第十九話 迎えた開幕
開幕ですが今回では開幕しないです
「よし。全員いるな」
午後三時半。
放課後のステージライブに出演する人達が、一斉にひとつの教室に集められた。
林堂先生が教卓で真剣な眼差しで立っている。
「あと一時間もせずに放課後だ。開場は四時半から、開演は四十五分。終了予定は六時半」
時間の確認から、出演の順番。
そして、
「詩苑、八坂、伏見。お前らは個別で話すことがあるから、後で俺のとこにこい」
「はい」「分かりました」
そう言われ、俺と伏見は返事を、八坂はこくりと頷く。
「声楽部。演劇部。吹奏楽部。ダンス部。あとその他の関係者。俺の急な呼び掛けに応じてくれて本当に助かった。必ず成功させるぞ」
今回、協力に応じたのは林堂先生が言った四つの部。
そして生徒会と、俺達だ。
他にも、手芸部がグッズを作ってくれたり、料理研究部がホットスナックを作ってくれたりと、かなりの援助を得ている。
これも林堂先生の人望があるからなのだろうか。
「よし。確認は以上だ。みんな今日のために練習してきた。これが成功すれば、今後毎年恒例の行事になるかもしれない。そうなれば、俺も出世できるし、お前たちには期待しているぞ。全力で盛り上げて欲しい」
所々不純な言葉があった気もするが、この場にいる全員は林堂先生の言葉を聞いて、
「「「「はいっ!」」」」
とみんなで声を上げた。
「三人ともいるな?」
会議の後、俺達は林堂先生に言われた通り、空き教室に移動した。
「まず詩苑。お前がやることはわかってるな」
「わかってる」
「今の今まで紙のサイズがちゃんと決まらなくてすまなかった。やれるか?」
先程の会議で、やっと俺が絵を描く紙のサイズがわかった。
それは体育館のステージの壁に大きく飾られる程の大きさで、普通なら短時間で仕上げるどころか、一人で描くことすら出来ない大きさ。
それでも、俺は
「やります。やってやります」
真っ直ぐに林堂先生の目を見つめて言った。
「いい返事だ。だが、確実に一人では無理なでかさだ。だからまずは、下書きを画用紙に書け。それを元に、俺を含めた美術部全員でバカでかい紙に線を引く。色を塗るのはそれからだ。各所の色はお前が決めろ。いいな」
「分かりました」
「よし。次は伏見」
「はい」
「お前は声楽部として全力を尽くせ。少しでも詩苑の力になってやれ」
「任せてください」
「頼んだぞ。次、八坂」
【はい】
すると、林堂先生は八坂の目を見て、頷いた。
「その様子なら大丈夫そうだな。しっかり詩苑を支えてやってくれ」
八坂は力強く頷いた。
時刻は四時ちょうど。
刻々と、本番の時が迫っていた。
俺達は、林堂先生に連れられ、ステージ横の舞台袖にいた。
うちの学校の体育館はかなり大きいせいか、ステージも大きい。
そして舞台袖もかなり大きいので、壁一面に広がる画用紙も、余裕で広げられる広さがある。
私立ってやっぱり金あるなぁ・・・と思いつつ、俺は絵の構図を練っていた。
八坂は俺の隣で、俯きながら左手のひらに右手の人差し指で人の字を書いて、飲み込むということを繰り返していた。
それ本当に効果あるのか・・・?
「八坂」
俺が声をかけると、八坂はビクッと肩を震わせた。
「やっぱり、緊張してる・・・よな」
彼女は激しく頭を上下に振った。
「八坂なら大丈夫だよ」
ピタッと、八坂は動きを止めて、俺を見る。
「きっと大丈夫」
俺の言葉で落ち着いたのか、八坂は深く深呼吸をしてから、
【ありがとうございます】
とお礼を言った。
「いいんだよ。お互い様だからさ。俺も緊張してる」
ふと、時間が気になって壁にかけられた時計を見る。
まだ二十分か・・・
開場すらしていないというのに、こんなに緊張している。
胸の内は不安ばかりだ。
【あの】
「ん?」
八坂が突然周りをキョロキョロし始めた。
【伏見さんがいません・・・】
「え?」
そういえば、いつの間にか碧が居なくなっている。
こんな時に、あいつはどこに行ったんだ?
「トイレにでも行ってんじゃないか?」
・・・多分。
「ほ、ほんとにやるんですか!?」
「もちろん!」
声楽部の部室。
僕は気づけばそこに連行されていた。
「さすがにきついですよ!全校生徒いるんですよ!?」
椅子に座らされ、部員に身体を押さえつけられ、目の前でニタニタと嫌な笑顔をうかべる明日原先輩。
地獄かな?
「なんのために碧くんに服を買ったと思ってるの?今日この時のために買ったんだよ?着ないともったいないでしょ?」
「うっ・・・」
もったいないなんて言われると、確かにそうかもと思ってしまう。
「というか!碧くんがこれを着てくれないと困るの!」
「え?」
「私たちは女子だけで構成されてる部活だから、碧くんが男の子として出ちゃうと困るってこと」
篠田先輩が化粧品を持ちながら言う。
・・・なんで化粧品持ってるんですか?
「べべべ別にわざわざ女装する必要はないじゃないですか!女の子だけの部活なんて逆に変ですよ!」
「碧くん。残念だけど、どう足掻いても碧くんは女装しなきゃダメなの」
なんで!?
「林堂先生に相談したらね。面白そうだからやれって言われたのよ。だからごめんね伏見くん」
林堂先生が裏で手を回していた・・・だと・・・!?
「こんなの横暴ですよ!訴えてやりますからね!」
「終わったらすぐ脱いでいいからさ。ね?ちょっとだけだよ」
そう言いながら、明日原先輩と篠田先輩が、化粧品を手に近付いてくる。
「あ・・・あぁ・・・」
結局、僕は女装する羽目になりました。
「ん?なあ八坂」
【はい?】
開場五分前。
俺は舞台袖で絵の構想を練りつつ、視界の端に映った異様な人物に目を引かれた。
「あんな子いたか?」
俺が指をさしつつ言う。
その子は、薄暗い舞台袖だと言うのに、かなり目立つ銀の長い髪。
身長は高めで、周りに立っている女子よりも頭一つ分ほど大きい。
今まであんな人見た事ないぞ?
【あれは・・・】
八坂も驚いているのか、筆が止まっている。
ある程度校則が緩いうちの学校とはいえ、銀髪はさすがにまずいんじゃなかろうか。
どうしましょう・・・
まずいです。
非常に。
詩苑さんが・・・
女装した伏見さんを気にしています・・・
見間違えるはずありません・・・
あの銀髪のウィッグが合う人は伏見さんしかいません・・・
「もしかして知り合いか?」
ドキッです。
知り合いじゃないって言うと、嘘になっちゃいます。
でも、ここで知り合いって言ってしまえば、伏見さんが伏見さんだとバレてしまいます。
そうなれば、伏見さんのプライドはズタズタに・・・
嘘をつくのは好きじゃありませんが・・・仕方がないですよね・・・?
【私も、見たことがないです】
そうか。八坂も知らないか。
まあ、ここにいるってことは林堂先生公認だったりするんだろ。
俺はそうやって思考を自己完結させて、また絵の構想を練り始めた。
ここまで、大変だったな。
各部活を回って、どうにか企画を通すための署名を集めて。
ほかの先生達も味方につけて。
校長室に突貫してこの企画通してくださいって無理矢理企画書押し付けて。
あぁ・・・ほんと、今思えば首が飛んでてもおかしくなかったなぁ・・・
舞台袖のすぐ横。
用具室の壁にもたれかかりながら、今日までの俺の苦労を思い返す。
こんな舞台を用意してやったんだ。
あとはアイツが成功させるだけだ。
教え子の顔を思い浮かべ、もし失敗したらどんな仕打ちにしてやろうかと、我ながら教師とは思えない思考をする。
・・・なんてな。
本当は俺も緊張している。
詩苑がどんな絵を描くのか。
期待しつつ、不安もある。
「林堂先生」
「・・・なんだ」
突然、用具室に数人の生徒が入ってきた。
美術部の部員達だ。
「どうして俺達が鳴瀬の手伝いをしないとならないんですか」
「どうしてだと思う?」
こいつらは、詩苑の絵の才能に嫉妬して、揃いも揃って詩苑を卑下した馬鹿達だ。
だからこそ、俺はこいつらに詩苑の手伝いをさせることにした。
「林堂先生が鳴瀬のやつに肩入れしてるくらいは分かりますよ。でも、そんなのただのひいきじゃないですか。不平等ですよ」
そして、今俺に向かって中身のない意見だか抗議をしているやつが、その筆頭。
わざわざほかの部員をまとめてまで、一人を迫害するのになんの意味があるのか。
「不平等だ?お前がそれを言うのか?」
「・・・不平等ですよ。林堂先生は鳴瀬にだけ」
「黙れ」
「・・・っ」
「自分よりも絵が上手い。あれは才能。練習なんて必要ない。そんな勝手な理由でたった一人を複数人で囲んで追い詰めるようなやつが?不平等だって?」
一歩、目の前の馬鹿に向かって踏み出す。
「不平等なのはお前らだよ馬鹿野郎共」
悔しそうに、俯いて口をかみ締める男子生徒に、俺は続けて口を開く。
「才能だけでなんでも出来んなら、人生クソつまんねえだろうが」
「・・・え?」
「才能あるやつもないやつも関係ねえよ。お前らは自分が才能ないだとか思ってるかもしれないけどな。その考え方は馬鹿がする考え方だ。今まで努力してきたものが、ただ才能があるかないかの差だけで全部失われるのか?」
「それは・・・」
「そもそも、才能があっても努力しないやつは何やってもダメなんだよ。お前らは才能なんつーつまらねえもんを言い訳にして努力するのを諦めてるだけのアホなんだよ分かってんのか?」
「・・・俺らだって・・・」
「なんだよ?」
「俺らだって努力してますよ!どんなに頑張っても!それでも追いつけないなら誰だって諦めるに決まってるじゃないですか!」
「それが詩苑を追い詰める理由になってんのか?」
「・・・・・・」
「お前らはアイツがどんだけ努力してるのか知ってんのか?」
詩苑は、才能なんかで絵を描いているわけじゃない。
詩苑は、絵の楽しさに気付いて、ただ絵が描きたくて。
必死に、何度も、何度も、人に認められる絵なんかじゃない。自分が納得する絵が描けるまで。
頑張って、頑張って。
何回挫けそうになっても、諦めないで、絵を描き続けた。
詩苑は、努力に努力を重ねて。
自分で、自分自身で、絵を描いているんだ。
「そんなの、知ってるわけが」
「だったら黙ってお前も努力しろよ」
「っ」
俺は何をしてんだか・・・
たった一人の教え子のために。
こんなに怒ったのは初めてだ。
「・・・もういいだろ。お前らがどうしてもやりたくねえって言うなら、やるな」
「・・・」
俺は黙り込む生徒たちを置いて、用具室を出た。
そして、舞台袖に戻ったところで、詩苑が俺の前に立ちはだかった。
「どうした」
詩苑は神妙な面持ちで、静かに俺に向かって口を開いた。
「・・・俺のためか?」
「・・・どうだろうな」
右手で詩苑の肩を軽く叩いて、隣を通り過ぎる。
詩苑のため・・・?
違うさ。
俺は人の為に何か出来るような立派な人間じゃないさ。
「・・・」
分かってたさ。
あいつらが俺に協力するわけないって。
それでも、アンタは。
【シオンさん?】
「八坂・・・」
【何か、あったんですか?】
「・・・なんでもない」
「碧くん」
「あまり話しかけないでください。知り合いにバレたら一生の恥なんですから」
「ご、ごめんね。でも、これはちょっと伝えたくて」
「なんですか?」
「林堂先生の様子が少しおかしいの」
どういうこと?
「なんか・・・さっき美術部員がすっごく険しい顔つきで用具室からでてきたから。林堂先生が何か言ったのかなって」
「・・・僕ちょっと聞いてきます」
「えっ、碧くん?ちょっと!」
いてもたってもいられない。
僕はその気持ちでいっぱいだった。
「林堂先生」
「どうした伏見。もうすぐ開場だぞ」
林堂先生は、体育館の放送室にいた。
音声機器の最終確認をしていたんだろう。
「何があったんですか」
「・・・察しが良い奴は好きじゃないな」
「ここまで来て、場の空気凍りつかせるのやめてくださいよ・・・」
「俺はただ、教育が行き届いてない奴らを指導してただけだよ」
「・・・そーですか・・・で?どうするんですか?」
「大丈夫だ。あいつらはきっとやってくれるさ」
「なんですかその無責任な信用・・・」
「あれでも懲りないなら、退部にでもしてやるさ」
「本当に教師ですか・・・?」
「教師だよ。これでも」
「・・・詩苑はなんて言うでしょうね」
「あいつも頑固だからなぁ・・・」
林堂先生は、放送機器の電源スイッチをオンにしたりオフにしたりを繰り返しながらぼやいた。
「伏見」
「なんですか」
そして僕に向き直って、
「俺のわがままに付き合ってくれて、ありがとうな」
普段なら絶対に言わない、林堂先生らしくないことを言った。
それを聞いて、僕は、
「ふふっ・・・なんですかそれっ」
と苦笑して、放送室を後にした。
【あ、開場しましたね】
八坂の言葉を聞いて、体育館の入口に目を向ける。
ザワザワと生徒達の話す声が体育館中に広がると同時に、大量の生徒がステージの前に集まってきた。
「凄い人数だな」
改めて、ステージから見ると、圧巻だった。
全校生徒ってこんなに居たんだな。
【いよいよなんですね】
八坂は再び、手のひらに人の字を書いて飲み込む作業をし始めた。
「・・・そうだな」
さて、どうなることやら。
美術部の奴らはどうするのか。
俺は、それだけが気がかりだった。
続
色々詰め込みすぎて訳分からなくなっていませんか?
どうも鈴ほっぽです。
さて、色々と物事が始まったりしていますね。
次回は碧くんが頑張ったり八坂ちゃんが頑張ったり詩苑くんが頑張ったりします




