聖騎士と勇者殺しの調査 その4
次の日から、女聖騎士は俺と魔王の娘の三人でダンジョンに潜る事になった。
行方不明になった勇者の捜索という名目でだ。
俺たち三人がダンジョンの正門を通ると、そこを守る衛兵たちがどよめく。
「まさか、勇者がダンジョン内にいるとはなあ」
「いや、どう考えても生きてる筈がないだろ。探すのは勇者の死体で、目的は死亡確認ってとこか?」
「それにしても、町長の息子ともう一人は大丈夫なのか?」
「知らないのか? 俺たちの装備を聖騎士様と一緒にダンジョンから集めたのはあの二人だぞ」
「あいつ、そんなに強かったのかよ!」
──色々と無理がある話だからな。
衛兵たちにも思うところがあるのも致し方ない。
女聖騎士こそダンジョン内に勇者がいるかもと言い包めたが、他の衛兵はそうではない。
だが、衛兵たちに納得のいく説明をするメリットは無いので、逐一説明するだけ時間の無駄だ。
最終的にダンジョン内に眠る勇者の死体を女聖騎士に発見させれば、彼らも納得するからな。
そして、俺がそこそこ強いのは町長の息子としての意地で修行したからに過ぎない。
実力も元々自警団だった衛兵の連中と大して変わらないが、装備のおかげでかなり強くなっている。
いや、この前の装備集めで俺も多少は鍛えらていて、更に強くなっているかもだ。
「それでは、今日からまたよろしくお願いします」
「ダンジョンの第九階層まで行きますのね!」
「い、いえ。まだ、勇者がそこにいると決まったわけでは。それに、いきなりそんな深い場所に行ってしまったら、私の身が持ちません」
「大丈夫ですわ。聖騎士様ならばきっと行けますわ」
「ほ、ほら。勇者もダンジョンの第八階層まで行って生還した実績がありますし、いるとすれば第八階層より下層ではないかと」
相変わらず急ぎ過ぎだ。
女聖騎士はまだ第九階層に勇者の死体がある事を知らないんだし。
あまり急がせると怪しまれる。
いや、魔王の娘からすれば、さっさと女聖騎士をこちら側に引き込みたいのかもしれないが……。
だが、今は時期ではない。
「とにかく、しばらくは第六階層で修行しましょう。まず、そこのモンスターと戦えるようにならないと、第九階層なんてとても無理ですから」
女聖騎士もそうだが、ぶっちゃけ俺も第九階層のモンスターを相手にするのは不安だ。
こっちには魔王の娘がついているので全滅するという事は無いと思う。
しかし、自分が敵わなそうな相手がうじゃうじゃいる場所には、できれば行きたくない。
「アイス殿の言う通り、まずは第六階層を探したいと思います。修行もいいですが、元の目的は勇者の捜索。勇者を念入りに探しながら徐々に下の階層に降りて行きましょう」
こうして、今日から俺たちは第六階層から日数をかけて勇者の死体がある第九階層を目指す事になった。
ダンジョン探索を始めてから一週間が経過した。
実戦でダンジョンの強いモンスターと戦っているせいか、短期間でありながら成長を感じられる。
そして俺の成長とは違い、女聖騎士は以前に比べて武器の威力が上がっている気がした。
身体能力だけでなく魔法力が上がった結果なのか、エルフの魔法で強化している聖騎士の武器も強くなったのかもしれない。
「驚きました。私の武器では第五階層のモンスターが限界だと思っていたのに、今では第六階層のモンスターも何とか倒せます」
「聖騎士様は経験を積む事で武器そのものも強くなるのかもですね」
「いえ、きっとそうです。エルフの魔法が使えるかどうかこそ生まれ持った才能ですが、その魔法自体は魔法使い等と同様に経験を積まなければ強く離れませんから」
「そうですわ。もっと下の階層のモンスターと戦えば、もっともーっと強くなれますわ」
また、そうやって魔王の娘は下層へと移動したがる。
しかしまあ、このダンジョンの目的の一つが中に入った冒険者を鍛える事とか言っていたしなあ。
裏からダンジョンを操る者としては、その成果を確かめたいのかもしれない。
こうして、一ヶ月が経過した頃。
俺たちは第八階層まで到達していた。
進みが早いのは、どんなモンスターが出ても倒せてしまう魔王の娘が付いているのが大きいが、それだけではない。
通常の冒険者はダンジョンという異質な存在の不安さから、潜る度に精神が削がれていくので休養が必要になる。
しかし、俺たちはそんな事を気にせず毎日ダンジョンに入るので、そこで冒険者たちとの差が出てしまうのだ。
ダンジョンがある町の町長の息子である俺は、身近なものである上に魔王の娘が付いているという安心感から精神が削がれ難い。
一方の女聖騎士は、元より聖騎士としての任務でダンジョンに入っているので、頻繁に休むなどと言っていられない立場だ。
それ故に無理をしているのではと、時々心配になる事もある。
だが、以前に衛兵用の武器を集めていた時も大丈夫だったので、今回も多分大丈夫だろう。
魔王の娘に関しては言わずもがなである。
「次はいよいよ第九階層です。ここまで勇者は見つかりませんでしたが、彼がいる本命はここより下の階層です」
「時間が経過し過ぎていますし、見つかったとしても勇者はもう生きている状態ではないでしょうね」
「本音を言えば、できる事ならば不慮の事故で死んでいてほしいと願っていました。そうでないと、あの勇者を殺せる程の相手がこの先に待ち構えているという事になりますし」
成る程、そうとも考えられるのか。
事の顛末を知っている俺は勇者を殺した相手が誰かを知っているが、女聖騎士はそうではない。
勇者の強さを知っていればこそ、それを倒した得体の知れない相手に恐怖するのは当然というわけだ。
「大丈夫ですわ。聖騎士様も以前に比べて見違えるくらいに御強くなられましたわ」
「そう言ってくださる事には感謝しますが、私などまだまだです」
女聖騎士の言う通りだ。
確かに、今の女聖騎士の装備は第八階層のモンスターを相手にできる程に成長した。
この前なんかも、遭遇したドラゴン相手の攻撃を防ぎ、あの巨体にとどめの一撃を与えていたしな。
だが、あの勇者の圧倒的な強さには程遠いと、実際に見た俺だからこそ分かる。
「例え強力なモンスターがいたとしても、いざとなれば一時撤退すればいいだけの事です」
「そうですわ。独りぼっちの勇者と違って、私たちは三人なのですのよ。心配ご無用ですわ」
真相を知っているからこそ、俺と魔王の娘は無責任に勇気づけた。
ここまで来て、今更怖気づくなんてありえないからな。
第九階層は目の前だ。
そこに女聖騎士を連れて行き、勇者の死体を見せれば終わる。




