた感覚は、周囲の魔力、ヴォルグ達の息遣い、オークの挑発、全てを感じている。力を振り絞って右手に矢を生成し、投げる。ヴォルグ達の目の前に着弾した矢は、凄まじい嵐を巻き起こし、魔物を吹き飛ばした。突然の出来事に驚いたカイレンの前に、氷に似た、微かに煌めく石が飛んでくる。

 

「……テレポートジェム!」

 

 カイレンは掴むや否や、足元に叩きつける。

 

「アシュレイ!セリを抑えて!」

 

 四人の足元に大きな魔法陣が出現し、魔力の光を巻き上げ始める。

 

「離して!アシュレイ!兄さんは……、私が……仇を……」

 

 魔法陣を飛び出そうとするセリをアシュレイが必死に抑える。魔法陣の光がどんどん強くなる。その時、アシュレイの片腕がセリによって引き剥がされた。

 

 眩い光が視界の全てを覆い隠す。リュミナが意識を失う前に見た最後の光景は、自分の手がセリの手を掴んだ瞬間だった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第27話「激戦!そして...」いかがでしたか?


 ダメージを受けてもすぐに復活するゴートを倒したかと思いきや、そのゴートと同じ状態になって襲いかかってくるヴォルグの群れに、見るからに強敵なオークの出現、息つく間もないとはまさにこの事!


 最後、なんとかテレポートに成功した一行、しかし、彼らの胸にも、体にも大きな傷が残ってしまいました...


 次回「傷跡」月曜日投稿予定です。お楽しみに!


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