魔王の娘と女聖騎士 その1
聖騎士団は、女聖騎士が持ち帰った勇者の剣を見て、勇者の死亡を承認する事にしたらしい。
本来ならば勇者の死体を確認するのが筋だろう。
だが、聖騎士団はその手間を拒んだ。
中央からこの田舎町に出向く苦労に加え、勇者が殺される程の危険な場所に怖気着いてしまったようだ。
「まったく、聖騎士団はとんだ腰抜けの集まりじゃない! こんなのを警戒していたなんて」
俺からの報告を聞いた魔王の娘が呆れている。
エルフがバックに付いている組織なので、当然ながら敵対すると思っていたのだろう。
それが、戦わずして事実上の勝利なのだから拍子抜けという訳だ。
だが、俺は人間として聖騎士団に心底同情する。
恐らく彼らが想定する最大戦力があの勇者だったのだろう。
それが、こうもあっさり殺られたとなれば絶望する他ない。
「女聖騎士ですら頑張って第九階層に到達したのに、他の団員はどうなってるの!?」
それを言われてしまうと聖騎士団も痛いだろうな。
女聖騎士がこの町に左遷された理由こそ知らないが、民のために頑張る彼女が疎ましかったであろう事は容易に想像できる。
「これなら、私たちで攻め落とせばこの国は簡単に手に入るんじゃない?」
「おいおい、物騒な事は言わないでくれよ」
「半分本気だよ? でも、お父様がそういうのはまだ望んでいないからやらないけど」
魔王がまだ望んでいない……か。
だが何時かは、国の中央も魔王の手に堕ちて支配されてしまうのだろうな。
この町の様に。
「それはそうと、困った事に他の冒険者が第九階層に行こうとしないの」
「いや、第九階層どころか第八階層に到達した冒険者すら殆どいないんだが」
「そうなんだけど、勇者の事で冒険者もビビっちゃってるみたいなの」
魔王の娘はそう言うが、第八階層で手に入るアイテムを売るだけで十分稼げるからなあ。
最近、武器屋の店主と話した時も第八階層の武器を欲している様子だった。
中央に高く売れるので是非とも仕入れたいと。
それに加えて第九階層が特別危険だと知れ渡ってしまったからな。
冒険者の最終目標地点は自然と第八階層になってしまうわけだ。
だが、魔王の娘的にそれでは困ると言うことらしい。
「うーん、やっぱり勇者の死体が残っているのが不味いのかな?」
「今になってアレを地上に持って帰るのか?」
「そうだけど、裏口から持ち出すとかじゃなく、ちゃんと持ち帰ってそこまで危険じゃない事をアピールしなきゃ」
はぁ……面倒だ。
流石に、あの傷み始めた死体を直接背負うのは嫌だし、かと言って袋に詰めて運ぶなんてぞんざいな事はできない。
予め棺桶でも用意して、それに死体を入れて丁重に運ぶ他無さそうだな。
殺害現場まで棺桶を引きずって持って行き、それを地上まで運ぶとか……考えたくもない。
「しかし、そもそも死体が無くなったくらいで変わる流れなのか?」
「それだけじゃあ変わらないんじゃない?」
「……は?」
「問題なのは、女聖騎士が死体を放置するくらい危険な場所って事なんだよ。だから、意地でも女聖騎士に勇者の死体を持ち帰らせなきゃ」
……そういう事か。
「つまり、俺たち三人で持ち帰らなきゃいけないって事か」
「うん、でも死体の運搬はアイスくんの担当だからよろしく」
仕方ないなあ……じゃねーよ!
だが、文句を言ったところで仕方がない。
前後に一人ずつ配置して運搬役を守らなければ危ないからな。
「そういう事だから、後の準備はやっといてね、アイスくん」
「分かったよ。女聖騎士の説得と死体を運ぶ棺桶の用意が済んだら知らせる」
やるしか無い……か。
しかし、よく考えたら女聖騎士の説得の方が大変かもしれないな。
勇者を殺したモンスターという、実際には存在しないものを恐れて死体を放置したのは彼女だし。
気が進まないまま、俺は女聖騎士の部屋を訪ねる。
ノックをして部屋に入ると、何時もならば本を読んでいる女聖騎士が、何だか放心した状態でぼーっとしていた。
勇者の死亡報告なんかの諸々の手続きで疲れているのだろうか?
「あのー? お話宜しいでしょうか?」
「えっ!? あっ、はい。どうぞ」
心ここにあらず……と言った感じだな。
やはり疲れている様だ。
魔王の娘には悪いが、日を改めるべきか?
「お疲れなのでしょうか? そんな時に無理をさせる程の事ではないので、また日を改めようかと」
「い、いえ。疲れているわけじゃないのです。ただ、ちょっと考え事をしていただけですので、どうぞ話してください」
「そう仰るなら話しますが、本当に無理はなさらないでくださいね」
「はい、お願いします」
気が進まないが仕方がない、話すか。
「それでは──実は、ダンジョン内に放置されている勇者の死体の事なんですが、やはり回収した方がいいかと思ってご相談をと」
「よかった。丁度その事を私も考えていたのです。アイス殿とエイラムさんが大丈夫なら、是非手伝ってほしいと」
これは意外だ。
だったら話が早いな。
「ええ、喜んで。既にエイラムさんには話を通してありますし、後は死体を入れて運ぶ棺桶の用意が完了すれば何時でも行けます」
「棺桶ですか。それなら、私が運びますのでアイス殿とエイラムさんには護衛をお願いします」
「ライト様がそれを望まれるならば、私からは何も……」
マジか!?
死体を運ぶ役が一番大変だと思っていたが、まさか聖騎士様が自ら進んでやってくれるとは。
しかし、何時もなら自分が前に出て戦おうとする女聖騎士が護衛を依頼するなんて珍しいな。
だが、その気まぐれのおかげで今回の件はすんなり片付きそうだ。




