聖騎士と勇者殺しの調査 その3
魔王の娘に言われた通り、俺は女聖騎士をダンジョン探索に誘導しなければならない。
女聖騎士を説得するため、彼女が本日の務めを終えたタイミングで俺は彼女の部屋を訪ねた。
「先日話されていた勇者捜索の件ですが、ダンジョンを探してみるのはどうでしょうか」
「しかし、勇者は……」
「衛兵を避けてこっそり入ったかもしれないじゃないですか」
「確かに。前に一人でダンジョンに入ったとの噂を聞いた時には私が軽く叱りましたので、ありえるかもです」
こいつはいい。
勇者がこっそりダンジョンに入る理由が無いのが懸念材料だったからな。
まさか、生前自分からその理由を作ってくれたとはありがたい。
「これだけ町中を探して見つからないのです。となると、後はダンジョンの奥深くくらいしかありませんよ」
「言われてみれば、確かにそうですが……」
「ダンジョンの深層を探索しなければいけないとなれば、捜索が難航かつ遅れている理由にもなりますし」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ、勇者がダンジョン内にいると決まったわけでは!?」
生真面目な女聖騎士はそんなに簡単には折れてくれない。
だが手ごたえはあるので、あと少し理由があればと言った感じだな。
もう一押しか?
「ライト様、これは勇者の名誉のためでもあるのです。これだけ探して町に勇者がいないとなれば、逃げ出したのではないかと噂されます。しかし、死体が見つからなくてもダンジョンで名誉の戦死をした事にすれば、まだ勇者も報われます」
「ですが、嘘をつくというのは……」
「そうではありません。勇者が逃げ出していない事をライト様が信じてあげなくてどうするのですか? 行方不明になった勇者の事をライト様はあまり良く思われていない様ですが、これくらいは信じてあげましょうよ」
これで、何とかならないだろうか?
俺が思いつく限りの全力の言い訳を女聖騎士にぶつけてみた。
すると、彼女はハッとした感じで答え始める。
「!! そうですね。私怨で勇者を悪者にするなんて行いは聖騎士の名折れです。アイス殿の提案通り、ダンジョンの中を探してみましょう」
よかった。
とりあえず、女聖騎士がダンジョン捜索を行うように仕向けられた。
後は……だ。
「ところでライト様。ダンジョンの深層を探すとなると大変じゃないですか?」
「現実的になところで、深層まで行ける冒険者の方々に勇者の痕跡を見かけたら教えてほしいとお願いする他ないです」
「それだと、時間がかかりませんか?」
「ですが、衛兵たちと一緒に探索するにしても第三階層が限度です。ですので、私や衛兵による勇者の探索は事実上の打ち切りになってしまいます」
だろうな。
「それでしたら、私とエイラムさんの三人で以前みたいにダンジョン探索するというのはどうでしょうか? 前は頑張って第五階層まで行けたのです。一緒にダンジョンで修行をすれば、もっと深い階層まで行けるかもしれません」
「しかし、そこまで御二方にご迷惑をおかけするには……」
「いえいえ、町としてもライト様が成長して、もっと強くなるのは大歓迎です。それに、深層の探索で得たアイテムで衛兵たちの装備が強化されるならば尚更です」
「そう言ってくださるならば、助かります」
「本当の事ですので、お気遣いなく」
よーし、上手く行ったぞ。
何としても女聖騎士を成長させて、ダンジョンの第九階層まで到達させなければ。
そして、そこに眠る勇者の死体を見つけさせなければ今回の一件は完全には終わらない。
正当法でやれば厄介な話だが、こっちには魔王の娘が付いている。
そして、俺にもドワーフから貰った強力な装備があるからな。
ダンジョン深層の強いモンスターと戦って無理やり経験を積めば、女聖騎士も早く成長できるだろう。
「それにしても、アイス殿は何故私なんかにそんなにも親切にしてくださるのですか?」
「えっ!?」
不意に女聖騎士から当然の疑問が飛んできた。
こちらの思惑通りに誘導するためとは言え、いささか親切が過ぎたか?
俺としては、町に新しく衛兵を新設してくれた時点で持ちつ持たれつの関係になったと思っているんだがなあ。
「私がこの町に来た時からそうです。住むところを提供してくれたり役目をくれたりと」
「いえ、それはライト様が聖騎士であるからです。この町にもメンツがありますし、聖騎士様を無下に扱う訳には……」
「つまり、私が聖騎士でなければここまで親切にされる事は無かったと?」
面倒な事を聞いてくるなあ。
まあ、事実だし過剰に親切にされる事を不安に思っての疑問と質問だからな。
素直に答えた方が本人も安心する事だろう。
だが、同時に本人の尊厳も傷つける回答になってしまうのが困りものだ。
下手な言い方をすれば聖騎士である事以外には何の価値も無いと言い放ってしまう事になるからな。
良くも悪くも物は言いようってやつか。
「ええ、そうです。ライト様が聖騎士だからこその親切です。ですが、同時にライト様が頑張った証でもあります」
「……? と、いいますと?」
「ライト様が聖騎士になれる程に頑張らなければ、聖騎士としてこの町に来る事もなかったはずです。それに、この町に衛兵を組織したという立派な成果もあります」
「……つまり、巡り巡って私が頑張った成果が数々の親切として返ってきていると?」
「そうです。ライト様の頑張りとその優秀さによるものです。昔の中央での事は知りませんが、今はうちの町がそれが正当に評価されているだけですので、お気遣いなく」
上手く言えただろうか?
良い様に納得してくれるといいんだが。
「分かりました。変な事を聞いてしまって、ごめんなさい」
「いえ、ライト様がこれまで不当に不遇な扱いを受けていた事は察していますので」
「私もこれが正当な評価と言うならば、これからも頑張らないと」
「ここも今はまだ田舎町ですが、将来的にはダンジョンを中心とした発展で中央に負けないくらいの町にしたいです。そのためにもライト様にはこれからも頑張ってもらいますよ」
「はい!」
女聖騎士が元気よく答えてくれた。
やれやれ、この調子でダンジョンの第九階層までたどり着いてくれるといいんだがなあ。
時間稼ぎの目処が立っているとは言え、そう何時までも待てないかもしれない。
──俺も、女聖騎士に負けないくらいに頑張らないとな。




