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私は悪くないにゃ

「私は悪くないにゃ」


昼だった。


開口一番、私はそう宣言した。


セカイは本を読んでいた。


ページをめくる手が止まる。


「何があったの」


「まずその質問がおかしいにゃ」


「そう?」


「私が悪い前提にゃ」


「まだ何も言ってないよ」


確かに。


だが油断は禁物である。


世の中には言わなくても伝わることがある。


主に私が怒られる時だ。


「それで?」


セカイが聞く。


私はテーブルの上に置かれた皿を指差した。


「割れたにゃ」


皿だった。


見事に割れていた。


二つに。


いや三つだった。


よく見ると四つかもしれない。


「なるほど」


「私は悪くないにゃ」


「どうして?」


私は胸を張った。


説明できる。


今回は説明できる。


「まず皿があったにゃ」


「うん」


「私が持ったにゃ」


「うん」


「落ちたにゃ」


「うん」


「つまり重力が悪いにゃ」


「なるほど」


セカイは頷いた。


分かってくれたらしい。


良かった。


話の分かる男である。


「じゃあ君は悪いね」


「解せぬにゃ」


裏切られた。


私は傷ついた。


少しだけ。


「重力に罪はないよ」


「あるにゃ」


「ないよ」


「私よりあるにゃ」


「それもないよ」


難しい話だった。


私はソファに沈み込む。


現実は厳しい。


「わざとじゃないにゃ」


「それは知ってる」


「事故にゃ」


「そうだね」


「なら許されるべきにゃ」


「もう怒ってないよ」


私は考えた。


確かに怒られていない。


不思議である。


普通こういう時は怒られるものではないだろうか。


「怒らないにゃ?」


「わざとじゃないし」


「優しいにゃ」


「次から気をつけて」


「難しい注文にゃ」


「皿を持つだけだよ」


私は再び考えた。


皿を持つ。


落とさない。


簡単そうに聞こえる。


しかし実際にやると難しい。


世の中にはそういうものが多い。


「私は繊細にゃ」


「そうかな」


「だから皿も繊細だったにゃ」


「関係ある?」


「たぶんないにゃ」


話がまとまらなくなってきた。


私はお茶を飲んだ。


美味しい。


「セカイ」


「なに?」


「新しい皿買うにゃ?」


「買うよ」


「高いにゃ?」


「そんなに」


私は少し申し訳なくなった。


少しだけ。


本当に少しだけ。


「ごめんにゃ」


セカイが目を丸くした。


失礼である。


私だって謝る。


年に数回くらいは。


「うん」


「うん?」


「謝れて偉いね」


私は満足した。


悪くない。


かなり悪くない。


「つまり今回は引き分けにゃ」


「君が負けてると思う」


「解せぬにゃ」


私は首を振った。


世の中には納得できないことが多い。


だが。


「セカイ」


「なに?」


「お腹空いたにゃ」


「知ってる」


「ご飯まだかにゃ」


「もうすぐ」


それなら良い。


私はソファに寝転がった。


皿は割れた。


怒られたわけでもない。


ご飯も出てくる。


そう考えると。


今日は割と良い日かもしれなかった。


もちろん。


皿が悪い可能性も捨ててはいない。

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