追放と復讐の暗黒騎士 その1
「これで、よかったのか?」
女聖騎士の死体を改めて確認し、俺は魔王の娘に問いかけた。
確かに剣で胸から腹にかけてを縦に大きく切り裂かれている。
出血も酷いし、生きている筈がない。
「これで、じゃない。これから、だよ」
そういって、魔王の娘は女聖騎士の死体のそばに行く。
そして、何やら手をかざして魔法をかける素振りを見せた。
死体が闇に包まれたが、何をしているのだろうか?
生き返りの魔法なんてものが存在するとも思えないしな。
いや、魔界には地上には無い転移の魔法が存在しているし、もしかしたら……?
「これでよし……っと」
女聖騎士の死体を覆っていた闇が晴れる。
すると、死体だったその体には魔王の娘に斬られた筈の傷が無い。
それどころか、身に着けていた服も無くなっていて、生まれたままの姿だ。
「まさか、生き返ったのか?」
「ううん、傷んでいた体を修復しただけ。生き返らせる……いいえ、生まれ変わらせるのはこれから」
魔王の娘は、地面に寝かされた状態の女聖騎士に口付けを行う。
顔近くの地面にしゃがみ、そのまま身をかがめる体勢だ。
そして、続けて心臓近くの左胸にも同じ様に口付けを行う。
すると、左胸に何やら紋章が浮かび上がり、それが入れ墨の様な形で女聖騎士の左胸に刻印された。
「そんなに見つめてどうしたの? 彼女の裸が気になる? もう、エッチなんだから」
「そうじゃない。さっきから色々起こり過ぎて整理が追い付かないんだ」
「ふーん。でも、折角のチャンスなんだし少しくらい興味を示してもいいんじゃないかな?」
「女の裸には興味ある。だが、ついさっきまで腹を切り裂かれて死んだ女の死体を見ていたんだ。今はそんな気分になれない」
裸の死体を見て興奮とかどんな変態だよ!?
いや、今はもう生き返っているのか……?
「それじゃあ、この体をとりあえずドワーフさんのところまで運ぶから手伝って」
「運ぶって、どうやって?」
「丁度そこにいいものがあるじゃない」
そういって、魔王の娘は棺桶を指差す。
「勇者の死体は残念だけどまた今度。これに入れて運んで」
俺は魔王の娘に言われるがままに、女聖騎士の体を棺桶に入れる。
体を持ち上げる時に胸近くに手が触れると、心臓の鼓動が伝わって来た。
……本当に生き返ったのか。
女聖騎士が生き返った事を自覚したと同時に、その裸体に触れている事が何だか急に恥ずかしくなった。
俺と魔王の娘は、女聖騎士の裸体が入った棺桶を引きずりながら、ダンジョン管理者用の通路を歩く。
ここから更に昇降機で移動して、ドワーフたちのところまで運べばそれで終了だ。
「ところで、何でドワーフのところに運ぶんだ?」
「目を覚ますまでに時間がかかるってのもあるけど、新しい服とか用意しなきゃいけないしさ」
「それなら、うちに運んだ方が良くないか?」
「ドワーフさんたちのところに運ばなきゃいけない理由は、彼女が目を覚ますまでヒ・ミ・ツ」
──何を勿体ぶっているんだ?
「それから、女聖騎士ライト・ヌームは今回のミッションに失敗して死んだ事にして。私たち二人を逃がすために犠牲になったとか適当に理由を付けて」
「……何故だ? 今さっき生き返ったんじゃないのか?」
「それも、彼女が目覚めた時のお・た・の・し・み」
勿体ぶりやがって。
説明するのが面倒なだけだといいが、まさかヤバい事になっているんじゃないよな?
──いや、女聖騎士に色々バレて一度殺してしまった時点で充分ヤバい事になっているか。
「それにしても、まさか人間を生き返らせる方法があるとは思わなかったよ。エイラムさんが女聖騎士を殺した時はどうしようかと思ったのに」
「うん、地上には無い魔法が魔界には沢山あるから。それが原因で私たちの先祖は大昔に地上から地底に移住したらしいし」
魔界の住人、つまり魔族たちが大昔は地上にいた!?
それは初耳だ。
「大昔は人間と魔族が共存したのか?」
「ううん、ちょっと違うかな? 大昔に編み出された魔法の一つを使って人間を太陽無しで生きられる体に改造したのが、私たち魔族の御先祖様なんだよ」
「それって、つまり……」
「魔族も元は人間って事」
そんな……。
いや、確かに魔王の娘は見た目人間と相違無いし、食べ物とかを含めた地上の生活にも簡単に順応していたが。
同じ人間ならそれも当然か。
「ところで、魔族は何で地底に移住なんかしたんだ?」
「私も本当のところは知らないけど、強過ぎる魔法を封印するためとか、魔法が凶悪過ぎて地底に追放されたとか色んな説があるかな?」
「それじゃあ、今になって魔族が地上に出てきたのは、もしかして大昔の復讐のためなのか?」
「ううん、違うよ。昔は地上に出たらいけないってルールがあったんだけど、お父様が魔王になった時に古臭い習慣は捨てて地上に出ようって事になっただけ」
──よかった。
これで、大昔の復讐で魔王が地上の人間を滅ぼすとかだったらどうしようかと思ったぞ。
「だけど、ドワーフさんたちはエルフへの復讐が目的だし、目を覚ました元女聖騎士も、きっと……」
「? 女聖騎士がどうかしたのか?」
「彼女が目を覚ました時に分かるし、私から説明する事じゃないかな?」
そう言われるとすごく気になる。
だが、魔王の娘にそれを教える気は微塵も無さそうだ。
今は……大人しく待つしかないか。
「目が覚めたら、彼女の事、可愛がってあげてね」




