外に出たくないにゃ
「外に出たくないにゃ」
私はカーテンの隙間から外を見ながら言った。
青空だった。
良い天気だった。
だからこそ出たくない。
「なんで?」
セカイが聞く。
「人がいるにゃ」
「そうだね」
「外だにゃ」
「そうだね」
「疲れるにゃ」
「まだ出てないよ」
私は黙った。
鋭い指摘だった。
だが。
出る前から疲れることもある。
これは経験者にしか分からない。
「買い物行くんじゃなかったの?」
「昨日行ったにゃ」
「三日前だよ」
「体感では昨日にゃ」
「便利だね」
「便利にゃ」
私はソファに沈んだ。
平和だった。
家の中は安全である。
椅子もある。
お茶もある。
セカイもいる。
完璧だった。
「外に出る理由がないにゃ」
「牛乳ないよ」
私は固まった。
重大問題だった。
かなり重大問題だった。
「本当に?」
「本当に」
「一滴も?」
「一滴も」
私は天井を見上げた。
人生は時として残酷である。
「牛乳が歩いて来ないかにゃ」
「来ないね」
「進化してほしいにゃ」
「無理だと思う」
そうだろうか。
世の中にはロボット掃除機もある。
自動販売機もある。
なら牛乳くらい歩いてもいいのではないだろうか。
私は真剣に考えた。
三十秒ほど。
「セカイ」
「なに?」
「買ってきて」
「嫌」
「ケチにゃ」
「昨日も聞いた」
覚えていた。
記憶力が良い男である。
困った。
「恋人に優しくするべきにゃ」
「君も優しくして」
「してるにゃ」
「どこが?」
私は考えた。
難しい質問だった。
非常に難しい。
「……」
「……」
「いっぱい喋ってるにゃ」
「それ優しさかな」
「たぶんにゃ」
セカイが笑った。
また笑われた。
解せぬ。
私はクッションを抱きしめる。
そして窓を見る。
外は明るかった。
鳥が飛んでいる。
自由そうで羨ましい。
「鳥になりたいにゃ」
「牛乳買いに行く?」
「嫌にゃ」
「じゃあ鳥にもなれないね」
厳しい世界だった。
セカイだけに。
私は立ち上がった。
嫌々ながら。
本当に嫌々ながら。
「行くにゃ」
「偉い」
「褒めるのが早いにゃ」
「まだ玄関にも行ってないよ」
「未来の私が偉いにゃ」
「そうだね」
私は満足した。
理解のある恋人である。
たぶん。
玄関へ向かう。
靴を履く。
ドアノブを握る。
そして止まる。
「どうしたの?」
「やっぱり嫌にゃ」
「知ってた」
即答だった。
失礼である。
しかし否定もできない。
私はため息をついた。
そして。
「牛乳のために頑張るにゃ」
「うん」
「褒める準備をしておくにゃ」
「分かった」
「いっぱいにゃ」
「分かったよ」
それなら悪くない。
私はようやくドアを開けた。
外は面倒くさい。
でも牛乳は欲しい。
人生とは、そういう戦いの連続なのかもしれなかった。
たぶん。




