巨人(前編)
レダ達の協力もあってとてもスリルいっぱいな空間内で修行できた俺は、今日はもう遅いので家族と一緒に宿屋で泊まることにした。
家族も俺が中に入っている間不安だったらしく、ライさん達と一緒にしばらく祈っていたと言う。
「ナルガスちょっといい?ルーナちゃんが入り込んでいったあの中では、一体何が起きていたの?」
「うん、あそこの中はね…」
家族皆が一同俺の個室に集まって、向こうで起きた環境の凄まじさ。
あそこになぜか、悪巧みを考えていた姿の見えない敵のような黄色のオーラを放つ存在が紛れ込んでいたこと。
そして、ルーナのステータスを見て驚いた事実など詳しく話した。
「うーん…本当にナルガスと関わる子供は何故か、俺達の想像できない事になってくるんだよなぁ?
何故だナルガス、お父さんにはさっぱりだ」
「ごめんお父さん、俺自身も分からない…」
「ねぇお兄ちゃん、もし明日またあの中に入るつもりなら今度は私も一緒に入って良い?」
「え?うん、もちろん良いとは思うけれど…絶対びっくりするから」
「楽しみ~~!」
「…レアナ、どうやらうちの子供達はあの危なそうな空間で遊ぶつもりみたいだな」
「ふふ…そうねぇ、もう何が起きても気にしたって仕方ないわ」
「お父さんもお母さんも、すっかりお兄ちゃんのおかげでいろいろ慣れちゃったね」
両親はもちろん、レダも達観視していた。
「あはは!喜んで良い…のかな?」
「それにしてもおかしいな?俺達も空間の中をいじってる間他の者は誰も来なかったはずだし…
まあ、冷静になって考えたら近寄りたくない雰囲気だったのかもしれないがな」
「本当そうだったわね……あ、明日は改めてルーナに謝っておかないとね!」
「あれ?そう言えばお兄ちゃん、ルーナもこの宿に止まってなかった?今姿は見えないけれど」
「ああ、それのことなんだが実は…」
「ここだよ~」
「ルーナ⁉︎どうしてそんなとこにいんの!」
俺がポーチから取り出した空間の中で、ルーナは一人まったりとくつろいでいた。
くつろいでる時だけは、のんびりした言葉遣いになるんだな?
「えへへ…ナルガスには宿屋に着いたときにこっそり話しておいたんだけど~、私広いとこだと落ち着いて寝れないのよ~
だから、ここにつく前に収納ポーチと生活に必要そうな物だけを買って、ナルガスに作ってもらったこの空間の中で寝ようかなと思って…ちょうど良い狭さだもん!」
「この宿屋もちょうど良い範囲だと思うんだが…何がちがうんだ?」
「誰も入ってこない場所だからこそ安心するの~」
「あ、うん私もその気持ちは分かる…かも
でも!よりによってお兄ちゃんに作ってもらわなくても良いじゃん
私だってできるんだよ?ぷぅ…」
「ご、ごめんねレダ…私みんながいじってたあの中に入ったとき安心できるとこがないからか、無意識に結界をはって過ごそうとしたのかも知れないの
それを思い出すとちょっと頼みづらくて…」
「「「ゴ、ゴメンナサイ…」」」
「ううん!そのおかげでみんなの役に立てる武器をあの中でナルガスに作ってもらったし、私もみんなが使ってる『空間操作』ってスキルをやっと手に入れる事かできたから良かったと思ってるんだ〜」
ルーナはまるで自慢するかのように、俺が作ったあの小さい経典っぽい物を取り出したけど、本当にあれ…どうやって使うんだ?
「ええ~良いなぁ!お兄ちゃん、私にも何か作ってよぉ~」
「レダに合うのは杖くらいしかない気がするんだがそれでも良いか?一度レダやみんなに渡そうと思って、武器を作ってた時の物があるんだけけど…」
「ちょうだいちょうだい‼︎」
年相応のねだりかたをしてくるレダ。
「分かった分かった!まずは落ち着いてレダ……はい、これがレダ用の杖!あとお母さんにも」
「「ありがとう‼︎」」
「ナルガス、お父さんには何も無いのか〜?」
お父さん…そんな泣き顔で迫らなくてもちゃんとした物を用意するから!
「もちろんあるけれど、まだ途中なんだ!弓をいま作ってるんだけど…」
「おおー…そいつは嬉しいな!」
「えへへ!朝一番に一人で作りに出てくるから、帰ってから渡すね?
その後でライさん達の教会に行くから」
「分かった!じゃあ今夜はこの辺にしてみんな部屋に戻って寝るか」
みんな「お休みなさい~」
両親とレダ、それぞれが自分の泊まる部屋に戻る前にレダが立ち止まる。
「ルーナ、よかったら一緒に寝よ⁉︎ついでにどんな結界をはれるのかちょっと聞いてみたいし」
「うん良いよ~」
俺はルーナが入っている空間をレダに渡した。
「じゃあお兄ちゃん、お休みなさい~」
「おやすみ~」
「ああ、おやすみ二人とも」
俺達はそれぞれの部屋で別々な事をして一晩を楽しく過ごし、そのまま眠りについた。
翌朝、俺は目を覚ますと早速一人で都市を出て、開けた所で手頃な木の伐採と近くにいたファングラビットを数体倒してから素材と魔石を回収した。
そしてその場で途中仕上げのままだったお父さん用の弓を作るため、先程切った木の切り株を作業台にし、製作に取りかかる。
弦の代わりになる細い所は、先日少し倒していたウッドソルジャーの根っこに絡み付いていた、細くて頑丈なツルを使うことにしたのだ。
「思いがけない形でちょうどいい素材を手に入れる事ができてラッキーだったよ…
もしまた弓を作る機会があったら、今度コロッポに会ったときにでもウッドソルジャーから根っこの先端にあるツルをもらっちゃおう!」
弓作りを楽しんでいる俺は、最初にイメージしていた通り、あらかじめ魔石をはめやすい形に整えていたくぼみを見て確認する。
「よし、後はこのちょうどいい大きさの魔石をナイフで少しずつ削って…と」
弓に加工していたくぼみに合う大きさに整えた魔石を、今度は研磨して丸くし寸法もぴったりになった事を判断してはめ込んだ。
「やった…完成だ!名付けて『マジックアロー』!」
これを作るのに相当苦労したから、出来上がった瞬間俺はとても嬉しかった!
「よし、じゃあそろそろゲラルドに戻るか!魔石の欠片は一応…『クリーンテッド』!」
魔石の欠片についた土汚れはきれいに除去する。
これならいざ必要って時に、何かの役に立つかもしれないし。
「あっ!ナルガス兄さんおはよう‼︎」
「ナルガス!朝から早いな」
「コルナにゴーフこそ!もしかして依頼から帰ったとこ?俺は武器の木材をメインで素材集めに行ってたんだけど」
「相変わらず色々作るね?そのうち私たちにも今度作って欲しいかな〜」
「ナルガスが作った武器、ぜったいすごそう!」
「ありがとう二人とも!もちろん木材で作れるものがあればできる限り良いものは作ってみるから」
「うん、期待してる!…さぁ行こうゴーフ!早く報告に戻らなきゃ」
「おお!」
二人とも、何やら慌てて走っていったけど何かあったんだろうか?まあ、他の子供達もいることだし彼らなら大抵は大丈夫だろう。
俺は深く気にしないで宿屋に戻ると、両親とレダが起きて食事をとっていた。
「「「おかえり~!」」」
「ナルガスおはよ~!」
「おはようルーナ、ただいまみんな!お父さんコレ!昨日言っていた弓で俺の自信作…マジックアローだよ!」
「おおー‼︎ありがとうナルガス…お父さんは嬉しいぞ~‼︎」
感謝の気持ちでお父さんはハグしてくれるのは嬉しいけど、なんか照れ臭いかな……って!イダダダダ⁉︎骨が、折れるぅ~!
「あなたあなた!力入れすぎナルガスが危険じゃないの‼︎」
「お父さんその辺にして~!」
「す、すまん」
「お、お父さんって…こんなに力、あったんだね?ゼェゼェ…」
「う、ううん違うの!実はその…ラルガさんとレアナさんがね?今朝ナルガスが出るのを見届けてからここにいる四人でライさん達がいる教会に行ってきて、少し修行してたの……」
「なんだって‼︎」
「そりゃ私たちだって強くなりたいから行ったんだもの!いつまでも子供達に守られてばかりで終わりたくないものなのよ?」
「そう言うことだナルガス!心配せずとも、俺達もあそこで十分修行はできてるから足を引っ張ることはそんなに無いと思うぞ」
「私も、ルーナと一緒にあの空間の中でこっそり強くなってみたよ?一緒に結界を張りながら協力して、あのカワイイ声で鳴くハニワちゃん達を倒しちゃうのは心がチクチクしたけれど…」
あれはなぁ…カワイイもの好きな女の子には厳しいかも知れない。
何だかんだ言って、みんなあそこを使うの気に入ったのか。
「みんなもあそこの環境に慣れて来そうな雰囲気だね!ルーナはもう、あそこがそのまま修行場に変わってしまっても大丈夫なの?」
「うん!この空間操作も、慣れてくると自分の好みの大きさまで変えられるから、なんかその方が楽かも!」
「そっか!それは良かったよ…となると、あの空間の出入り口を管理してるのはライさんとジルカさん、メルマさんがそれぞれ開く役になってるのか
後であの中で起きた事を報告しにいかなきゃ!」
「その事だけどねお兄ちゃん、私たちが入ったときは試しに一度私とお父さんでサーチとかオーラ視を使っては見たけど、全然見当たらなかったよ?」
「そうか…わざわざ見てくれてありがとう!とりあえず食べたら俺も行ってくるよ
あと……コルナとゴーフが慌ててギルドに報告しに走っていったぞ?」
「あのコルナが慌てて?絶対何かあったのかも…」
家族「??」
「ごめん!やっぱり私はコルナ達と会ってくる…
じゃあねレダ、ナルガス~!」
「う、うん!またね~」
「気を付けてなー……ルーナはどうしたんだろうな?じゃ、俺も行ってくるけどレダはどうする?」
「う~ん、なんかちょっと気になるし私もギルドを覗いて来ようかな?
またねお兄ちゃん!もらった杖をさっそく使っちゃおう!」
レダも、ルーナの後を追ってギルドへと向かって行った。
「今日は朝からみんな忙しいね……じゃあお父さんお母さん、ライさん所に行ってくる!」
「「行ってらっしゃい」」
「はーい!」
俺も宿屋を出発し、ライさん達がいるであろう教会へと足を運んで行ったら何やら大勢いるのか、中に入ると騒がしい話し声が聞こえ始める。
「ライ神官様!我々はどうすれば良いのですか?このゲラルドを出るしか無いのでしょうか…」
「わしらが長い間住んでいるこの国に恐ろしい怪物が近づいて来ているとギルドで聞きましたが、本当なのですか!」
「わ、我も詳しいことはまだわかりませぬ!今すぐ神に祈りお伺いをたてて来ます故、お待ち頂きたい…」
「何があったんだ?」
「おお…ナルガス坊っちゃん良いところに!ライ坊をなんとか援護してやってくれぬか?何やら、このゲラルドに巨大な魔物らしきものが近づいて来ているそうなのですじゃ‼︎」
「はぁ⁉︎何で今になって…」
「分かりませぬ…ワシも先程上空へと飛んで周りを見渡してきたのじゃが、それらしい姿はどこにも見当たらなかったのですじゃ」
「う~ん……ゼムノスは空間に入った俺を運んで上空には行けたりできない?」
「ワシが入るのでなければたいして構いませぬぞ?して、どうするんじゃ?」
「索敵用のスキルを広範囲に使ってみるよ…少しはなにか分かるかも知れない」
「かしこまりました…では一旦表へ」
早速俺は教会の外に出て、自らの周りを空間で囲み圧縮した。
「いやはや、ワシにはとうてい入ろうとは思えぬよ…あんな目にあった後ではのぅ?」
「それは自分の失態だからしょうがないよね?」
「ぐ、ぐぅの音も出ませんわい!では飛びますぞ?しっかり踏ん張っていて下され」
「おお!」
普段は、俺が両手で抱えられるくらいの小さな白銀色に染まっている龍のゼムノスだが、こうして俺を運んで飛ぶ姿を見るとなんか楽しくて胸がドキドキする。
こんな時にそんな事呑気な事を考えながら視線を前に向けると、一つ違和感を感じるものがあった。
「ゼムノス止まって!なんかいる…」
俺の言葉に従って止まるゼムノスに対して、分かりやすいように刀を抜き見てもらいたいところを指し示した。
「俺達のちょうど真正面から『違和感のある何かが』近づいて来ているんだ!オーラ視…いや、今は神眼だけど、それを使って見ると分かるんだよ」
「オ、オーラ視?…神眼ですと?ワシにはなんの事かさっぱりなのじゃが、真ん前におるのですな?」
「うん!ちょうど、俺たちが止まってる高さくらいはあるよ」
「ふむ…ワシ以外にも、そんな巨大な奴がおったという話は聞いた覚えはないのじゃがしばし待って下され?この大きさになったと言えど山二つ分程の距離ならば届くじゃろうて!スゥーー…」
「ーー‼︎」
俺は耳を閉じていても強く響くゼムノスの咆哮『ハウル』を聞き、耳を塞いだままその場で倒れ込んでしまった!
「ぅ、ぐ…」
思わず倒れたまま目も閉じた状態で呻き声を出しながら、それでも前の様子を見ようと片目だけ俺は開く。
すると目の前に、信じられないほど巨大な姿をした人間…もとい巨人が、まるで見えない幕でもかぶっていたかのようにその姿を現していたのだ!
「「なんだ(じゃ)あれー⁉︎」」
驚愕により、一瞬で両目を開いて凝視した俺はもちろん、ゼムノスすら驚いていた。
その巨人は服を着てはいない。見たところ男のような顔立ちではあるが、生殖器らしきものは存在していなかった。
それが敵意を持って、どんな仕組みかは知らないが奴は巨大な足音をたてながらこのゲラルドに向かって歩いてきていた!
「何!何なのあれ、ゼムノス⁉︎」
「ワシにも分からん‼︎この世界にあれほどの大きさをした人族がいたことなど無いぞ!」
そいつは俺たちが飛んでいる高さ…つまり南にある雪を被った高い山の中腹辺りの高さに匹敵する、本当の巨人だった!
「とと、とにかくゲラルドに戻ろう?みんなに早く伝えるんだ‼︎」
「かしこまりました!……む⁉︎」
なんと!目の前の巨人が俺たちに向けて人差し指をさしてくる……まさか、攻撃⁉︎
「ゼムノス、ごめん!」
俺は空間操作を解除して元に戻り、代わりにゼムノスを空間に閉じ込め下へと蹴り落とした!
「そんな⁉︎ナルガスぼっちゃま!坊っちゃま~‼︎」
「みんなにちゃんと伝えといてくれよ!ゼムノス」
俺も本当は怖くて仕方がないけれど、精一杯笑顔を向けて彼を思いきり下へと逃がした。
同時に、俺の落ちていくスピードに合わせるようにやつは指先から真っ白い炎弾らしきものを打ち出して来る!
「くっ…一か八かやってやる!空間操作・多重層!」
自分の周りを何層も重ね合わせた空間に身を包む。そしてバックラーを取りだし、しゃがみ姿勢で正面に構えたと同時にそれが直撃した!
「ーッ⁉︎」
巨大だったゼムノスの攻撃より、何倍も強い衝撃が空間にいる俺に強く伝わってくる。
そして俺はそのまま、自分の知る景色から遥か遠くへと飛ばされ続けて行った。
奴は俺の姿が見えなくなることに満足したのか、飛ばされ続けていく俺にも十分聞こえてくるほどの大声で高らかに笑い声を上げていた!
そして、まるで何事も無かったかのように奴は来た道を引き返し、そのまま見えないベールに包まれたように姿も足音も消えていった。
正体不明な巨人に吹き飛ばされ続けていくナルガスと、ナルガスによって空間に守られ下へと落ちていくゼムノス…
このあと、下に落ちていくゼムノスは都市上空からこの様子を全て眺めていたサラティに救われ、無事にゲラルドにたどり着いた。
皆が全員駆けつけてくるまで後悔の念を抱き、泣き続けていたという…
物語はだいぶ大詰めに近づいてきましたが、楽しんでいただけてますでしょうか?
次回、ナルガスの運命やいかに!
今度の投稿は明日の朝9時ですので、よろしければまた見にきてくださいね?
感想とささやかな評価を、お願いします〜!




