買い物に行きたくないにゃ
「買い物に行ってきて」
朝だった。
私はベッドの上で毛布に包まりながら聞かなかったことにした。
「聞こえてる?」
聞こえている。
聞こえているが。
聞こえたからといって返事をする義務はない。
「……」
「聞こえてるね」
バレていた。
解せぬ。
私は毛布から顔だけ出した。
「行きたくないにゃ」
「なんで?」
「外に出るの面倒にゃ」
「そう」
「暑いにゃ」
「まだ朝だよ」
「朝でも暑いにゃ」
「今日は涼しいけど」
「気分の問題にゃ」
セカイはコーヒーを飲んでいた。
余裕そうである。
気に入らない。
「代わりに行ってきてほしいにゃ」
「昨日行ったよ」
「今日も行くにゃ」
「嫌」
「ケチにゃ」
「そう」
強敵である。
私は起き上がった。
偉い。
すでに偉い。
今日はもう頑張ったと言ってもいい。
「褒めるにゃ」
「起きて偉い」
「もっと」
「着替えて偉い」
「まだ着替えてないにゃ」
「これから着替えるでしょ」
「未来の私が偉いにゃ」
「そうだね」
未来の私は優秀である。
現在の私は眠い。
私はソファへ移動した。
これだけで疲れた。
休憩が必要である。
「何してるの」
「休憩にゃ」
「何の」
「移動の」
「三歩くらいだったよね」
「長旅だったにゃ」
セカイは笑っていた。
失礼である。
私は真面目だ。
たぶん。
「買い物行きたくないにゃ」
「冷蔵庫空っぽだよ」
「昨日まで入ってたにゃ」
「食べたからね」
「誰が」
「君が」
思い当たる節しかなかった。
私は黙った。
これは不利な流れである。
話題を変えるべきだ。
「ところでにゃ」
「うん」
「人類はなぜ買い物をするにゃ?」
「食べるため」
「畑を作ればいいにゃ」
「君がやる?」
「買い物に行くにゃ」
話が終わった。
畑は大変そうだった。
買い物の方がまだ楽である。
私は渋々立ち上がった。
財布を持つ。
エコバッグを持つ。
ここまでやった。
十分ではないだろうか。
「行ってきたことにならないかにゃ」
「ならないね」
「解せぬにゃ」
「いってらっしゃい」
「いってくるにゃ……」
玄関を出る。
扉を閉める。
静かだった。
私は数秒考えた。
そして。
扉を開けた。
「忘れ物?」
とセカイ。
「応援が足りないにゃ」
「頑張って」
「雑にゃ」
「頑張って」
「二回言ったにゃ」
「いってらっしゃい」
私は満足した。
少しだけ。
本当に少しだけ。
「仕方ないにゃ」
そう呟いて玄関を出る。
買い物は面倒くさい。
外も面倒くさい。
人生も面倒くさい。
でも帰ったらご飯がある。
それだけは悪くないと思った。




