幽鬼
「あとはこの水を入れて、瓶に詰めれば…完成」
調合釜で何かを作るリック、空の瓶に緑色の怪しい液体が注がれる
草の匂いに包まれた(原因はリックの調合)部屋で出発まで時間を潰す、本来通るはずだった山道は山賊の拠点が出来ているらしく急遽予定変更で霊園を通ることになった
リックはそこに出るらしい幽霊用のオイルを作っている
「幽霊にこれが通じるのか?」
「幽霊じゃなくて幽鬼、幽霊はただの彷徨う魂だ人間を襲うのが幽鬼」
並んだオイルは5本、剣や近接武器を使う俺とケインとリック、エルザと橘
オイルか…銃に使えるか?
横に置いてあるUMPを取り弾丸に数滴たらし込める、窓の外に向けてトリガーを引くとボッと銃型のライターの様に銃口から火が出た
「うわ!水、水!」
「なにやってんだ!豊穣の水よかの者に槍となって穿て、ウォータースピア!」
桐生は早口で詠唱し小さい水を銃口にかけた。引火性が高いのか…銃には使えないな
この世界にはウエポンスキルと言うのがある、剣だと一閃切りや刃に火を纏わせた火炎切りなどの武器に力を宿すスキルだ
ただ、この世界には銃がない。要するに銃のウエポンスキルがない、エンチャント魔法などを付与できない
やはり自分の趣味を捨ててアサルトライフルぐらいの弾が必要か
アリサの力を制御さえすれば、いやもし暴走して歯止めが効かなくなったらまずい情報を得るまで力を使うのはよそう
幸いこの世界には強くなる方法は幾らでもある、霊薬を使いバフをかければ強くなれるだろう
「できるだけ幽鬼を殺さない様に。スペクターが出てくるとまずい、このオイルはあくまで幽鬼や低級のアンデッドにしか効かないからな」
アンデッドとは死んでいながらも生きている矛盾の存在、オイルや聖水なしでは太刀打ちできないし数が多い。
ここ数年人類の戦死率は高い未練を残した者が大半でアンデッドが増加の一途をたどっていてこちらの世界は埋葬が主流で幽霊が死体に取り付きスケルトンやゾンビ、グールになるのは多いが霊園からは出ないので放置されている
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荷物を持って馬車に乗り込むと何やら嫌な気配がする、咄嗟に後ろを振り向いても何もいない
そしてリック達が乗り込み馬車が走り出した、なんだろうな体が痛い関節の節々に何か破片の様なものが刺さる様な…
風で葉が触れ合う音しか聞こえない、その心地よい音に耳を傾けて時間を潰し数時間程たった
目を開けると周囲が暗くなっていく霧に包まれ視界が遮られている肌をなぞる風は生暖かく気色悪い、ナイフにオイルを垂らし幽鬼に警戒する
「来たぞ!!」
青白いものが近づいてきた、それが迫ると顔の輪郭がくっきり見えてきたただれた顔の部位と頬にできた傷から青い液体が垂れている
「ぎぇぁ!!!」
何を言っているか理解できない言葉と死に物狂いな形相、落ち着け怖くない奴らはオイルさえあれば怖くなんかない、幽鬼には触れられると接触した場所がどんどん腫れて幽死病と呼ばれる死体が人の形を保てなくなる病に侵され対処しなければ死に近づいていく
馬車に掴まり乗り込もうとする幽鬼にナイフを突き刺すと叫び離れる、その様に恐怖をおぼえ半狂乱でナイフを振り回していく
一突きすれば苦しみ離れていくがなにやらおかしい、霊園を抜けたはずなのに幽鬼の追跡は続く
「ケイン、太陽は出てるか?!」
「出てない…くそっ、木が光を防いでやがる」
幽鬼などの下位アンデッドは太陽の光を浴びると死滅するはずだが伸びた枝や葉のせいで光が防がれている
「神の慈悲の光よ死者の魂を静め我ら生者に導きの光を与えよ、ホーリースピア!」
レイナが杖を構え詠唱した
馬車に光がさしたかと思うとその光は収束していき槍の形となりまっすぐ飛んでいくと幽鬼達はその光で溶けていく
聖属性魔法、使えるものは宮廷直属の魔法使いでもなかなか居ないそんな魔法をしかもスピア
どう言う事だ?なぜ使える?必死に考えるも答えは才能があるぐらいしか思いつかない、あとで聞いてみるか
前の馬車が停まると俺たちの馬車も止まった、野営設備を下ろしている中俺とエルザなどのシーカーや盗賊達がここいらの安全を確認するよう指示されたので山中を歩く
「クレッシー、これ見て」
「ん?なにそれ?」
エルザが出したのは小さな丸い果実のようなもの、エルザは持っていたショートボウを持つと耳を傾けながら応えた
「鳥の糞、しかもこの感触だと結構大っきいし数も多い。今日は焼き鳥だよ」
「マジ?どこらへんにいるんだ?」
エルザはわからないと言いながら木に登り枝を調べた、何かを手に取ると見せた
「最近産んだ卵がある、近くに食べれる果物があるのかも。クレッシー匂いは?」
「うへぇ」と嫌々糞の匂いを嗅ぐとオレンジの匂いがする「オレンジだ」エルザは地面に降りて少し考えると斜面を降りだした
「山オレンジは下にある事が多いの、熟れて落ちたものが転がって下に種が埋まる事が多いから」
「へーよく知ってるな」
「お父さんに教えてもらったの騎士団の偵察部隊にいたからこういった事に詳しいんだ」
エルザの言う通り熟れたオレンジが生っている木を見つけた、探索を使うと5つの鳥が見える
「数は5、オレンジの木に隠れてるな。」
「わかった任せて」
弓を引いて呼吸を整えたエルザの姿が見えなくなった。いや実際には気配が消えた、大地と同化しているような感覚、息を吸うのも吐くのも大地の呼吸と同じ完全に一体化している
そんな中エルザは矢を放つ、風を切る音が聞こえるはずなのに聞こえない、聞こえた音は矢が鳥に刺さる音と鳥が落ちる音
それすらも気づいていない鳥達、5本の矢を射るとオレンジの木に向かった
「雄のキジが3匹とメスが2匹だね、帰って解体しよっか」
「解体できるのか?」
「うん、騎士学校で習ったし」
野営地に戻ると円状に5つ程のテントが張られていた、3つは冒険者のテントで他の2つは商人のテントであり
真ん中に焚き木と木で拵えたベンチがありそこに大半が集まっている
俺たちもそこに行きリック達の近くに座る、リーダーの冒険者が前に出て話を始めた
「諸君、我々の護衛は後8日。この後通る村は3つだがこれを通る道街道でファイアードラゴンとワイバーンの群れを見たと情報がある見つけても攻撃せず逃げる」
「質問いいっすか?」
1人の冒険者が手を挙げた
「ファイアードラゴンの種類についての情報はありますか?肉食だったらどうしても戦闘は避けられないですし、草食なら寝床に入らないようにしなくては」
へー、ドラゴンにも草食とかもあるのか…大抵のラノベやゲームなんかだと出会って速攻殺しにくるイメージだ
「だけどワイバーンとの群れか…となるとウェルドガースだろうな」
「そこらへんは村で情報収集を行う必要性がある」
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「すげぇ…」
解体用ナイフを持ったエルザは鳥に刃を滑らせテキパキと解体していく、肉を受け取ったリック達が木の枝で作った串に刺し火にかけていく
味付けは狼の骨でとった出汁と果実を合わせてできた焼肉のタレもどきだ
こう言ったクエストで料理を作っても他のパーティーには分けない仕来りがあるそうで俺たちだけで食べる
少し苦味があるがとてもうまく、エルナの肉料理とは違った質素な味だ
そんなこんなでクエスト開始から2日目が終わったのだった




