第23話 それぞれの日常
「リュミナー、足りない薬とかの買い出しに行くけど、一緒に行くかー?」
カイレンが下の階からリュミナを呼ぶ。
「うん、今行く!」
リュミナも支度をして部屋を飛び出す。誘拐事件があってから、カイレンやセリ、アシュレイはリュミナを一人きりにしないように気遣っていた。
「アシュレイはまた学校に行ったのを見たけど……セリは?騎士団のところに行ったの?」
しかし、カイレンも首を傾げる。
「さぁ?なんか今日は用事があるって、俺に買うものリストだけ渡してそのまま出かけちまったんだ」
「ふーん、セリは買い物好きなのに……珍しいね」
ーー数時間後ーー
「ねぇ、まだ時間かかるの……?」
大きな紙袋を抱えたリュミナが不満そうに言う。
「まぁ待て、今大切なところなんだ」
そう返事したカイレンは再び棚の前でしゃがみ込み、いくつかの薬の瓶を吟味する。
「この万能薬……確かにこれ一つで毒や痺れ、眠気など魔物の使う一般的な状態異常は全て回復できる……しかし値段が……。これなら毒消しや麻痺直しを個別に買って使い分けたほうが安い……。いやしかし……」
この調子で小一時間頭を悩ませるカイレンに、リュミナはすっかり困り果てる。すると、
「あれ?リュミナさん」
聞き覚えのある声に振り返ると、いくつかの商品が入ったカゴを持つ少年、セリネオが歩いてやってきた。彼は状況を見るなり、
「……なるほど。リュミナさん、僕に任せて!」
と目を細め、リュミナに笑いかけると、唸り続けるカイレンに近寄る。
「お兄さん、お兄さん、高価だが全ての症状に効く万能薬か、安価で特定の症状に強い特効薬かで悩んでるんじゃないのかい?」
そしてカゴから一つの小瓶を取り出す。
「確かに、値段や効能は商品購入に当たって大切な要素です。でもね、他にも、人によっては一番重視すべきところを、お兄さんは見落としている!」
その言葉にカイレンはピクリと動き、セリネオの方を向き直す。
「はい!この薬、効能は市販の万能薬と大差ありませんが……何と!果汁のような甘酸っぱさがある、"美味しい"万能薬なのです!」
「ほう……味か……。確かに、薬ってのは大体苦いからな。飲みやすいってのも大切な要素か...」
いつのまにかカイレンは、セリネオの売り込み文句に聞き入っている。
「だが、俺の目はそう甘くない……。高いんだろう?」
「いえいえ、こちらの"美味しい"万能薬、とあるツテから最近大量に仕入れまして……今ならお値段、このくらい」
そう言ってセリネオが銀貨を一枚指で弾く。その銀貨をカイレンが掴み、ニッと笑う。
「買った!」
商談が成立すると、セリネオは二人を手招きしてキャラバンの方へ向かった。
「いやー。セリネオも商談が上手くなったな。まるでジストさんと話してるみたいだったぜ」
「へへっ。いつも隣で見てましたから。それに...」
そう言いかけたセリネオは、一瞬リュミナの方をチラリと見た後、何でもないと言ったように首を振る。そんな少年の頬は微かに赤く染まっていた。リュミナは首を傾げるが、それはそうとセリネオにお礼の言葉をかける。
「助かったよ。あのままだとカイレンの買い物だけで一日が終わっちゃうところだった」
話しながら角を曲がると、ラウルの小道具店が見える。リュミナは、星祭りに行く前に、ラウルに言われたことを思い出す。
「ちょっと寄ってもいい?ラウルさんに会いたくて」
そう言って足早に店の前に向かうが、扉には「臨時休業」の張り紙があった。セリネオが遅れてやってきて言う。
「ジストさんもラウルさんも、今いないんですよ。何でも、急にやらなくちゃならない仕事があるって言って…」
「そっか……残念」
キャラバンに到着し、セリネオが"美味しい"万能薬の在庫を探しに荷台の中に入る。外で待っていたリュミナは、ガサッという音を聞いて振り向く。少し先、学校の近くで何やら不思議な動きをしているセリが目に入った。
「カイレン、これお願い」
「え...?おい、リュミナ?」
持っていた紙袋をカイレンに渡し、セリの方へ走り寄ると、静かに背後から声をかける。
「何してるの?」
「ニ゙ャ゙ッ゙!」
聞いたことのない悲鳴をあげ、後ろに飛び退いたセリにリュミナも驚いて飛び上がる。
「リュミナか……びっくりしたー」
胸を撫で下ろしたセリは再び学校の窓を覗く。
「静かにね……今いいところだから……」
授業が終わった後の教室には、アシュレイと数名の生徒、そして、以前すれ違ったことのある少女、マルナの姿があった。アシュレイは必死にノートをとっているが、たまにマルナの方をチラチラと見ている。
「本人は内緒にしてるみたいだけど、側から見てると、やっぱりバレバレだよねー」
「何が?」
「ピャッ!」
不意に後ろから声をかけられ、リュミナとセリは再び飛び上がる。セリネオが、イタズラっぽい笑みを浮かべて立っていた。
「カイレンさんが荷物を持って帰ったんだけど、リュミナさんを1人にしないであげてって。あっ、マルナさんが移動するよ。アシュレイさんも後を追うみたい」
「あの方向、図書館棟だね。先回りしよう」
いつの間にかセリネオも加わり、人目を避けるように、3人は図書館棟の裏手へ回り、屋根伝いに窓の元へ向かった。
「やっぱりここだったね」
マルナとアシュレイは同じテーブルで本を読んでいる。不意に、セリネオがあることに気がつく。
「あれ?アシュレイさん、さっきノート書いてる時と同じしおり使ってる……。使いまわしてるのかな?」
その指摘にセリがフッと微笑む。
「よく気がついたわね……。流石見習いとはいえ立派な商人。そうよ、何てったってあれは、恋の叶う魔法のしおりなんだから!」
得意げなセリに、リュミナはキョトンとし、セリネオは胡散臭そうな目を向ける。
「……魔法のしおりなんて聞いたことないよ……。どこでそんなもの拾ったの?」
「失礼ね……。拾ったんじゃなくて貰ったの。この間、騎士団の寮に行ったときに、友達からね」
そう言ってセリは手を合わせて体をくねらせる。
「この間、騎士団の後輩の男の子から、『恋を叶える魔法のしおりは持つべきものにこそ相応しい。僕と二人きりで読書でも?』って言ってプレゼントされたの。すっごいロマンチックよね?まぁ、私本を読むより体を動かすほうが好きなんだけどね。それで、朝、アシュレイに、これを持ってればきっとマルナに想いが伝わるよって言って貸してあげたの」
そこまで聞いて、リュミナも何となく察し、セリネオはやれやれというように首を振る。
「セリ……。それはセリへのプレゼントで、『夢を叶える〜』って言うのは誇張表現なんじゃ……」
セリネオの指摘に、セリは驚いた表情で後ずさる。その音に反応したのか、窓の隙間から飛び出した風弾が3人を撃ち落とした。
「……全く、そんなことだろうとは思ったよ……。でも、あんなところに張り付いて、中の様子を伺っていたら、不審者に間違えられても文句は言えないよ!」
「はい……。ごめんなさいでした……」
事情を知ったアシュレイに、正座して座らされていたセリが改めて謝る。
「まぁまぁ、アシュレイ君。よくわからないけど、セリさんも悪気がある感じじゃなさそうだし……」
マルナがアシュレイを嗜める。
「それに……アシュレイ君の魔法、凄い速度と精度だったね。かっこよかった」
「へへっ。そうかな?」
結果的に、アシュレイとマルナの距離が近くなっている気がする。セリネオとリュミナは顔を見合わせて静かに笑った。
エアロムントでの平和な日常はあっという間に過ぎていく。
次の日、ギルドの掲示板の前には多くの人が集まっていた。内容としては、以前カイレンが言っていた通り、地図作成依頼における、パーティランク緩和措置が本日から適用されるとのことだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第23話「それぞれの日常」いかがでしたか?
戦闘や冒険ばかりだったリュミナ達が、エアロムントで束の間の、平和な日常を楽しむ様子が目に浮かぶようでした。
さあ、次回はついに高難易度の地図作成の旅に出発です!この先にどんな出会いやドラマが待ち受けるのでしょうか?
次回「新たな旅立ち」月曜日投稿予定です。お楽しみに!
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