第25話 手がかりを追いかけて
焚き火を囲んだ夕食中、セリは心ここに在らずといった様子でぼーっとしていた。そのうちに、手に持っていたスープの皿が傾き、慌ててリュミナが皿を支える。
「ああ、ごめんリュミナ。ちょっとぼーっとしてた」
「うん……。大丈夫?」
セリの見せた笑顔に、リュミナは少し安心する。
「あの映像の魔物……多分この近くに棲みついてるオークだろうね。後から出てきたデカいやつの顔色を伺うような動きをしていた。間違いなくあいつがボスだ」
「オークか……。確か、群れで洞窟みたいなところに住んで、人や魔物を襲うんだよな……」
「でも、群れのボスさえ倒してしまえば、新たなボスができるまで、統率がとれなくて弱体化するって図鑑で見たよ。もしかしたら、セリのお兄さんがもう倒してるかもしれないしね」
「ああ、俺もそう思った!だってあの映像で、オークのボスを見つけた時、セリのお兄さん、驚いてはいたけど剣を持つ手は一ミリもブレてなかったもんな!動揺していない証拠だぜ、あれは」
カイレンとアシュレイはセリを元気付けるためか、すごく明るい笑顔で話す。それを察したのか、セリは二人に礼を言う。
「ありがとう……。私ならもう大丈夫。私も、お兄ちゃんならあの後も問題なく切り抜けてると思う。今、私ね、すごく喜んでるの。だってお兄ちゃんは生きていて、少し前にあそこを通ったって分かったんだもん」
そしてスープの皿を置くと、リュミナの方に向き直り両手をギュッと握りしめる。
「あなたのおかげで、お兄ちゃんの手がかりが見つけられたの。本当にありがとう!」
セリの言葉と笑顔に、三人も安心した表情を浮かべた。
「よし、明日からはもっと慎重に、この辺りを探索しようぜ!どんな小さな痕跡だって見つけて見せる!」
カイレンが鼓舞し、みんなが力強く頷いた。焚き火がパチリと音を立て、暗い夜空に明るい火の粉を吹き上げた。
――その頃、エアロムント、ラウルの小道具店にて――
ガチャリと扉が開き、ジストとラウルが戻ってくる。
「よぉ!セリネオ。店番お疲れさん」
その言葉に、セリネオはむくれながら返事を返す。
「やっと帰ってきた。もぉ!ジストさんもラウルさんも遅いよ!……どうせ、何してたのかは秘密なんでしょ?」
「ははは……。すまんな。ほら、これは店番の駄賃だ。いつもより多めに入れといたぞ」
そう言ってジストがセリネオに、貨幣の入った革袋を投げて渡す。
「やった!ありがとう!じゃあ僕は遊びに行ってくるね」
「おぅ!あんまり遅くなるなよ!」
「ならないよ!僕はジストさん達とは違うからね!」
そう言ってセリネオが扉を閉め、街の賑やかな方向へ走っていった。足音が遠くなっていき、ジストとラウルも肩の荷が降りたように息をつく。
「……それにしても、まさか王があんな計画を立てているとは……」
「割と昔からあんな感じさ……。タダでは転ばないというか……、食えない人だろ」
ジストの、やれやれといった仕草に、ラウルは真剣な表情で睨む。
「言っている場合か。今のままでは、その前に大量の死人が出る可能性すらあるんだぞ」
「……ラウル。俺はあいつらに付いていくことにする。セリネオを、あの子達を頼む」
その言葉に、ラウルは動揺した様子で座っていた椅子から立ち上がる。
「!?ジスト、ふざけるのもいい加減に……」
いつになく真剣な顔をするジストに、ラウルは言葉を詰まらせる。
「昔から、こういう時に冗談言ったこと、あった?」
「……だったら俺も行く。もう二度とあんなことは……」
「ダメだ!そこでもしものことがあった場合、その後はどうなる?……ごめんな。こんなこと頼めるのは、もうお前しかいないんだ」
そう言って、ジストは指を立てて歩き出す。
「これが俺の、もう一つの"矢"だ。どうだ?少しはあいつに似てきたか?」
ニカっと笑った後、再び真剣な顔に戻る。
「……頼んだぜ、相棒」
そう言い残して飛び上がり、天井の窓から外へ出ていくジストを、ラウルは見送ることしかできなかった。
夜、ジストは満点の星空を眺めながら、一冊の古くなった本を懐から取り出す。次々とページを捲り、やがて後半の、何も書かれていないページまで開くと、上を向く。
「俺はやっぱり、この空が好きだよ。なぁ、リューネ」
そして最後に、先ほど渡した革袋を手に楽しそうに街を走るセリネオの方を見たジストは、目元まで深く帽子を被り直し、夜の闇へと消えていった。
――翌日――
「ねぇ、何だか違和感ない?」
翌日、探索を再開し歩いている最中、セリが問いかける。カイレンは首を傾げる。
「そうか?確かに他のエリアに比べて、凶暴な魔物が多い気はするけど、こんなのギルドでも散々言われてたし、今更じゃないか?」
しかしセリは首を振る。リュミナがもしかして……と尋ねる。
「ひょっとして……、今回の冒険ではまだ一回もザンドが襲ってきてないってこと?」
するとセリは「そう!それ!」と言いたげなジェスチャーを返す。
「確かに……。エアロムントを出発してもう一週間くらい経つけど、一回も来ないね。まあ、いいことだけど」
「あれだけしつこく追ってきて、リュミナを連れて行こうとしてたのにね。……逆にアシュレイは、あそこまでもはいかなくても、もっと積極的にアピールすれば良いのに」
そう言ってセリはイタズラっぽくアシュレイを見る。
「な、ぼ、僕は調べたいことがあったから図書館棟に行っただけだよ!決してマルナについて行ったわけじゃないんだよ!」
アシュレイは顔を真っ赤にして先日のエアロムントでの件を弁明する。
「調べたいことってなぁに?恋の叶え方とか!?」
セリがさらに茶化すと、アシュレイも必死になる。
「ち、違うよ!ほら、ギルド長が言っていたじゃないか、最近、王様がヴェンティア北側の地図作成を急がせてないかって。僕もそれが気になって、北側に何かあるのか調べてたんだ」
アシュレイは必死に話題を逸らすように、調べたことを話し始める。
「北側にはね、最近"霧の魔物"っていうのが棲みついたらしいんだ。昔から、『火山にはドラゴンが住む』って言うだろう?ヴェンティア北にある"煙山"にも、ドラゴンが住んでて、よく飛んでる姿を見かけたらしいんだけど、"霧の魔物"の目撃例が出てから、一度もドラゴンが"煙山"に飛んでくる姿が見られていないんだって。それで、『煙山には霧の魔物たちを統べ、ドラゴンをも寄せ付けない"霧の王"がいる!』って伝説が生まれたらしいよ。王様が地図作成を急がせてる理由はその、"霧の王"が原因かもしれないよね?」
「……でも、それって全部何かの雑誌の情報だろ?俺も聞いたことあるけど、胡散臭いよなぁ」
アシュレイの不確かな伝聞情報にカイレンもセリも疑いの目を向ける。しかし、リュミナはその話に目を輝かせていた。
「私、ドラゴンってお話でしか聞いたことないんだ。強くてかっこいいんでしょ?会ってみたいなぁ」
しかし、その直後、前を歩いていたカイレンが急に立ち止まり、リュミナ、アシュレイ、セリはそれぞれ前を歩く仲間にぶつかる。
「もう!カイレン、いきなり止まらないでよ!」
セリが注意すると、カイレンはその場にしゃがみ込んだ。何かあるのかとカイレンの目の前に広がる景色を見た一行はその光景に驚いた。そこには、不自然に草地の中に一点、くり抜かれたように丸く草がなくなっている場所があった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第25話「手がかりを追いかけて」いかがでしたか?
ついに見つけたセリの兄の手がかりを追いかける一行、オークやドラゴンなど強敵の噂も飛び交い、緊張感が出て来ました!
同時に、エアロムントで行われた意味深な会話...一体この後何が起きるのでしょうか...?
本日GWの為、なんと特別に二本立て!
次回「危険信号」本日中に投稿予定です。お楽しみに!
☆ブックマーク・評価・感想をいただけると、投稿主の励みになります!




