魔王と勇者殺し その3
俺は衛兵の拠点内を見て回っていた魔王の娘に声をかけ、例の勇者が泊まる宿に向かう事にした。
「早かったね」
「ああ、俺ももっと待たなきゃいけないと思っていたよ」
「勇者の事、他に何か分かった?」
「能力は聖属性の強化だと本人が自称していたそうだが、具体的にどういう能力かまでは分からない」
「それだけじゃあ私にもよくわからないけれど、魔王と敵対しそうな能力って感じはするなあ」
やはり勇者本人に直接会って、能力を見せてもらうか説明してもらうかしないと駄目か。
できれば殺しは勘弁して欲しいが、今のところ魔王の娘が危惧した通りの憶測が合っているからなあ。
第八階層のモンスターを倒せる実力に加えて本当に有害な能力だとすれば、事態は避けられないな。
まったく、困ったものだ。
俺と魔王の娘はダンジョンの正面入口から近くの街に到着する。
そして宿のあるエリアに入り、先程教えてもらった勇者が泊まる宿へと向かった。
「この宿に泊まっているの?」
「そうらしい。だが、本人が部屋にいるとは限らないぞ」
宿の人間に話を付け、勇者の部屋の前まで来た俺と魔王の娘。
そして、部屋をノックすると果たして勇者はそこにいた。
見た目は俺よりも2つか3つくらい年下の男性。
長身で茶色に短めの髪で、頭には鉢巻の様なリボンを巻いている。
多少筋肉質ではあるが、決して膨れているわけではなく細マッチョと言った感じだろうか?
「突然の訪問済まない。私はこの町の町長の息子、アイス・アルデヒドだ。町に勇者様が来ていると聞いたので、色々と確かめたい事があってここまで来た」
「そうですか。こうやって人が訪ねに来てくれるなら、勇者と称えられるのも悪くないですね。僕の前世からの夢でしたし」
「前世……?」
「僕には別の世界で生きていた前世の記憶があるんですよ。そのせいなのか生まれ付いての能力もありますし」
ああ、そういえば勇者ってのは異世界からの転生者だという話だったな。
だとすれば前世の記憶があって当然か。
「んで、その勇者の能力って、どんな能力?」
「あの……彼女は?」
「私の友人だ。気にしなくていい」
「エイラムだよ。よろしくね」
食い気味に能力を聞いてきた魔王の娘に、勇者は多少どぎまぎしている。
「実は君の勇者としての特殊能力を知っておきたくてここまで来たのだ。町を管理する者として、ダンジョンに出入りする勇者の事は知っておきたくてな」
「そういう事ですか。ならば、お教えしましょう。僕の勇者としての能力、それは聖属性の強化です」
「……は?」
「だから、聖属性の強化。それが僕の能力です」
それは知っているんだよ!
もっと具体的に説明しろ!!
「あの、それじゃあ分からないんだが。もっと何か例を出して能力の詳細を教えてくれないか?」
「そうですね。では、これを見てください」
そう言って勇者は腰に差していた剣を鞘から抜く。
そして、抜いた剣を見るとそれは木の剣であった。
女聖騎士が使うものと同じだ多分。
「この木の剣を見ていてください。今からパワーアップさせますから」
「あー、それ知ってる。エルフの魔法でしょ?」
「済まないが私も知っているんだ。その木の剣を魔法で金属製の剣に変えるのだろう? 町に来ている聖騎士が使っているからな」
「ご存知でしたか。この神樹で作られた武器や防具を強化する魔法、聖属性なんです。だから、僕がそれを使うと聖騎士なんかとは比べ物にならないくらい強くなるんですよ。ほら、こんな風に」
勇者が魔法で剣を強化する。
すると、木の剣だったそれは美しく光輝く光の剣へと変化した。
見た目だけなら、間違いなくあの女聖騎士が使うものよりも数段強そうだ。
「成る程、この武器でダンジョンの第八階層のモンスターを?」
「一撃ですよ。本当はもっと下層にいるより強いモンスターで試してみたいのですが、一人だとダンジョン探索が進まなくて」
「へー、強いんだ」
「それで、ダンジョン内で他の冒険者に付いて行ったと」
「勇者の僕と一緒に冒険するメンバーを探していたんです。でも、そうしたら何時の間にか一人で第八階層に行ったって噂が広まってしまって。そのせいなのか誰も僕と組んでくれなくて困っているんです」
あの二人に仕組まれて、悪目立ちした自分たちの代わりの有名人に仕立て上げられたんだから当然の結果か。
ある意味不運だが、それも仕方ない。
「あの……さっきから、僕の事お詳しいんですね」
「えっ、ああ。君の居場所を探す時に色んな人から話を聞いて知ったんだ」
いかん、怪しまれてしまったか!?
「有名税ってやつですか。僕は勇者だから仕方ないですね」
勇者は嫌がるどころか、逆に嬉しそうに答えた。
こいつ、自分の立場に酔っているタイプだな。
「僕は前世で魔王を倒して世界を救う勇者に憧れていたんです。だから、こんな能力を持って生まれたんだと思います。ですが、この世界は平和で能力を持て余してしまって」
「ふーん、そうなんだ」
勇者の奴、よりにもよって魔王の娘の目の前でとんでもない事を言いやがった!
魔王の娘も目が笑っていない。
ああ、こいつは終わったし、消されるのは確定だ。
──だが、今ここで殺るのは困る。
魔王の娘も、折角育てた町を壊すなんて真似はしないと祈ろう。
「そんな時、この町に派遣された聖騎士の報告がありまして、聖騎士でも苦戦しそうなモンスターがいるならと、こんな田舎町まで来てみたのです」
「そ、そうなんですか……」
田舎町で悪かったな。
しかし、強さに自信がある上であの能力ならば、もしかして本当に魔王を倒せたりするのか?
それならば、いっそ町を裏から支配している魔王を倒してくれ方が長い目で見ればいいのかもしれない。
だが、魔王の娘を見ると微塵も怯えている様子が無い。
珍しく真剣な目こそしているが、あれは俺が見ても勝てると確信している顔だ。
魔王の娘にその程度だと見なされている時点で、あの勇者が魔王を倒すのは夢のまた夢だな。
「それで、さっきも話した通りパーティーメンバーが足りないので、せめて町に派遣されている聖騎士を連れて行こうとしているのですが断られていて。町長の息子さんからも彼女を説得してもらえませんか?」
そいつは別の意味で無理な話だな。
あの女聖騎士には肝心のダンジョンを探索する能力が足りない。
それを自覚している本人が断るのも当然だ。
「ちょっと、アイス殿に迷惑をかけるなんて何をやったのですか!?」
噂をすれば何とやらで、女聖騎士が突然部屋に飛び込んで来た。




