魔王の娘と女聖騎士 その5
「ちょっと! 今までの話ちゃんと聞いてた?」
「黙れ! 例え勝ち目が無くても戦わなければいけない時があるのです!」
女聖騎士の言う通り、勝ち目は微塵も無い。
それは、魔王の娘の強さを間近で見た俺にはよく分かる。
「私たちが戦って一体何になるの? こんなところで犬死にとか駄目だって」
「ええい、覚悟!」
女聖騎士が剣を抜き、魔王の娘に斬りかかった。
そして、魔王の娘もまた剣を抜き、女聖騎士の斬撃をそれで受け止める。
剣と剣が交わり、互いに硬直した状態になった。
エルフの魔法により、女聖騎士の木剣は光り輝く聖剣へと変化している。
これまでの修行の賜物なのか、以前より格段にパワーアップしている様だ。
しかし、以前見た勇者が使うそれの強さには程遠い。
一方の魔王の娘が抜いたのは、黒曜石で作られた漆黒の剣だ。
だが、その刀身は漆黒の炎に包まれてはいなかった。
剣には魔法がかかっておらず、魔王の娘が明らかに手を抜いているのが分かる。
「私、まだ全然本気を出していないんだよ? 今だって軽く受け止めているだけなの、分かるでしょ?」
「それでも! 私は、大切なものを守るために戦わなければならないッ!」
女聖騎士が剣を大きく振って乱暴に魔王の娘の剣にぶつける。
キィーン! と鈍く甲高い音が響く。
だが、エルフの魔法で強化された剣も、ドワーフの技術で作られた剣も壊れる事はなかった。
「守るって、その程度の力じゃ何一つ守れないって。冷静に考えてよ」
「黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れッ!」
連続して女聖騎士が剣を振り回し、それを魔王の娘が受け止め続ける。
全力で向かっている女聖騎士に対して、魔王の娘は顔つきこそ冷静であれど体力を消耗している様子はまったくない。
やがて、体力を使い果たした女聖騎士は息を切らしながら攻撃を止めた。
「満足した?」
「はぁ……はぁ……この程度で諦めるわけには、はぁ……はぁ……」
「呆れた。私たちの側に来る事の何が不満なの?」
「そう言いながら、私たちの事を無理やり支配するのでしょう? はぁ……はぁ……」
「確かに、お父様の下で統治はするけど、変に逆らわない限り無理やり支配したりはしないって。この町の現状みたいに基本は自主性に任せたいし」
「だったら、何でアイス殿をあんな風にしたのですか!!」
女聖騎士は怒りの感情を込めてその言葉を放った。
俺自身も、今更契約とかで縛られるのはどうも腑に落ちなかったが、気にはしていない。
だから、そんな事で怒らずに剣を納めてほしいと切に願う。
だが、その言葉に対して魔王の娘は驚いた様子こそ無かったものの、急に言葉に詰まった様な素振りを見せる。
そして、先程からずっと怒り心頭な女聖騎士の前でありながら、何だか恥ずかしそうに答えた。
「だって、だって、たまにはアイスくんにも積極的に迫って来てほしかったんだもん!」
「……は?」
「だって、さっきみたいに自分から私にキスしたりとかしてくれないんだもん。私は政略結婚の相手なんだよ? 少しは意識して色々してくれてもいいのに、キスの1つくらいおねだりしてきてもいいのに、何にもしてこないんだもん。仕方ないじゃん」
「ふ、ふざけるなあーー!!」
女聖騎士が怒りの声を上げ、再び魔王の娘に斬りかかった。
いや、ふざけるなと言いたいのはこっちだよ。
俺が何したって……いや、何もしなかったから何だって言うんだよ……。
「もしかして、貴女もそんなにアイスくんの事が好きだったの?」
「違う! そんなのじゃない! 私はそんな淫らな気持ちでなど!」
「だったら、怒らなくてもいいじゃない!」
「黙れ黙れ黙れッ!」
女聖騎士が先程と同じ様に剣を振り回している。
始めは魔王の娘もまた先程と同じく自分の剣で女聖騎士の剣を受け止めていた。
しかし、今度は魔王の娘が黒曜石の剣で女聖騎士に反撃し始める。
「何? そんなに必死になって。やっぱりアイスくんの事、好きなんじゃない!」
「違う違う違う違う! 私は……」
魔王の娘が剣で女聖騎士を押す。
「違わないじゃん! 私に仕えてくれるなら貴女にもアイスくんを好きにさせてあげるって言ったでしょ?」
「ふざけるな! そんな事は許されないし、許すつもりもない!」
女聖騎士が必死に剣で押し戻そうとする。
しかし、それは叶わず魔王の娘に押されて、どんどん後退してしまう。
「強情! もっと自分の欲望に素直になりなさい!」
「違う! 私は、そんな事、望んでない!」
「違わない!!」
魔王の娘の剣が漆黒の炎に包まれる。
そして、その剣を女聖騎士目掛けて大きく振りかぶった。
女聖騎士は魔王の娘が放つ斬撃を自分が手に持つ聖剣で受け止めようとする。
しかし、魔王の娘の本気の攻撃に耐えられず筈がなかった。
エルフの魔法の力が足りなかった聖剣は折れ、女聖騎士はそのまま黒曜石の剣で斬りつけられる。
胸の方に装備された軽鎧の前が真っ二つに割れ、そこに勢いよく剣先が入った。
凄まじい血しぶきを上げ、女聖騎士はそのまま後ろに倒れてしまう。
「女聖騎士……いいえ、ライト・ヌーム。貴女が私に勝てるわけ無いじゃない……」




